1 男女逆転
目の前には人が流れ歩いて居る光景が広がる、ただここはおかしな事に建物の外観がファンタジー世界そのものだ。
「なんだ? 夢かこれ」
その声は街の喧騒によって消えた。
喋った男の身なりはスーツ姿、この街では凄く目立った服装に見える。
「おい邪魔だ、さっさと歩かねえか」
後ろから女性の声が聞こえる。
「あっ、すいません」
反射的に謝る、まさに日本人の特徴が出た…という感じだろう。
いつもそんな自分に嫌気を覚えながらも全ては丸く収める為にと頭を下げるのだ。
もういいかと思い僕は頭を上げ顔を見る。
謝った相手は男物の服を着た女性だった。
その女性は僕の謝る姿を見て、慌てて周りを見渡し、ばつが悪そうに片手を振りながら言う。
「いや、謝んなくていいって…そんな事より早く行きな」
女性にそう言われ頭を下げながら歩きだす。
女性の姿はすぐに人混みに飲まれて消えていく。
しばらく流れにそって男は歩きながらあたりを見渡す。
どうやら夢じゃなく現実の世界らしい、僕は一体どうしたのだろう?
死んだのかと思い手足を見てみるがそこにはいつもと何ら変わらないスーツと自分の足が見える。
それを見て息を吐き安堵した。
男の名は近藤 勇気、社会人だ。
彼がこの世界に迷い込んだのは会社の帰りの電車で居眠りをしてしまった時、そのため夢と思ったのだろう。
そんなユウキの肩に手がのびてきて肩に手が回された。
肩に手を回してきた人は女性で何も言わず笑みを見せユウキの肩に手を回したまま人気のない小道へと誘導する。
ユウキは訳が分からず声が出なかったがどうゆう状況か確認しその女性に声をかけてみることに決めた。
「あっあの、僕に何か用ですか」
だがその質問の答えは小道に入って人目が付かない場所に入ってからの事だった。
「ん? ようね〜」
そう女性が笑いながら言った瞬間…後ろから他の何者かの手により無理やり口をふさがれた。
「んぐぐ……」
ユウキはすぐにその手を振りほどこうとするが体を道に押さえつけられてしまう。
そして身動きが取れなくなったところに先程の女性が首に手を当てて一言呟いた。
「スリープ『眠れ』」
その一言でユウキの意識は沈んでいった。
…
次に目覚めた場所は薄暗い部屋の中で埃っぽい場所。
「痛っ」
動こうとした途端、手足に痛みが走った。
ユウキはパンツとシャツだけというあられも無い姿で椅子に手首と足を縛られている。
ユウキがなんとか脱出できないかと指を動かそうとした時、女性の声が掛かった。
「ようやく起きた、それじゃあ早速始めようか」
声がした方を見るとがらの悪そうな女、五人がニヤニヤしながらユウキに近づいて来る。
とても拘束を外してくれる雰囲気では無い。
「あの、着ていたものは差し上げるんでこれ解いてくれませんかね」
ユウキはこのままでは殺されると思い交渉をしようとする。
しかし次に女が発した言葉はユウキを戦慄させるものだった。
「あ? なんでこんな久しぶりの上玉を楽しまねーままでそんな事しないといけないんだよ」
女はそんな事を言いながら笑う。
ユウキは正気かと女を見る。
女は笑いながらユウキのパンツに触れようとした、だがその瞬間。
大きな物音と共に部屋の扉が吹っ飛んだ。
「なんだ!?」
女達は扉があった場所を見ながら腰に下げていた剣を抜く。
そこにはアニメなどで出てくるヒロインのような姿をした金髪の女性がレイピアを構えていた。
…
レイピアを持った金髪の女性は椅子に縛られたあられも無いユウキを見てから女性達を睨み付け、口を開く。
「済まない、もう少し私が来るのが早ければ」
そんなことを言うレイピアを持ち構えている女性を見て女性達は剣を向ける。
「おいおい、他人の心配してないで自分の心配をしたら…」
レイピアの女性は腰を低くしてレイピアを構えながら言う。
「貴様らが犯した罪、万死に値する」
そう言った瞬間に彼女は消えた。
いや、違う早すぎて目が追いつけないのだ。
五人の女性達は何が起きたのかさえ分からなかっただろう。
彼女が消えたと思ったのと同時に女性達が崩れ落ちたのだから。
彼女はユウキを見て上に羽織っていたマントをユウキに掛ける。
「済まない、君が連中に絡まれているのを見て人混みをかき分けて来たんだが見失ってしまい助けるのが遅くなってしまった」
ユウキは彼女の顔にみとれていた。
そんなユウキの姿を見て彼女は首を傾げる。
「私の名前はヘレナ、君のお名前をお聞きしてもいいかな?」
そう聞きながらヘレナはユウキの拘束を解き始める。
ユウキはヘレナに見とれてしまっていたがヘレナに名前を聞かれて慌てて答えた。
「僕はユウキと言います。
助けてくださってありがとうございます!!」
ヘレナは礼を言うユウキを見て微笑む。
「いえいえ、私は当然の事をしただけの事ですので。
そんなことよりも早くここから出ましょう。
取り敢えず私の今住んでいる宿へ行きます、そんな服装では嫌でしょうし」
ヘレナはそう言うとユウキの手を取り先導して屋外へとでる。
もう外は夕方らしく空を見上げると建物と建物の狭い隙間から赤みがかった空が見えた。
残念ながらユウキが着ていたスーツなどは売られてしまったらしく手元には金貨が五枚と大銀貨が数枚があるのみ。
この世界でのお金の価値はよく分からないがヘレナに聞いたところ金貨一枚で一ヶ月裕福な生活を送れるらしい。
聞いたときヘレナに変な顔をされたのは言われるまでも無い事だ。
ユウキはヘレナのマントを纏った状態、正直これで街の中を歩きたくはない。
これでは露出狂だ。
ヘレナは空をみあげてから頷きユウキを見る。
「少し失礼します」
ヘレナはそう言うとユウキに近づきヒョイと軽く持ち上げお姫様抱っこをする。
「ちょっと、ヘレナさん?」
ユウキは降りようとするが降りられず仕方なくヘレナの顔を見た。
「すみませんが少し我慢してください。
あと、しっかり私につかまってください、落ちると危険ですので」
そう言ったヘレナはユウキを見て微笑む。
ユウキは落ちると危険という言葉について質問しようと口を開く。
だがその前に…
「へ? ちょっと待って下さああああ!!」
ユウキが質問をする前にヘレナは建物の壁を蹴りながら上へと跳んだ。
「口を閉じていて下さい、じゃないと舌を噛みますよ」
ヘレナはユウキを抱えそのまま屋根の上に出てお姫様抱っこのままで走り出す。
「ぎゃああああああ」
その結果ユウキの声が夕方の街に響き渡った。
…
ユウキは今ヘレナが今泊まっている宿にいる。
「少し汚いかもしれないですがそこは勘弁してください。
まさかあなたのような方を連れてくる事になるとは思っていなくて。
あとトイレはそこでお風呂はそこです。
まずは風呂に入ると良い。
服は女物ですが、私ので我慢してください」
そう言われてユウキは服を投げ渡されそれを見る、その服は明らかに男物の服で自分の中の何かをくすぐる感じがある。
まさに冒険者のコスプレだ。
それを持って言われた通り風呂に入る事にする。
この宿はレベルが高く貴族御用達レベルの宿らしい。
その為、部屋の広さは地球の一流ホテルと比べても引けを取らない程だ。
そんな中をユウキは風呂へと向かう。
お風呂場に入る前の着替える場所の広さも凄く洗面台には大きな鏡が備え付けてある。
ユウキは一通り見渡したあとヘレナのマントや着ているものを脱ぎ浴室へと向かった。
…
ユウキは石鹸の香りがする中ヘレナから借りたコスプレの様なものを持っていた。
この服はこの世界では当たり前なのだろうがユウキが来た場所は日本だ。その為若干の抵抗がある。
ユウキは悩んだすえ着替えようとし時に扉が開く音がした。
扉を開けたのはヘレナでその顔は固まっている。
今のユウキの姿はヘレナのズボンを履いている為見られても特に問題はないはずだ。
しかしヘレナはいきなり土下座を決行した。
「すまない、事故とは言え、か弱いおのこの肌を見てしまうとは。
それも胸を…」
ユウキは土下座の訳が分からずに狼狽える。
そんなユウキを一人置いて土下座は続く。
「どうか許して貰えないだろうか」
それを見てユウキは思い付く。そう言う文化なのかなと。
確か地球にもあまり肌を他人に見せない文化?宗教?があった。
そう思い慌ててユウキはシャツと服を着てヘレナに頭を上げる様に言う。
「しかし、それでは」
ユウキは女性に土下座されている状況に戸惑いながらも提案をする。
「それほど仰るのでしたら今晩泊めて頂けませんか?
なにぶん帰る家も無いものでして」
ユウキは頭を掻きながらそう提案する。
そうユウキが言い終わるとヘレナはようやく頭を上げてくれた。
「帰る家がない? 先程も金銭について聞いてきましたがそれについてお聞きしても?」
ユウキは地球などと言えるはずも無くよく読む物語などでよくある展開を使うことにする。
記憶喪失だ。
「すみません、私がどこで暮らしていたかどうゆう事をしていたのか思い出せなくて」
その言葉にヘレナは顔を青ざめ絶句する。
「まさか、助けるのが遅れたせいで...確か裏の世界では記憶を消す魔法があるとかないとか...」
ヘレナは少し考え自分のせいだと勘違いしユウキの嘘を真に受けてしまった。
「分かりました。
貴方が記憶を思い出すまでの間、私が付き添いましょう」
ヘレナはそう言ってユウキを見る。
ユウキはそこまでされるのは悪いと思ったのかバツが悪そうだ。
「いえ、そんな、それではヘレナさんに悪いです」
ユウキがそう言うと、ヘレナはユウキの肩を掴んできた。
「記憶が無いのにあなたはどう生きて行こうと言うのです。
記憶が無い貴方をこのまま一人にできるわけ無いじゃないですか。
せめて職が見つかるまでは私を頼ってください」
ユウキはその勢いに押されて首を縦に振った。
…
今、ユウキとヘレナは服を買うと言う事でヘレナに付いてきていた。
昨日の夜もおかしかった、ヘレナはベッドをユウキに薦めてきてそれをユウキが断わっても絶対に譲ろうとしなかった。
なんでも男性をベッドがあるのにソファアで寝さす訳には行かないとかなんとか。
仕方なくベッドでユウキは寝て朝になるとヘレナが服を買いにいこうと言い出し食事を済ませてから外に出たのだ。
ユウキが店をキョロキョロ見ているとそこの店のおばさんに呼び止められた。
「そこの兄ちゃん。
りんごに興味があんのかい?
あんたは可愛いからただでやるよ」
そう言われ有無を言う前にりんごを二つ渡された。
「えっいいんですか?」
可愛いという言葉にへこみながらりんごをもらう。
ユウキは待ってくれているヘレナの所まで走って戻ってりんごを一つ渡した。
「良いのですか?」
ヘレナはユウキが頷いたのを見て嬉しそうにりんごをほうばる。
服屋までの道中だが昨日は気付かなかった異様な光景が広がっていた。
朝に買い物をしているのは冒険者と街の住人。それが不思議なことに男女比が逆の状態だったのだ。
つまり女性が多く男性が少ない状態。
男性が接客や料理を作っていたり、力仕事を女性がやっていたりと色々とおかしい。
ヘレナにその事について聞いてみると衝撃の事実が分かった。
なんでもこの世界には魔法が存在しておりその魔法は女性のみが使えるらしくこの世界では女性のほうが男性よりも一般的に強いのだと言う。
そのせいで地球で言う女性の立場が男性に、まさに逆の状態になっているとの事だった。
世界の常識をユウキはヘレナから聞きながら歩いているとヘレナが言っていた服屋が見えて来る。
服屋に入るヘレナのあとにユウキは続く、すると店の中から女性の声が聞こえた。
「いらっしゃい、ってヘレナじゃん、いつこの街に来たの?」
ヘレナとこの女性は知り合いらしく親しげに話す。
「久しぶりですねユリファ、この街に来たのは数日前です」
ヘレナがユウキを紹介しようとしたその時にユリファがユウキに気づいた。
それと同時にユウキは彼女の頭を見て驚く。
そこには猫耳があったのだ。
ユリファはと言うとヘレナとユウキを交互に見てからヘレナに小声で話しかける。
「誰にゃ、あの超絶美人は。
まさかヘレナの彼氏かにゃ!?」
ヘレナはすぐに訂正する。
「かっ彼氏ではない実は……」
ヘレナはこれまでの経緯を語った。
「なるほど、彼はヘレナの彼氏ではないと」
ユリファはニヤリと笑ってユウキに振り向く。
「初めまして私はユリファにゃ。
えっと貴方がよろしければお付き合いしてもらえにゃいでしょうか」
いきなりの告白にヘレナとユウキは驚きヘレナはスパンとユリファの頭を叩いた。
「いっ…たいにゃ!
何するのにゃ、こんな可愛い子滅多にいないのにゃ。
それに私だって彼氏が欲しいのにゃ」
ユリファはヘレナにぎゃあぎゃあと文句をぶつける。
ユウキはもうついていけないと喧嘩する二人を放って置いて店の服を見て回った。
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