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男女逆転から始まる異世界冒険譚  作者: ペンちゃん
69/76

69 統率者

 村に無数の遠吠えが響く。

 

 シーフは森から出てくる巨大なブラックハウンドの姿を目視する。


 「マジか…あんなでけえ化け物だとは聞いてねぇぞ…」

 

 その姿は通常のブラックハウンドの大きさより数十倍ほど大きくもはやそれは同一種かも怪しく見える程だった。

 

 群れの主であることは明白…更には主に追従する狼の姿も普通の大きさよりも巨大な体格をしている。

 

 主はずしりと森から足を踏み出し大きく鼻から息を吸うと混乱している群れに対し遠吠えを行った。

 

 グォォオオオン!!

 

 まるでそれは地響きの様な遠吠え。

 大地がまるで怯え震えているかの様に感じ雷の如くここ辺りの村周辺へとこだます。

 

 次の瞬間バラけた群れの動きが突如として統率力を取り戻し再びブラックハウンド達は攻めに転じ始め。

 更にはリデル個体の周りにいた取り巻き達が走り、それぞれバラけかけた狼達を連れ柵へと迫ってきた。

 

 「これは、まずいな…」

 

 この状況を目視し状況を知るは自分ただ一人。

 

 シーフは苦虫をかみ潰した様な表情を浮かべ悪態をつく。

 

 「クソっ…やっぱ。

 慣れねぇ事はするもんじゃねぇな」

 

 リデル個体…この群れの頭である黒く巨大な獣が最後に走り始め守りの弱い箇所を狙うのを見てシーフは物見やぐらより飛び降りた。

 

 守りが薄く人手の少ない箇所。

 そこにはそれに気づいた村長であるアイシャが数名の村人を連れその場にて物凄いスピードで近づき迫りくるリデル個体に向かい弓の雨を降らせる。

 

 しかしリデル個体にとって矢は何とも無いらしく矢の雨を突っ切りそのまま柵に衝突した。

 メキメキ…と言う木がひしむ音にそれに続くバキッ…と鳴る破裂音。

 

 柵は崩壊し魔物の侵入を許してしまった。

 

 アイシャはあまりの衝撃と砂埃に顔をそらし身をかがめ頭を庇う。

 

 グルルルルル…

 

 アイシャは砂埃が風に消えたと同時に顔を上げ壊された柵を見やるとそこには巨大で恐ろしい魔物の顔が目の前にあった。

 

 シーフは物見やぐらから飛び降りた衝撃を分散させる為に転がり着地。

 そして柵を見やる。

 するとアイシャが今にも襲われそうになっている事に気づいた。

 

 着地し片膝をついた姿勢にも関わらず弓を構えると力強く弦を引き一撃。

 

 魔力を乗せた矢をリデル個体の眉間へと片目を閉じ狙う。

 

 「ふー…」

 

 息を吐き息を止めると不思議に手の振れが止まり弦を引く手を離す。

 その矢は寸分違わず狙い通りにリデル個体へと放たれる。

 

 しかしリデル個体は矢が当たる寸前風を切る音と殺気でそれに気づき目で矢とシーフを睨むと次の瞬間、俊敏に

横へと飛びのき矢を躱した。

 

 リデルとシーフはお互いに見据えリデルは牙と爪をシーフは弓と短剣を携え再びまるで引き寄せあっているかのように互いに走り手繰り寄せられていく。

 

 …

 

 森の葉が風に揺られている音。

 足を地面につけるたびに鳴る枝の折れる音。

 そして自分の息遣い。

 

 ユウキは小さな少女を抱え森の中を走り続けた。

 もうここが何処かなどわかるはずもない。

 ただ今分かるのは森の深くまで来てしまったと言うことだけだ。

 

 後ろを振り向けば最初は一匹だけだったはずの黒い狼も今や数匹となり増えている。

 

 もう捕まるのも時間の問題だろう。

 

 と考えていた矢先木々の隙間から光が差し込んだ。

 

 森の終わり…森から抜け出せる。

 あと少し…。

 

 そうして森を抜けたユウキの目の前には森を裂く底すら暗く見えない巨大な渓谷が広がっていた。

 

 「うわっ!?」

 

 勢い良く森から抜けたため崖ぎりぎりの所で危うく落ちそうになる。

 なんとか踏みとどまり下を見ると小石が落ちて壁にあたり砕ける様子が見て取れた。

 おまけにその小石が落ち下にぶつかる音は聞こえてこない。

 かなり深いようだ。

 もし落ちたら一環の終わりだろう。

 

 ここは危険だと判断し森に再び戻ろうとする…が。

 

 森からはちょうどブラックハウンドが数匹よだれを垂らしながら木々を抜け現れた所だった。

 

 まさに絶体絶命と言うやつだろう。

 

 しかし…俺には最終手段が存在する。

 出来る事なら使いたくは無いのだが致し方無い。

 今死ぬよりはましだ。

 

 少女を落ちないように抱き両手を伸ばしハート型を作る。

 

 確かにこの場はこれで乗り越えられるだろう。

 しかし問題はこれを使用し気絶したあとだ。

 

 俺は数日動けなくなる。

 つまりそれは気絶した跡に魔物に見つかりでもすれば確実な死が待っているという事。

 

 その間…一体誰がこの少女を守ると言うのか…。

 

 「全く…使いづらい力だ…」

 

 構えたがその時、一匹のブラックハウンドがユウキに飛びかかる。

 

 ほんの一瞬の躊躇その一瞬の躊躇が後悔に変わる瞬間はすぐに訪れた。

 後ろへと後ずさりした時。

 足を踏み外し渓谷の高い崖より落ちた事を悟る。

 

 ユウキは少女を庇うように胸に寄せ強く抱きしめ目を閉じた。

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