76 歓迎
アルフレッドとヘレナの一騎打ちの後一行はブラックハウンド討伐の報告をする為ギルドへと向かっていた。
ギルドが見えた時ユウキはある人影を見つける。
「ユウキさん!!ご無事で!?
ああ…良かった…」
ティエラだ。
ティエラは全力で走りユウキに近づくとこれまた全力でユウキに抱きついた。
「……ティエラくん…?」
「わ…私、ユウキさんが心配で…心配で…」
ティエラはユウキに抱きついたまま瞳に涙を浮かべもう離さないとばかりに力を入れてくる。
俺にそんな趣味はないのだが…。
男に抱きつかれユウキは苦笑いを浮かべながらもそこで涙を流すティエラを感情のまま突き放す事ができず、ティエラが泣き止むまでの間ユウキはその場で石像の様に固まり続けた。
ティエラが離れるまでかなり時間がかかると見てジェスチャーでヘレナとカルブにギルドでの手続きを任せる。
ヘレナはそれを見て頷くとカルブを連れギルドへ入っていった。
シーフもまたいつの間にか離れ遠くで壁によりかかりこちらの様子を見ている。
この場にはティエラとユウキそしてそれをずっと睨み続けるコトミだけが残された。
…
ティエラがようやく満足し離れ少しした頃。
ユウキ達はどこか不機嫌そうなコトミに連れられとある場所に来ていた。
そこは王都3階層、レジェンダリージュエルズのホームがある階層だ。
ブラックハウンド討伐へ向かう時にコトミが話していたタダで泊まれるいい宿…がここにあるらしい。
きっとコトミは騙されているに違いない。
「全く…」
「なんスカ?
ため息なんかついて…ため息付きたいのはこっちッスよ。
私以外の人とあんなにいちゃいちゃして…」
「べっ…別に好きでやったわけじゃ無い!!
それにティエラは男だ!」
ふーんと横目で見るコトミに気をやりながら今目の前にある問題に目を向けた。
ヘレナはこの場所に覚えがあるらしくなるほどと小声で呟き考え事をしている素振りを見せる。
宝石が散りばめられた扉…。
もしここが宿だとすればかなりお金を取られるだろう。
おそらく今回のブラックハウンドの報酬を全部持ってかれる程の。
俺は緊張を感じながらも勢いに任せ扉を開け放つ。
するとその瞬間パァッンと音が鳴り花吹雪が宙を舞った。
『レジェンダリージュエルズのユニオンホームへようこそ!!』
多くの人…様々な種族の人達が何故かそこに集まり自分達を見ていた。
何かの間違いか…。
そう思っていると奥に知った顔があることに気づいた。
オウカ…ブラックハウンドに襲われた際、王都から村に駆けつけてくれた人達のリーダーだ。
オウカは近づき俺ではなくヘレナの前で止まる。
「そろそろ来る頃だろうと思って準備させてもらったよ。
皆揃っていることだし改めて挨拶をさせてくれ。
ここでレジェンダリージュエルズのユニオンマスターをやらせて貰っているオウカだ。
此度はよく我らがユニオンに加入してくれたね。
歓迎するよ」
「そういう事でしたか」
ヘレナには何がなんだか分かったみたいだったが俺は何も分からなかったが取り敢えず歓迎を甘んじて受け入れ美味しい食事をごちそうになった。
辺りを見渡すとヘレナはオウカと酒飲み比べを挑まれカルブは受付カウンターにいる男の受付さんと話をしている。
シーフは手当たり次第に魔法使いの格好をした者達を一人ずつ捕まえては何かを聞いていた。
かく言う自分はまるで猛犬の様に周りに近づく女性を睨みつけ近づけさせないようにしているコトミと共に食事を堪能している。
中にはそれでも話しかけてくる女性は多いが、コトミのおかげであまり話しかけられず食事ができているのは事実だ。
そんな中一人…異質な存在感を放つ老婆がいる事に気づいた。
あの人も冒険者なのだろうか…。
俺がそう思いその老婆を見ているとその事にすぐ気づいたのか向こうから近づき俺を囲う女性達を押し退け目の前の席に座った。
押し退けられた女性達は喧嘩腰で老婆の姿を見たがそれが彼女と気づくと何も言わず去っていく。
どうやらこのユニオン内でもかなり上の人物らしい。
「私に何かようかね?」
「いえ…何も…。
ただ…貴方一人だけが目立って見えたもので…」
そうして話をするうちに分かった。
彼女の名はザワン。
S級冒険者で第一席。
つまり彼女が冒険者の中で一番の実力者と言う事になる。
だが…冒険者にしては武器などは一切持ち合わせてはいなかった。
…
王都のどこか…。
その薄暗い部屋の中で女性の話し声が聞こえる。
一人は仮面を被った女性の物。
いつぞやの偽勇者だ。
彼女は震え頭を下げたまま顔を上げようとはしない。
「それでぇ?
その話は本当の話だろうなぁ」
声の主の姿はカーテンの様な布で隠れている為、姿は見えないが確かにそこにいる。
ケイオスファミリーのユニオンリーダー。
名は分からないが仲間内でゴッドマザーと呼ばれている存在だ。
もし言葉を間違え彼女の気にでも振れれば自分は間違いなく消される事だろう。
偽勇者は紙に書いた絵を見せ頷く。
「はい、確かに間違いありません…」
「パラダイスハニーでの失態は許されぬものだが…。
喜べ…お前の首の皮一枚繋がったぞ?」
「あ…ありがとうございます…」
ゴッドマザーは飲み物をクイと飲み話を続ける。
「その男をどんな手を使ってもいい。
ここに捕まえてこい」
「はい…この命に変えても必ず…」
その回答が正しかったのか分からないがゴッドマザーの薄っすらと見える影が動きカーテンの向こう側でニヤリと笑った気がした。




