神秘
ふと…あの時の事を思い出す。
あの金貨泥棒の事を…
なぜなのだろう?
頭がボーっとして遠くを見つめてしまうのは…。
自分はこの世界にいすぎておかしくなってしまったのだろうか。
そんな事を考えながら窓から少し外を見る。
「ほら、ユウキちゃん、こうやってこうするの」
今現在、先輩に化粧の仕方を教えて貰っている。
少し…少しだけ…興味を持っただけだ。
それにしても奥深い…ここまで工程があるとは。
しかもこれが基本というのだから。
ここの男性達と地球にいる女性達はすごい。
これを毎朝行っているのだから。
下地やらファンデーションにアイブロー、アイシャドウにアイライナー。
マスカラ、チーク、そしてリップ。
ここまで並べると何かの呪いのように聞こえる程だ。
「動かないでね…ほらできた。
可愛いーー!!
これで、ユウキちゃんの好きな女性はいちころね」
先輩はそう言い鏡で化粧された自分の姿を見せる。
……ちょっと……いいかも……
この世界に長く留まり過ぎたのかもしれない。
ユウキはそんな事を思いながらも熱心に聞き化粧の勉強に励んだ。
痛い…
まただ…最近、頭痛がする、それとイライラ。
心を安定させずらい。
何か変な病気にかかったのだろうか。
ふと見ると先輩が何かを食べていた。
黒いかけらだ。
「先輩、それ何を食べてるんです?」
「ああ、これ?
ダークチョコレート。
ほら、もうすぐ私あの日なのよ。
だから、今のうちから体に良いもの食べておこうと思って。
これ食べるとかなり楽になるの」
「あの日?」
ユウキが聞くとダークチョコレートを食べ終え言った。
「もう、察しが悪いわね。
男の娘の日よ」
は?…………
ポク…ポク…ポク チーン
頭の中で木魚の音が鳴り響いた。
ああ、祭りかなんかでしょう。
「なんですか? それ」
その質問に先輩は物凄く驚き心配そうにユウキの手を握った。
「えっ…えっ…えっもしかして…親御さんは亡くなったって聞いたけど。
…まだ一度も来てないの?」
先輩は困惑するユウキを真剣に見た。
「ふぇ?……」
「だとしたら、お医者さんに診てもらった方が良いわ。
その年で来てないのは異常よ」
「へ?……」
そんな事言われても……てか、何言ってんだ?
そして更に続く言葉はユウキを震撼させた。
「今すぐ行きましょ。
子供は産みたいでしょ?」
ボンッ
ユウキの思考は停止した。
ん?…気のせいだろうか……。
なんだかアホな会話をしているような気がする。
「えっと、子供?…ですか?」
いやー、勘違いだろう。
気のせいか、頭痛のせいか、イライラのせいか、男性である自分が子供を産むと言うふうに聞こえる。
「そうよ、子供よ」
「え?…」
要領を得ないユウキを見て先輩は、はっきりと言う。
「あなたの産む子供よ」
笑うべきだろうか…。
てか…産みたくねーーーーよーーーーーー!!
いやいや嫌…先輩がジョークを言ってる。
もしこれが本当の話ならば、どうやって男が産むと言うのか…馬鹿馬鹿しい。
「えっと、子供って女性の方から産まれるんじゃあ」
そう言うと先輩は頭を抱え、天然記念物でも見るかのようにユウキを見た。
「んー、ここまでとは…」
そこから、先輩による保健体育の授業の様な話が淡々と続いた。
簡単に言えばこうだ。
地球で起こっていた女性の現象がこちらでは男性に起こると。
「それじゃあ、どうやって産むんです?」
「そりゃあもちろん、魔術助産師に手伝ってもらって…。
言葉にできないほど辛くて痛いわよー」
どこで魔法使ってんだ!?
これまで魔法なんて見も聞きもしなかったのに……ここで初めて聞くなんて。
いや…連れ去られた時に……。
まあ、今はそんな事はどうでもいい。
これは、まずいと捉えるべきだろうか?
ないない ありえない
俺、ここからしたら異世界から直接来たわけだし…おら地球生まれだし 大丈夫じゃね。
そうユウキは思い先輩の医者の誘いを断り
その日は仕事を終え宿に帰るとまだ頭痛とイライラがあったので早めにベットで眠りについた。
…
翌朝…それは唐突に起こった。
腹痛…内蔵がよじれ 潰され引きちぎられるような痛みが続いている。
さらに腰が痛い。
体に濡れたものを纏っている様な冷えを感じ、頭痛も続いている。
体も重い。
下半身でドロっとした物が落ちる感覚がユウキをさらに襲う。
あれっ?……なんだこれ………。
「ぎゃあああああああああ!!」
神め! 俺の体に何しやがった!!
俺が何をしたと……ちくしょー!
これではギルドの仕事も出来ない。
最悪の気分だ……。
世界を呪いたい…そんな気分になる。
なんと重い十字架を背負って生きているのだろう。
これが先輩の話によれば一月周期で来ると聞く。
金が無く休んでいる暇などこれっぽっちも無いというのに……。
ユウキはその日ベットの上で楽な姿勢を探しじっと動かず考え思う。
地球の女性達の痛み、そして布こそが人類において一番の発明であると悟った。
その後もその症状が2日続き、ようやく動けるようになってからギルドの仕事へとユウキは向かうのだった。
読んでいただきありがとうございました
m(_ _)m