限界のはて
「いやそれ、甘えでしょ。
困るんだよねー、報告も無く休まれると」
あーーーイライラする。
なんだこいつ!!
こっちは奇病のせいで貧血気味にも関わらず来たってのに。
ユウキは現在、ギルドマスターと対峙し睨み合っていた。
今もなおイライラは止まっておらず思考が少し暴力的になっている。
なんで女なのにこの苦しみを理解してないんだ!?
玉をトンカチで叩いて強制的に分からせたろかい!?
って婆さんだから無いか…。
なら腹パンだっ…。
なぜか今日は普段考えない様な暴力的な思考が次々溢れてくる。
ん?……。
そういえば先輩が言うには女性には起きないとか…。
まさか、こっちの女性はあの輪廻の呪縛から開放されているとでも言うのか!?
なんで…代わりに僕が……。
…
「ユウキちゃん、良かったじゃない。
怒られたみたいだけど…
でも、子供は産めるって分かったわ」
「良くない!!」
ユウキは袖で涙を拭う。
この現実をどう受け止めろと言うのだ。
圧倒的事実…。
ただでさえ、異世界に来たせいで金事情が厳しい中……これだ。
金を稼げる活動時間が今起こっていることのせいで大幅に削られた上、あの痛み…ピーク時はシャレにならん。
更に万が一子供ができてみろ、異世界人生が詰む…王手をかけられるも同義。
帰りたい…地球に帰りたい…。
何も変わらない平凡な日常、サラリーマンに戻りたい…。
こんな受付嬢じゃなく…。
なんだよ…こんな…恥ずかしい格好させられて…。
僕はっ…。
ユウキは鏡に映る自分を見て更に落ち込んだ。
神が本当にいるのなら一発殴ってやる!!
ユウキはこの世界に憤りを募らせながらも仕事をこなす。
「ユウキちゃん、ここミス。
やり直して」
今日はやけに仕事ミスが連発する。
これも駄目あれも駄目…もうだめだ。
精神的にもかなり参った。
貧血で体力も無い。
血が出すぎて力が出ない………。
「すんませーん、これお願い」
ユウキはそんな中でも頑張った。
女性の指先を見て注文を確認する。
パイ ピザ 両方の場所に指が置かれている。
どっちだよ!。
「確認します、ご注文はパイでよろしかったでしょうか?」
女性は他の客と話をしながら答える。
「ん?、ああ…うん」
「かしこまりました、少々お待ちください」
…
「これ、注文間違ってるから!!
パイじゃなくてピザ!!」
ユウキは笑顔のまま固まっていた。
いやっお前っ!!
「そんな…はずわ…」
「ちっ、マジ、使えねーな、男は女の言うことを聞いてそこは謝っとけばいいんだよ!」
ぷちッ
ユウキの頭の中で何かが切れ今まで溜め込んで来たダムが一滴…ほんの一滴が漏れた瞬間、どっと溢れ出しダムを決壊させた。
この世界に対する不満、男の娘の日のイライラ、セクハラ、ギルドマスターのふざけた今までの対応、そしてこの客!!
おまけにサラリーマン時代から溜め込んできた怒りを付け加えて!!
怒りが頂点をぶち抜き爆発した。
ユウキは手に持っていたパイを女性の顔面に全力で叩きつけた。
「はい、パイ、おまちーー」
これだけでは収まらない。
ユウキは怖い笑顔のままユウキの行動で静かになったギルド内を何事も無かったかのようにスタスタと奥の部屋へと歩いていく。
「あんンの男ー!! 絶対ゆるさ、ぶっ…」
「お替わりお持ちしましたー、ゴミ共ー」
ユウキは次々と冒険者の顔面にパイを叩きつけていく。
今までセクハラをしてきた…俺の尻を揉もうとしていた奴の顔は覚えている!!
もう許さん!!
そこからユウキは枷が外れた猛獣の様にパイを持って暴れまわった。
「ちょっ…ユウキちゃん、落ち着いて」
何事の騒ぎかと見に来た先輩の制止も耳に入らずユウキは止まらない。
「おめーらみたいなのは、パイでも食ってろ!!
あはははははははははははは。
こんな世界!! こんな世の中!!
もう、どうにでもなってしまえ!!」
ユウキの暴走は誰にも止められない。
そしてユウキは暴れまわると最後にギルドマスターの部屋に行き思いっ切りパイを投げつけた。
…
そうした行動の末かその日からユウキはギルドに来なくなった。
…
ユウキは一人宿の中で思う。
僕はなんであんな事を……
涙を流し、せっかく手にした職を失った事実に震えながらユウキは毛布にくるまった。
読んでいただきありがとうございました
m(_ _)m