72 援軍
決着はついた。
ドスンと大きな音と共に大きな狼の黒い体が崩れ落ちその上からシーフは降りる。
リデルは矢を首に受け横たわるとピクリとも動かなくなった。
シーフは腕の傷を手で抑えふらつきながらもまだ周りにいるブラックハウンドを警戒し弓を強く握りしめる。
だが周囲にいたブラックハウンドはシーフを警戒するのみで襲いかかって来ることは無かった。
そんな一向に近づくことも無い彼らをシーフもまた警戒する。
互いに近づく事もなくただ風が互いの間を駆け抜けるのみ。
それから数秒…先に動き始めたのはシーフ弓を構え矢を引く。
しかし次の瞬間背後より大きくそして慌てた声が聞こえた。
声の主は村長のアイシャのものだ。
「後ろだ!避けろ!!」
そう言われシーフはとっさに後ろに向け振り向きざま弓を向ける。
死んだふり。
そこには死んだと思っていたリデルが目や喉から血を流し醜悪に歪んだ決死の形相で大きく口を開き飛びかかって来ている姿があった。
弓を構えようとするがもう時すでに遅くリデルの牙は例え矢を放てたとしても、もうすでに防ぎきれない程に間合いに詰め寄られていた。
シーフの頭に走馬灯がよぎる。
幼き頃過ごした救いも希望すらも無かった場所なのに何故か懐かしくも思う貧民街の事。
そこで出会った仲間や人との繋がり。
何よりも彼、セレーネとの日常と別れ。
最も愛おしく苦々しい思い出。
彼を救う事のできなかった後悔と絶望。
そして最後にユウキの寝顔が頭に浮かんだ。
シーフが死を悟り目を閉じようとまぶたを下ろす時。
女性の声と風を感じた。
「清水流、戦技 水車」
シーフがその声を聞き目を開くとそこには和服を着た女性がヘレナにひけを取らぬ程素早く動き、手に持つ日本刀をまるで体の一部かのように扱いリデルの首を切り落とす瞬間を目の当たりにした。
シーフはそれが誰か、顔…そしてその頬に描かれた宝石のマーク何よりも彼女の技量を見て即座に理解する。
「お前は…」
彼女の名はオウカ。
レジェンダリージュエルズの盟主でありS級冒険者第四席という実力を持つ王国の冒険者の中では2番目の実力を持つ猛者だ。
そして彼女だけではない。
「オウカ、こっちも片付いたぞ」
「分かった、で?
森側の様子は」
「向こうにも応援を向かわせたが多分必要無かったかもしれん。
何者かは知らんが黒い鎧を着た奴がほとんどやっちまったみたいだ」
シーフはハッとし辺りを見渡すと宝石のマークが入った数十名の者達がブラックハウンドの群れに斬り込み次々と狩っていく光景を見た。
…
ヘレナとカルブが急いで村に戻った時。
戦闘はもうすでに終わっており村には見知らぬ冒険者達がテントを立て村人達に治療と食料を提供している光景があった。
「もう救援が来たのか!?
まだ狼煙を上げてから1日もたっていないぞ…」
だがそんなヘレナの疑問も宝石のマークがテントに付いていることに気づいた瞬間に消えた。
村人がヘレナ達に気づき無事だったかと騒ぐ中ヘレナはテントへと足をすすめる。
皆の無事を確かめるためだ。
だがテントに近づいた時、コトミの大声が聞こえた。
「どうゆうことっすか!?
先輩が村にいないって!!」
ヘレナがテントを覗くとそこにはコトミと村長のアイリーンそれにオウカそして何故か子供達がそこにいた。
「どうした?」
ヘレナとカルブがテントに入るとそれに気がついたアイリーンが二人に近づき少し慌てた様子で現在ユウキが森に向かいまだ戻ってきていない事を話した。
「なに…?」
ヘレナはそれを聞くなり踵を返しテントの外へと向かおうとあるき始める。
「まあ待て」
そんなヘレナに止める声がかけられヘレナはテントを出る直前で立ち止まる。
振り向くとオウカが肩に手を置きまるで品物をを見定めるかの様に目を細め顔を覗きこんでいた。
「お前がヘレナ・ウルティムだな?
噂は聞いている。
お前の強さを疑う訳じゃないがユウキ殿は我々に任せてはくれないか?」
オウカはそう言うとヘレナの肩に置いた手を離し握手を求め手を差し伸べた。
だがヘレナはその手を取らずオウカから目を離し背を向ける。
「気持ちは有り難く受け取らせてもらいますがあいにく私は他者の力よりも自らの力を信じています。
ユウキを守るのは私です」
そしてヘレナは話を続ける。
「それに、あの森の中で妙な物を見つけましたばかりですから」
「妙なもの?」
それは廃都を出て村に向かいしばらく進んだ場所。
そこには数十匹のブラックハウンドの死骸が散乱している。
当然ヘレナやカルブに心当たりはない。
死骸の多くは真っ二つ綺麗に切り裂かれ中にはまるで干からびたかのように水分の消えた死体が数匹転がっていた。
「まだあの森には何かがいるのかもしれない」
ヘレナはそう言い終えた時…外が何やら騒がしくざわつきはじめている事に気づいた。
「外が騒がしいな」
次の瞬間テントの入り口にある布が勢い良く開き冒険者姿の女性が現れた。
「オウカ!
今多分だがユウキとか言う男だったかが空から来たぞ!!
ささ、どうぞ中に入って」
冒険者の女性はそう言うと入口の布を持ちユウキとナーヴァ、二人をテント内へ入れた。




