ジョブ オア ミニスカ
ミニスカ…仕事…ミニスカ…仕事…
ユウキの頭は状況を処理しきれなくなり沸騰した。
「これが等価交換というやつか…」
仕事を手に入れる代わりにミニスカートを履くか、ミニスカートを履かずに仕事を捨てるか。
二つに一つ
ふっ誰がこんな物を着るものか、俺は男だ、こんなものなど着るものか…
…
「はい、クエストの依頼ですね。
分かりました。
少々、お待ちください」
ユウキは、そう笑顔で返した。
「あの、すいません先輩、これ、どう処理すればいいですか?」
ユウキはやり方を聞き淡々と仕事をこなす。
足がめちゃくちゃ寒いが。
今はもう気にしないように心がけ、仕事に励んでいる。
「あとはクエストボードに貼ればいいんですね」
ユウキの歩き方は以前とは違い大股を避け振動を少なくゆっくりとした歩きだ。
理由は言うまでもない、ミニスカートのせいだ。
なぜ……俺がこんな事を……。
視線をめちゃくちゃ感じる。
きっと、自分の事を変だと見ているに違いない。
正直この姿の自分を見て半泣きになった。
シャワー室で毛を全て剃られ、生まれて初めて化粧をした。
このままでいいと言ったのだが…。
殺してくれ…そんな言葉が頭をよぎる。
他の受付嬢の男性達は、自分を見て、可愛いだとか羨ましいなどと言っていたが一ミリもカバーになっていない。
ユウキはそんな事を思いながらクエストボードに紙を貼る。
「新しい娘か、可愛いな」
「彼女、もちかな」
「めっちゃかわいい、美人じゃん」
ユウキは知らぬ、聞かない振りを決め込む。
ため息を付きながらカウンターに戻ると、その途中…。
「ひうっ」
いきなりすれ違いざま臀部を触られた。
すぐさまユウキは後ろを振り返る。
誰だ? 悪ふざけしたやつ…。
近くに居るのはおばさんが2人…。
ユウキは何も無かった事にしその場を急いで立ち去った。
悪夢だ…。
間違いなくおばさんに尻を触られた。
ユウキはカウンターに戻ると裏方に入り現状を飲み込んだ。
セクハラ…まさかこんな形でやられるとは…。
しかも触られた感覚は気持ち悪く、さらりと撫でて来やがった。
「婆婆め」
ユウキはできるだけスカートを下げお尻を守れないかと何度も調整した。
「ユウキちゃんは彼女とかいないの?」
休憩中、今、仕事を教えてくれている受付嬢の先輩(男)が急に聞いてきた。
「いえ、いないですけど…」
「えー、そうなんだー。
ユウキちゃん可愛いからてっきりいると思ってたー」
「そ…そうですかね」
喋り方は完全にオカマだ。
ユウキは引きながらも先輩の為無難に返す。
「ねえねえ、ユウキちゃんはどんな彼女が好み?
聞かせてー」
なんだろう…この会話。
ユウキはそう思いながらも答える。
「えっと、可愛くて、優しくて、できれば家事とかやってくれる…だめなら協力可ってとこですかね」
「分かるー。
優しい人っていいよねー。
私は、低収入じゃなくて高収入、優しくてイケメン、それで力が強い人が好きかなー」
先輩は続ける。
「そう思うでしょ?」
ユウキはなんて返せば良いのかと戸惑いながら答えた。
「僕は、収入やイケメン、力強いは気にしないかな…」
先輩は同調しなかったからか、少しムッとした。
「ユウキちゃんは内面を重視してるんだね。
それじゃあ結婚指輪は何処のやつがいい?」
そこから先は完全にユウキはついて行けなくなった。
休み時間でなぜかすごく疲れた。
なぜあれほど会話を続けるのだろうか。
それも恋バナや美容、結婚の話などばかりだ。
もう疲れたよ…パトラッシュ…
ユウキはその日一睡もせず朝を迎えた。
…
ユウキは寝る場所が無いので、ギルドの人に頼み更衣室で寝させて貰う事にした。
昼、ユウキは起きるとギルドマスターにお金の事で頼みに向かった。
賃金を月払いでは無く日払いにしてもらうのだ。
今、ユウキの手元には一銭も無い。
ご飯はまかない飯でなんとかなった。
しかし宿がどう仕様もない。
ここで暮らしてもいいが、会話がうるさく寝れないと言う問題が浮上している。
受付嬢の服のまま向かうとギルドマスターは相変わらず部屋で書類に目を通していた。
「おや、ユウキちゃん。
似合ってるじゃないか」
その話を無視し言う。
「あの…お願いがありまして」
ギルドマスターは立ち上がり何故かユウキに近づく。
「何だね…お願いとは」
ギルドマスターは顎に手を当て、明らかに胸や腰を近づいて服の確認をする振りをして見ている。
「え…えっと、日払いにしてもらいたくて」
「なんだ、そんな事か。
私に任せなさい」
パンッ
痛い…臀部を叩かれた。
ユウキは尻を抑えギルドマスターから離れ警戒する。
「はっはっは、良い尻をしとるの」
ギルドマスターは笑い手をひらひらとさせた。
こいつら…人の尻を触る文化でもあんのか!?
ユウキはそう思いながらもお金を貰う立場の身なのでそうは言えない。
ユウキは何とかお金を貰う事に成功した。
「ありがとうございます」
ユウキはそう言ってすぐさま再び尻が叩かれぬ様にササッとその部屋を去った。
本当にやってられない。
まだ一日目と言う現実、仕事をしなければ死ぬと言う現実、ミニスカートを履いて働いたという現実がユウキに重く精神をえぐるようにのしかかる。
また明日にはこの唯一の仕事を、やらなければならない。
ユウキはその日、貰ったお金で部屋を借り次の絶望を超える為、明日を掴む為、ベットで眠った。
読んでいただきありがとうございます。
m(_ _)m