13-5 故郷へ
13ー5 故郷へ
「あら、サイナス辺境伯ではありませんか?」
俺の背後から声がして振り向くと、そこには、笑顔の母様が立っていた。
「このような場所であなたにお会いできるなんて珍しいことですわね」
「本当に」
父様も一緒だった。
「こちらの美しいレディはあなたのお知り合いですか?よかったら、ぜひ、ご紹介願いたい」
「いや」
サイナス伯は、一瞬考え込むような表情を浮かべた。
「私も、今夜、初めてお会いしたばかりなんです。今、ダンスを一曲お誘いしようかと思っていたところです」
「まあ、素敵!」
母様が微笑んだ。
「ぜひ、こちらの方と踊られる前に、私とも一曲踊っていただけませんこと?」
「よろこんで。レディ コンラッド」
2人が躍りの輪に加わるのを見送ってから父様がニッコリと微笑んだ。
「あの人は、唯一、お前のことをよく知る人でもあるからね、メリッサ」
「うん・・」
俺は、頷いた。
父様は、俺にお辞儀をして見せた。
「私と踊っていただけますか?レディ」
俺は、満面の笑みを浮かべた。
「もちろん、喜んで」
父様と母様、それにアル兄たちのおかげで、その夜は、楽しく過ぎていった。
年の変わる季源節の頃、俺は、アル兄の招きで久しぶりにコンラッド領に帰郷した。
本当は、社交界の付き合いをしなくてはいけないんだが、そこはそれ。
ばあちゃんには、社交界の付き合いで招待されたと伝えたし。
アル兄は、将来有望な青年だしな。
懐かしいコンラッド領の景色が広がるのを見て、俺は、涙が出そうになるほど嬉しかった。
馬車は、子供の頃から俺が暮らしたあの屋敷へと続く道を進んでいった。
ところが。
コンラッド屋敷の前には、見知らぬ馬車が止められていた。
その馬車の紋章は、サイナス辺境伯の家紋だった。
なんで?
俺は、小首を傾げてアル兄を見た。けど、兄さんも訝しげな表情を浮かべていた。
だけど。
今の俺には、そんなことどうでもよかった。
コンラッド屋敷の前で父様と母様が俺の帰りを待っていた。
おれは、馬車が止まるなり飛び降りて、母様と父様の方へと駆け出した。




