73 蠢く影
皆の無事を喜ぶ村。
その楽しげな声は村から少し先、暗く静かな夜の森の上空からでも聞こえた。
あの洞窟ではナーヴァが何やら本や道具を空中に浮かしかき集めていたのみで特に変わった事は無く。
ナーヴァに今村で起きている事を話すと村まで送り魔物も討伐する事を約束してくれた。
だがもうすでにその魔物の危機は去ったらしく村は平和そのものだ。
村にナーヴァの浮遊魔法で着陸すると女性冒険者が駆け寄ってきて何やらテントまで案内してくれた。
そして現在。
テントに入ってからはまず最初にコトミとカルブのタックルを受けその後ヘレナの説教をくらっている状況に至る。
「なぜ私との約束を守らずに危険な行動をとったのですか!?
もし…貴方に何かあったら…私は…」
正座をし黙りただ話を聞く。
かなり怒っているらしくこちらの言い分は通りそうにもない。
シーフはと言うと深い傷を負ってしまったらしく今は治療を受け寝ている。
ナーヴァが治癒魔法を使えるとの事なので村人達同様すぐに回復するそうだ。
…
「あんた、私を覚えているか」
シーフは藁の上で横になりナーヴァの治癒魔法を受けている時に口を開きナーヴァの顔を見て聞く。
「あいにく人間の顔は皆同じに見えるのでな……」
そう言いながらナーヴァはシーフの顔を覗き込み手を顎に当て少し考える素振りを見せた。
「ふむ…いや…覚えている。
確かお前は教国にいた小僧だな?
あの小さかったお前がなぁ…。
やはり人間は成長が早い。
それで?お前の探し求めていた魔法は見つかったか?」
「……」
シーフはその言葉を聞き黙り込む。
「死者を蘇らせる魔法…以前も教えてやったがそんな都合のいい物は存在しやしない。
もしあるのならあの魔導王様が自らに使っているはずだ。
それに、そんな魔法……仮にあったとしても求めるもんじゃないよ」
ナーヴァはそう言い終えると負傷した村人達が寝ている場所へと歩いていく。
「まあ私には関係の無い事だお前の好きにすればいい」
と言う言葉を付け加えて。
…
「さて…」
コトミとカルブが少し離れた場所で眠っている事を確認し
ユウキは本を取り出す。
それは魔導王が書いたと思われる本。
ナーヴァが洞窟で調査を進めている間にこっそりと拾った物だ。
流石に全部をくすねる事は出来なかったがこれだけは服の中に隠しもち出すことが出来た。
だがこの本の中に最強の魔法があるかもしれない。
あの威力だけがでかく実質的に使い道がなくかっこ悪いものじゃない魔法が。
そんな本をユウキはろうそくの光で照らし読み始める。
適当に開き見た文を読むとそれは日記である事が分かった。
暗黒歴 3☓☓年
兵器を作ってくれと父上に頼まれた。
この国も危ないらしい。
まだ10歳にもなっていない私に頼るくらいだから相当のものだろう。
それにあの隣国。
機皇国と同名を結ぶとか。
つまり…家同士の繋がりを作ると言う事。
許嫁の存在。
あの機械オタク共の王子と私を政略結婚させる気だ。
控えめに言って反吐が出る。
どんなやつか知らんがろくなのじゃないだろう。
それに私は結婚なんかに興味はないのだから。
一回痛い目を見せてやれば逃げ帰るだろうか?
もしその王子が私の前に現れたのなら魔術研究の実験体に使ってやる事にしよう。
ついでに機械などよりも魔術のほうが優れている事を思い知らせてやる。
それでもし機械のほうが優れていると分かれば取り入れてしまえば良い。
ユウキはくまなく探し読んだが魔法に関しては書かれていなかった。
このページは諦め次へ次へとページをパラパラとめくっていく。
○月☓日
作る気は無かったが流石は私。
無意識のうちに考えていたのだろう。
兵器についてのアイデアが頭に浮かんでしまった。
思ったが吉日。
早速取り掛かることにする。
名はケルベロス。
地獄の番犬だ。
まず初めに作ったが失敗。
これはそもそも犬でもなく猫だ。
知恵を持った猫。
名は黒いからクロと名付ける事にしよう。
○月☓日
クロだが…。
こいつに力は無いが知恵はかなりいい。
驚くべき事に人語を数日で理解し私のコレクションの魔導書と私の実験書を読み漁り始めた。
理解が早い。
天才猫らしい
こんな生物を生み出すとはさすが私である。
○月☓日
漆黒の獣 (仮名)
漆黒の…いや終末の…いや…。
迷う…取り敢えず詠唱単語帳に加えておこう。
この作り出した獣の特徴はちょうどこの窓から見える暗き昼空の様に黒いと言う点だ。
以前作ったクロと比べると天と地程の差が出るが多少の知恵はあるらしい。
しかし…ペットとしてはいいが当初考えていた兵器としてはインパクトが足りない気がする
こう大きさが。
全く魔法の事は書かれていない。
ただの日記だ。
書かれている事に興味はあるがそれが目的ではない。
「いったいどこに書かれて…」
ユウキは続きを読見進める…。
だが次の文にはこう書かれていた。
ところで…このページのこの文を読んでいると言うことは貴様。
私では無いな?
誰かは知らんが乙女の日記を盗み見るとはいい趣味とは言えないな。
とりあえず私が最近開発した魔法の実験台となるといい。
「バインド 『拘束せよ』」
そう書かれている文を読んだ時。
ユウキ嫌な予感を感じ慌てて本を閉じ投げ捨て逃げようと立ち上がろうとする。
だがどうやら遅かったらしく本は逃がさんとばかりに突如光と共にひとりでに開かれる。
ユウキが一歩踏み出す前にその本の中から幾つもの鎖が飛び出しユウキを襲う。
結果…
ユウキは早朝、コトミとカルブが気づき解くまでの間。
ぐるぐる巻きの芋虫状態で放置される事になった。
…
月明かりに照らされる廃都市オリヒオ。
その都市にある広場。
コトミとカルブが戦った戦場。
そこには数多くのブラックハウンドの死骸が横たわっているはずだ。
だがそこには骨どころか血すら残らず消えていた。
一人の影。
その何者かは屋根の上に立ちその広場を眺めている。
すると眺めている奥より一人の女性がスタスタと暗闇の奥より現れた。
「本当にここにあるんですかぁ?」
広場を歩く女性は屋根の上に立つ者に向かい聞く。
「ここにあるはずだ。
私はここで生まれたんだ間違いねぇよ」
「まあ怖いお姉様は怒ると周りが見えなくなってしまいますし目覚められたのは数百年と前ですから場所が分からなくなるのは分かりますけどー…。
まさか壊してしまった……なんて事は無いですよね?」
その言葉に顔を背けまるで今の話は無かったかのように愚痴をこぼす。
「ちっ…ブラックハウンド共は少しも役にたちゃしねぇしな」
「それはお姉様が脅したからでしょう?
おかげでここにもともと居た長もここを離れてしまったんですもの」




