2-6 噂って、どの噂のことですか?
2ー6 噂って、どの噂のことですか?
「今日は、サイナス辺境伯のもとに用があったのですが、ついでに、この冬にある私の20才の誕生日パーティーの招待状をお届けに来たのです」
シュナイツが俺に意味ありげな眼差しを送ってきたので、俺は、ひきつった愛想笑いを浮かべた。
父様が俺の方を見てから口を開いた。
「せっかくのご招待だが、まだ社交界デビューは、メリッサには早いのではないかな?ご存じの通り、この子は、まだ、10才ですからな」
「しかし、私の誕生日ですし、なによりも父王がメリッサに会うことを望んでいるのです」
「国王が?」
父様が眉をしかめた。
「なんで、また?今まで、会おうともしなかったお方が」
「父王は、最近、メリッサの噂をお聞きになって、興味を持たれて、ぜひ、会いたいと望んでおられるのです」
俺の噂?
俺と父様とアル兄は、無言で視線を交わしあった。
どういう噂だ?
サイナス辺境伯領との境界にある森に住む魔物のグレイベアを1人で3頭狩った時の話か?
それとも、イリエスタ伯爵領から逃げ出した奴隷たちをかばった時に、難癖つけられて攻め困れたときに、クロと2人で伯爵の自慢のゴーレム軍を退けた時のことか?
それとも・・
俺が、頭を悩ませていると、シュナイツが笑顔で言った。
「あと、アルム殿も、ぜひ、ご一緒にともことです。なんでも、最近、あなたたちが売り出したカードゲームの話を聞きたいとかいうことなので」
なるほど。
シュナイツのその話をきいて、俺は、納得した。
最近、『アルとメル商会』から売り出したカードゲーム『魔法使いと謎のダンジョン』は、カードに魔力を閉じ込めていて対戦時には、ちょっとした模擬戦のように戦いを楽しめるといって人気のゲームだった。
この娯楽の少ない世界においては、画期的な玩具だった。
というか、子供だけでなく大人たちも夢中になっていた。
そうか。
国王にもその噂が届いているのか。
それで、『アルとメル商会』の俺たちを呼び出して謁見しようとしているということか。
俺は、少し、ホッとしていた。
よかった。
はやく、シュナイツのもとに嫁入りせよとかいうことでは、なさそうだ。