2-4 金の鬼姫
2ー4 金の鬼姫
俺は、この辺りでも有名な美少女といわれている。
金の糸のような美しい髪。菫色の瞳。愛と美の女神の加護を受けた整った容姿。
自分自身でも、はっとすることがあるぐらい綺麗だ。
5才になる頃には、すでに婚約の申し込みが殺到していた。
だが、父様がすべて断っていた。
理由は、俺が、かわいいからというだけではなかった。
俺は、10年前にクロと一緒に父様と母様に拾われて養女になった。
俺の本当の両親のことは、何もわからない。
だが、2つだけ、ハッキリとしていることがあった。
それは、俺がハーフエルフだということ。
そして、聖獣の加護を持っているということ。
エルフは、このアルゴス大陸にはいない種族だ。
血族を重んじるエルフがハーフエルフとはいえ、なぜ、俺のことを捨てたのか。
それは、本当に、謎だった。
だが、俺の守護であるクロもその辺りは、まったく知らなかった。
こんな怪しげな身の上の俺を引き取って育ててくれている両親には、感謝しかなかった。
そして、俺を妹として受け入れてくれているアル兄にも。
アル兄は、英雄の星を持っている数少ない人間の内の1人だ。
だが、アル兄には、剣の才能も魔法の才能もなかった。
兄さんは、商業の神ヘルエルの加護を受けた鑑識のスキルの持ち主だった。
今年で14才になるが、その鑑識の能力は、かなりのチートだった。
そのおかげで、俺たちは、この年で商会を興し、商業ギルドでも有名な兄妹となっていた。
俺たちは、カードゲームを作って、売り出していた。
最初は、トランプを作って売り出した。
それは、あっという間にこの国でも、人気の玩具になった。
俺たちは、トランプの遊び方についての本も出版したが、それは、大ベストセラーになった。
今は、カードバトルの楽しめるカードを売り出し、バカ売れしている。
父様も、驚きを通り越して、呆気にとられている状態だった。
「お前たちの時代になれば、この領地も、驚くようなことになるのかもしれんな」
父様は、言った。
俺の婚約を父様が断っていたのは、このこともあった。
俺と、アル兄は、最強のバディだからな。
だが、どうしても断ることが難しい相手からの婚約の申し込みが来てしまった。
それは、このアルゴス大陸でもっとも大きな国であり、父様の主君でもあるイーゼル王国からの申し込みだった。
俺が9才のときに、突然、国から使者がやってきて、父様に俺と第3王子であるシュナイツとの婚約を命じてきた。
もちろん、俺が養女であることぐらいは、むこうも調査済みだろうが、俺が、ハーフエルフであることは、知らないはずだった。
父様は、悩んだ。
これは、断ることができない申し込みだった。
これに答えを出したのは、驚くことに、あのクロだった。
「形だけ、婚約すればいい。そして、向こうから婚約を破棄させればいい」
なるほど。
俺たちは、みんな納得していた。
なにしろ、俺は、近隣に有名な美少女であると同時に、名高い暴れん坊でもあった。
剣の腕前は、父様譲りだし、魔法は、先生も裸足で逃げ出すぐらいのものだった。
ついたあだ名が、『金の鬼姫』だった。