75 負けられぬ戦い
野次馬が輪を作りこちらの様子を伺っているのを見てユウキは思う。
なぜこうなったのか…と。
今、目の前で勇者アルフレドっとヘレナが互いに剣を抜き構え睨みあっている。
「アル…。
貴方にユウキを任せられません」
「ヘレナ…。
もう昔の私とは違う、以前の様に勝てると思わないほうがいい」
ユウキをかけた一騎打ち。
ユウキに想いを告げたアルフレッドがヘレナに決闘を挑んだのだ。
今にも始まりそうなほど張り詰めた空気が辺りを包む。
これは…私の為に争わないでとでも言えばいいのだろうか…。
それにしても…アルフレッドの言っていた話しは少し間違いがある。
まず確かにあの時アルフレッドをアンジュが殴り気絶させたがあれは一目惚れの衝撃ではなく鈍器で殴られた衝撃だし…。
その跡、申し訳ないと思い部屋まで運び確かに看病したが…あれはほとんどコトミがやってくれた事だ…。
そんな事を思い止めようかと迷っているうちにその時は来てしまった。
始めに動いたのはアルフレッド。
彼女は手の平をヘレナに向ける。
「これはお前を超える為に手に入れた力だ」
そうつげた瞬間ヘレナが後ろへとまるで何か巨大な物…透明な自動車にでもはねられたかのように吹き飛んだ。
野次馬はヘレナにぶつかり割れそれを見た他の者達は危険を察知したらしく彼女らから距離をとる。
「ヘレナ!!
いつもお前はそうだったな!
私が愛した者達をお前はいつも奪った!」
アルフレッドはそう叫び剣を握りしめ震わせる。
だが…ヘレナは服についた埃を払いながら戻ると首を少しかしげアルフレッドを見た。
「なんの話だ?
全く身に覚えがないのだが…」
「嘘をつくなヘレナ!!
その証拠に私が愛を囁やいても彼らはこう言う。
私はヘレナさんが好きだから…。
ってな!!
いつもお前はそうだ。
剣の腕といい…いつもいつも私の前にいる。
私はお前が目障りで仕方がなかった!!
やっと私が勇者になりお前を追い抜いたと思ったらこれだ…。
今日こそ私はお前を超えてみせるぞヘレナ!!」
完全な逆恨み。
ヘレナはそんな同仕様も無い理由に呆れため息をつく。
「あのな…アル…。
別に私はそんなつもりじゃ…」
ヘレナがそう言い切る前にアルフレッドの剣が振るわれる。
ガキン
金属のぶつかる音…。
音がした場所を見るとアルフレッドの両腕の振りに対しヘレナは片腕で持つ剣で受け止めている姿が見えた。
決してアルフレッドが弱いわけじゃない…。
その証拠に二人の周りの砂が二人を避けるようにサラサラと離れ確かに微かだが風を感じた。
「アル、これは決闘だ。
本気を出さなければ君の名誉と家に泥を塗ることになる。
それに…ユウキを賭けた戦いとなると…。
悪いが…本気でいかせてもらう」
ヘレナは片腕に力を入れアルフレッドの剣を即座に弾くと仰け反った姿勢になったところの横腹に蹴りを打ち込んだ。
すると先程のヘレナの様に今度はアルフレッドが横へと野次馬に突っ込み視界の外に消えた。
まだヘレナは光を纏っていない為本気では無いのだろうがそれでも痛そうだ…と言うか怖い。
魔物相手だと頼もしく感じるのだが人となると急に恐怖を感じる。
怒らせないように気をつけねば…。
ユウキはヘレナの後ろ姿を見てそう心の中で静かに誓った。
アルフレッドが吹き飛ばされた方を見るとどうやら横腹を抑えながら歩いて来るのが見える。
どうやらまだ戦うらしい。
「女には…負けられない戦いがある…その内の一つが今この時っ!
愛する男の前で戦っている時だぁーー!!」
アルフレッドは引きずっていた剣を再び構え走り出しヘレナに真正面から挑む。
それに対しヘレナは応え剣を前に構えた。
それからは幾度となく続き金属がぶつかり素人目では判断がつかないのだが火花も散っている様に見える。
速度は徐々に加速しそれに比例し激しさも増していく。
そのせいか、俺の目ではもはや二人の剣を構えたり斬る動作はもう見えない。
ここにいる二人には見えている様だが…。
「おーー先輩見ました!?
今の動き!
まるで時代劇を見てるみたいっすね!!」
「凄いです…ヘレナさんも凄いですけどアルフレッドさんも負けてないです」
コトミとカルブはそう称賛し目を離す事なく見ている。
きっとコトミ達にはあれがスローに見えているのだろう。
視線を決闘の場に戻すと動きがあった。
それはアルフレッドの力。
これまで見たところどうやら何か物を飛ばす力の様だがヘレナも警戒しているらしくアルフレッドが手の平を向けると即座に攻撃を中断し身をかがめ手の平の射線に入らない様に徹底している。
長い戦い…恐らくヘレナが相手をなるべく傷つけず決着させようとしている為に長引いているのだろう。
その証拠に剣での攻撃は例え相手に空きがあろうとも剣へと吸い込まれるように当たっている。
そんな試合にコトミはあきたらしくあくびをし少し考える素振りを見せると悪い笑みを浮かべユウキと戦っている二人を見た。
「先輩!!
今こそメイクアップっすよ!!」
「は?
なんでメイクアップ…?」
俺はそう呟きコトミを見ると笑っている事に気づいた。
こいつのこの笑みはイタズラをする時の………。
だが時遅く、ユウキが気づいた時にはすでに服が薄れ始めていた。
こんな街のど真ん中で変身だと!?
「おい!!お前!
はめやがったな!!」
コトミを掴もうとするが変身が始まってしまっている為、体は自由に動かせずそれどころか勝手に動き始める。
ユウキは産まれたままの姿となり徐々に体にサイズの合ってない魔法少女の服が現れ勝手に身に着けさせられ最後にはステッキを持ち決めポーズをさせられ口を勝手に動かされていた。
「美しき世界の使者!
魔法少女ユウキ!
これでこの星の平和を………。
おい…覚悟はできてるか?」
「やだなぁ…先輩コトミジョークってやつじゃないっすかーーあはは…」
ユウキは笑顔でコトミを見たまま固まりふざけた魔法の呪縛から開放されると即座に逃げようとするコトミの両側のほっぺたを両手で同時につまみ強く引っ張る。
「やめてくだひゃいセンピャイ…ほんとに悪気は…ぷぷぷ…無くて…」
一方…ヘレナとアルフレッドの決闘はと言うとユウキが変身を始めたと同時に決着がついていた。
一人は立ち一人は倒れている。
立ちアルフレッドを見下げるはヘレナ。
地面に大の字に倒れ血を流しているのはアルフレッドだ。
「なんて剣技……。
……そしてなんてハレンチな技だ。
……ありがとう…」
「そういう技じゃねぇから!!」
幸せそうに鼻血を垂らし倒れながらアルフレッドは悔いはないとばかりに目を閉じ自らの負けを認めこの決闘は幕を閉じた。




