70 遺品
「んん…」
体が重く動かせずその代わりにか川のせせらぎが聞こえる。
まだ寝てたい…。
なぜか疲労感に襲われそんな事を思う。
だがユウキは強く起き上がらなければ…と言う強い意志が沸き起こった。
故にユウキは眠りたい思いを振り払い瞳をゆっくりと開けそして見る。
そうして目に映ったのは夕日に染まる赤い空と視界の両側を埋め尽くし遥か上空にそびえ立っている崖だった。
「ここは…?」
何処? とユウキが言う前に人の声が真横から聞こえた。
「ん?…もう起きたのか。
私の計算では夜まで気絶しているかと思っていたが、ふむ…」
横を見るとまさに魔ほう使いといった服装を着た女性が何やらメモを取っていた。
トンガリ帽子にローブを着ている…それによく見ると顔が整っており美系そして何よりその耳は尖っておりエルフであると言うことを表していた。
一体この女性は誰なのか…記憶を手繰り寄せ探すが見当たらない。
自分は一体眠りにつく前に何をしてたのだろうか…。
頭にそんな考えが巡るがまるで靄がかかったように見えず思い出す事ができない。
「さてと…」
女性は体を動かせないでいる俺の顔を覗き込むと魔導書の様な本をパタリと閉じ鼻でフッと笑った。
「所でなんでお前は空から降ってきたんだ?
私がいなければ確実に死んでいたぞ。
自殺者…あるいは崖を降りる最中に転落した子連れの冒険家か何かか?
別に答え無くてもいいが多少の興味はある…」
彼女がそう言った言葉…。
降ってきた?俺がこの谷底へ…落ちた?
そう考えが巡った瞬間はっと全てを思い出し、そして慌てた。
「そうだ!女の子は!?」
「慌てるな…お前が抱えてた子は無事だ。
それで?」
そう言いながら彼女は人差し指を立てスイっと動かすと何故か浮遊しスヤスヤと眠る少女の姿を視界まで運んで見せた。
「浮いてる!?」
と言うかよくよく考えれば横にいる女性は立っているにも関わらず自分から離れないし彼女の胸の高さで自分は寝そべっている。
恐らく自分も浮遊しているのだろうその証拠に彼女も自分もどうやら動いているらしく渓谷の壁などの景色が次々と後ろへと遠ざかっていく。
「全く…私の質問にも答えず騒がしい男だね君は…」
横で彼女は空中で寝そべり、これまた何もない空中で頬杖をついた。
「えっと…」
そんな彼女を見て俺はこれまでの経緯を話そうと口を開くがそれに被せ彼女が口を開いた。
「いや…もういい。
やはりこちらのほうが興味深い。
…やはりここにあったか…」
一体何の話かと彼女を見ると自分から目を離し壁を見つめている。
彼女が見る方を見るとそこには巨大な口を開けた洞窟が存在した。
その場で止まり暗い洞窟の中へと彼女を先頭に三人は入っていく。
洞窟の入り口より少し進み彼女は指でパチンと音を鳴らす。
すると体が動きゆっくりと空中から地面に落ちると不思議に自然とふわりと着地した。
少女イエナの方は未だ浮遊しておりスヤスヤとまだ眠っている。
イエナが大丈夫かを確認した後。
ここえ連れてきた彼女エルフの女性を見るとスタスタと足音を立て歩き洞窟の奥へと向かっていた。
ユウキはそれを見て少女をお姫様抱っこする体制で抱えようとイエナに触れると空中からゆっくりと自分の手に落ちる。
どうやら俺が触れたことで浮遊の魔法の効果が切れたらしい。
そんな事をしている間もエルフの女性は振り返りもせず歩いている為追いつく為に小走りで後を追いかけた。
視界は悪く外の明かりはかすれ暗く薄っすらと雑に削られた石の壁や床が見えるのみだ。
ユウキは彼女の横まで移動すると彼女の顔を見て疑問を口にした。
「そう言えば…名前は?なんでこんな洞窟へ?」
彼女はユウキの顔を見ることも無く奥へ奥へと歩き笑う。
「私は魔導王……。
…と…言うのは冗談だが。
私の名はナーヴァだ。
一応、王国魔導騎士長なんて役職を任されている」
そしてそう言い終わると立ち止まり手の平を天井に向け広げると緑色の炎を作り出し辺りを照らして見せた。
「それと…ここはただの洞窟ではないぞ?
…ここはいわば聖地。
私の調べと調査が正しければ恐らくかつては魔導王の実験施設だった場所だ」
緑色の光が照らすそこは先程の洞窟とは違いしっかりとした壁や床がありそして何より様々なフラスコや試験管などと言った実験道具や本が転がり散乱しており。
中央には巨大で割れたガラスの筒の様な物がいくつか備え付けられてある不思議で異様な空間だった。




