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男女逆転から始まる異世界冒険譚  作者: ペンちゃん
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67 薬草を求めて

 静かな森の中…少女イエナはたった一人。

 周囲を見渡しながら抜き足差し足でゆっくりと音をたてないように森の深く深くへと進んで行く。

 

 砂利を踏んだ時になるジャリッと鳴る足音、段々と大きくなる自分の呼吸の音…。

 

 普段ならなんの気配りもせず使っていた道が今ではすぐそこの草むらから狼が出てくるのでは無いかと想像してしまうほど恐ろしい。

 

 イエナは恐怖で涙を浮かべながらもそれでもなお拳を握りしめ勇気を振り出し奥へ奥へと進む。

 

 全ては村で母を含む怪我に苦しむ人達の為だ。

 父はおらず母が一人と妹のパルダとで暮らしていた。

 

 しかし今現在、頼もしかった母は寝たきりでいる。

 あんなにも弱々しい母は見たことが無い。

 

 きっと自分が薬草を持ってくれば母さんも皆も元気になってくれるはず…。

 

 「お母さん…」

 

 そう呟いた時…ガサガサと草むらが揺れる音が聞こえた。

 

 「ひっ…」

 

 イエナは音が聞こえた場所から数歩下がりとっさに身を屈ませ近くの木に隠れ影よりそれを見て息を潜める。

 

 ガサガサと揺れる草むらは徐々に音を増し何かが近づいてくる事を知らせていた。

 

 そしてついにそれは草むらを抜け現れる。

 

 「クソ!! 

 ようやく道に出やがった!

 ふざけた森め!

 おい!!早くしろ!奴らが来ちまうぞ!」

 

 出てきた者は冒険者の様に鎧を着た女性と…。

 

 「待ってくださいよ姉御…。

 私はこの商品を運ぶのでもうヘトヘトで…」

 

 商人の服を着た女性が次に草むらからはい出すように出てきた。

 

 「馬鹿野郎!

 そんな奴、放って置いてあの化け物共の餌にしちまえ。

 そうすれば少しは時間が稼げる!」

 

 「そんな姉御、殺生な…もしこいつをゴットマザーに売れば目にした事もないそれこそあり得ないくらいの大金が手に入るんですよ!?」

 

 そう言うと商人風の女は手に持つ鎖を引き草むらから手首を鎖で繋がれた少女を引っ張り出した。

 少女は異常なほどに色白の肌をしており目は遠くからでも分かるほど赤く美しい瞳をしている。

 商人が持つ鎖は少女の首輪に繋がっており少女は引かれるままに抵抗する事もせずそれに従い前に進む

 

 「人攫いだ…」

 

 イエナはそう気づくとすぐさま覗くのを辞め木の裏に顔を隠し草むらから現れた二人が去るのを待った。

 

 「金か…確かにそれは魅力的な話だけどな…」

 

 グルルル…

 

 二人が話していると今来た草むらの奥からまた草をかき分ける音とそして魔物のものであろう唸り声を耳にした。


 「ちっ…、話は終わりだ急げ!!」

 「あっ姉御!! おい!ガキ足枷を外してやったんだから急げ!

 あいつらの餌にしてやってもいいんだぞ!!」

 

 複数の足音がこの場から遠ざかりその代わりに獣のハッハと聞こえる吐息と血と獣の混じり合った生々しい匂いが辺りを包み込んだ。

 

 魔物、ブラックハウンドは数匹…その内の何匹かは彼らの跡を追ったが一匹は首を傾げ辺りの匂いを嗅ぎ離れようとしない。

 

 お願い…早く行って…。

 

 イエナは口を手で塞ぎ恐怖から来る震えと息遣いの音と恐怖をかき消そうと必死に目を瞑る。

 

 怖くない…大丈夫…きっと私には気づかず行ってくれるはず。

 

 自分に言い聞かせ自分を落ち着かせる。

 

 しかしブラックハウンドのまるで獲物に気づかれぬように進む小さな足音と荒い鼻息が自分に近づいてきている事は嫌でもわかってしまう。

 

 スンスン…

 

 鼻息がもうすぐそこ…自分の木の裏手まで近づきもう駄目だと諦めたその時。

 

 ブラックハウンドは何も無かったと踵を返したようで足音が遠ざかっていく。

 

 イエナは十分に距離が取れたと感じその場からすぐさま離れようとし立ち上がると数歩、魔物のいるであろう方角を見ながら木から離れた。

 

 しかし…それが行けなかったのだろう。


 パキッ…

 

 小枝を踏みつけてしまったらしい。

 

 その音でイエナの心臓は飛び上がった。

 

 辺りには静寂が包み込み木々のざわめきのみが歌う。

 

 それを聞き大丈夫だったと、ほっとイエナがため息をついた次の瞬間。

 

 先ほどのブラックハウンドが一匹木の裏手よりぬっと現れイエナを凝視していた。

 

 「はぁっはぁっはぁ…!!」

 

 イエナは走る。

 森の中…道を外れ、道なき道を突き進みただただ後ろから迫る確実な死を感じ。  

 

 自分より背の高い草をかき分け小さな小川で靴を濡らす。

 木々の根は足元を悪くし木の影は恐怖心をさらに煽る。

 

 「助けて…!誰か…助けて…。

 お母さん…!!…パルダ…」

 

 ブラックハウンドは怯えるイエナを狩りで遊んでいるかのようにじわじわと追い詰め退路を断っているのか時折イエナの行く前に出て道を塞ぎ進路を変えさせている。

 

 イエナの心臓はバクバクと限界を迎え息が大きくそして胸は張り裂けそうな程に鈍い痛みと苦しみを小さな体に与えていた。


 もうどれほど走っているのかすら分からない…頭がぼー…っとする。

 

 そんな中をイエナは走り続け気づけば大きな岩に囲まれた袋小路に来ていた。

 

 足を止め恐る恐る後ろを振り返る。

 

 黒く剛毛な毛に包まれ牙を向き。

 ヨダレをたらしその目は狂気に満ちている。


 そこには大きな魔物が小さな獲物を追い詰めたとゆっくり近づいてくる姿があった。

 

 イエナは岩にしがみつきよじ登ろうとする…。

 

 しかし子供には大きすぎそれを登る事は叶わずおまけに滑りやすく足が引っかからない。

 

 「助けて!!」

 

 少女はがむしゃらに手を伸ばす。

 そんな時…岩の上から人影が現れた。

 

 「早く手を握って!!」

 

 ブラックハウンドが慌ててイエナの体に爪や牙を向けると同時に彼女の体は岩の上へと浮上しぎりぎりの所で躱す。

 

 「さぁ!早く逃げるよ!」


 イエナは混濁とする意識の中、抱え上げられ人の温もり…そしてそこからくる安心感を感じ意識を手放した。

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