罠
「ユウキさん…このクエストを受けたいです」
ユウキはあれから夜勤勤務を2日、行った。
そのおかげで仕事、そしてミニスカートに多少なれた…気がする。
今日は朝から仕事をしている。
お金は相変わらずない。
「はい、分かりました。
少々お待ちください」
最近この子をよく見かける。
冒険者は大体がおばさん、若い人もいるがこれ程、若い子は今のところ彼女くらいだろう。
背は低くカウンターにひょっこり顔を出すくらいだ。
名前は、カルブと言ったか。
狼の獣人らしい。
頭についている耳がぴょこぴょこと動き、それと同じように尻尾をブンブン振っている。
ユウキは作業を進める。
「ユウキさん! ユウキさんは好きな食べ物とかってありますか?」
「んー、今は何でも好きかな?
はい、依頼書」
今は金が無く、とにかく食べれる物なら何でもウェルカムだ。
「へー、そうなんだ。
じゃあ花は?」
花?、特に興味は無いが…まっ適当で良いか。
「薔薇…かな?」
「分かった…ありがとー!」
うん、子供は風の子、元気があってよろしい。
こういう子ばっかりならなぁ。
「ユウキちゃん、仕事のあとどう!?
お茶しない?」
すぐこれだ、美人なら別かもだがおばさんは少なくとも俺の中では無い。
「すいません、お金が無いもので、お断りさせて頂きます」
ユウキはしっかり笑顔でそう返す。
「じゃあ、奢って上げるよ。
今日の夜、食事なんてどう?」
ん?、食事……しかもただ!?
どうするか…
金欠の状態、少しでも節約出来るのなら乗るべきか…。
「奢ってくださるんです?」
「もちろん…もちろん奢るよ、ユウキちゃん
だから一緒に行こ」
「それなら、お言葉に甘えて」
ユウキが処理を終え依頼書を渡すとおばさんは興奮した様に驚いた様子で見つめてきた。
「本当!? 約束だよ」
あれ…なんか変な約束したかな…。
そんな事を考えていると隣から声がかけられた。
「ユウキちゃん、あんまりそんな約束するもんじゃないよ」
受付嬢の先輩(男)だ。
「女なんて、顔と体にしか興味が無いんだから。
気をつけなさいよ、今の人だってきっと。
ユウキちゃんをお持ち帰りしようとしか考えてないんだからね」
強く言われた…お持ち帰り?
まさかー…そんな訳ないだろ。
だって、おばさんだぜ。
ないない…ありえない。
気にし過ぎだろう。
きっと初日にあったセクハラ事件も肩がぶつかってしまったとかそんなとこだ。
きっとそうだ。
ユウキはそう思った。
「先輩、たぶん大丈夫ですよ」
ユウキは自信満々に笑ってそういった。
…
仕事も終わり夜。
暗くなった街の中、ユウキは約束どおり待ってくれていた、親切な、おば様と合流した。
服はこれしかないので仕方なくボロボロのズボンと服を着ている。
「ユウキちゃん、お金無いって、言ってたけど、大丈夫?」
おば様はユウキのボロ服を見ながら聞いた。
「すいません、今はこの服しか無くて」
「そう…なら服も買ってあげるよ」
ユウキはこの申し出に飛びついた。
服は今の俺からしたら高価な物だ。
ただなら、断る理由はないだろう。
「ほんとですか!?」
「もちろんだよユウキちゃん」
おば様はそう言うとユウキを連れ服屋まで向かった。
服屋に着いた時、ユウキは自らの誤算に気づく。
しまった…この世界の男性用の服といえば……。
「今、男性におすすめの品はこちらに……」
「それじゃあ、このスカートとそこの服をください」
ユウキはその店の奥の部屋で着替えさせてもらい、悲しくもふりふりのスカートと服を着る羽目になった。
「に……似合ってますか?」
ユウキは固まった笑顔でそう聞いく。
おば様は頷きユウキを見た。
「もちろん、ユウキちゃんは何着ても似合うよ」
ユウキは不快だと表情は見せず食事代の為、笑みを続ける。
…
そうしてユウキ達は店についた。
「さあ、どうぞ」
おば様は扉を開けユウキを先に店に入れる。
「ありがとうございます」
ユウキが入ると一斉にそこに居る客達がユウキの顔を見た。
ほとんどがギルドで見た顔だ。
ユウキが入ると騒ぎ、それに続いておば様が入った瞬間更に騒ぎが大きくなった。
「嘘だろ…なんであいつと」
「一体どうやってユウキちゃんと…」
「あー、腹が立つ、羨ましい」
雑音の波でユウキには聞き取れない。
そこの料理はとても美味しかった。
というのもここ最近まともな食事などありつけていないので当然と言えば当然だが。
「ユウキちゃん、よく食べるね……」
何故か少し引き気味で言ってくる。
「はい、全く食べてなかったもので」
ユウキはそんな事は気にせず胃に食べ物を詰め込めるだけ詰める。
ただほど美味いものは無い。
こんなに食べているのにお金が掛からないのが特に良い。
「お酒も飲むかい?」
なに!! 酒?
これはありがたい 酒なんて異世界に来てから一滴も飲んでいないのだから。
「是非! 頂きます」
ユウキはその日、生きてお腹いっぱいに食べ物が食べられる幸せを噛み締めた。
しかし…いい人もいたものだ。
やはり人は助け合いが大切と言う事だろう。
食事が終わり、立ち上がるとフラフラになっていた。
頭がボーとする。
「大丈夫かい? ユウキちゃん。
家まで送って上げるよ」
「あ…ありがとう…ございまふ」
おばさんに肩を貸してもらいユウキは外に出る。
そして少し歩いた頃、ユウキは違和感を覚えた。
あれ? なんか…やけに体を触ってくるような…………。
それは徐々に背中から腰、最終的にその手は勇気のお尻へと到達した。
さらりと触られる感触。
この感覚、ギルドの初日の!!
寒気が体中を駆け巡る。
酔いは一気に冷め、今行われいる現実が露わになった。
婆さんの顔を見ると鼻をだらしなく下げ、はあはあと息を荒くしている。
恐怖……恐怖がユウキの今立っている地面の下から押し寄せてきた。
それは地面を黒く染めユウキに這い上がってくる。
ユウキは考えもなく腕を振り払い走り出した。
「いやああああああああああ!!」
「あっちょと待って…」
ユウキが走って闇へと消えていく
そこには一人、おばさんが残された。
「しまったー…逃した獲物はでかい。
尻は早かったか。
いや…もう少し強い酒を飲ませておけば…ちっ」
…
その日ユウキは毛布にくるまり体を震わせた。
「女の人怖い…女の人怖い…女の人怖い…」
ユウキは女性恐怖症を発症した。
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m(_ _)m