ダンス時の気持ち
続けて何曲か踊ったダイアナは、会場の端にあるソファで休むことにした。
すると、長椅子に座ってこちらを向いているブリジットと目が合った。
ダイアナがブリジットの隣に座ると、彼女は水の入ったグラスをダイアナに渡した。
一口飲むとレモンの爽やかな香りが口の中に広がり、半分ほど一気に飲んでしまった。
「あらまぁ、お疲れかしら?」ブリジットがクスクス笑いながら言う。
「5曲続けては、辛いわね。息が切れてしまうわ。」グラスに残ったレモン水をまた一口飲む。
3曲目が終わるまではまだ余裕があった。4曲目が終わったところで級友に「一緒にダンスを」と誘われ、顔が引きつりそうになった。
「なんとかでも5曲続けて踊れれば十分よ。私は3曲までだわ。」そう言うと、ブリジットは改めてダイアナの目を見た。「あなたは誰と踊っても素敵だけど、やっぱり殿下と踊る時が1番ね。」
「そうね。殿下とは何度も練習しているし、なにより殿下のリードは完璧ですもの。」
ダンスフロアを眺めていると、キャサリンがエドワードと踊っているのが見えた。2人で何か楽しそうに話しながら踊っている。
果たして自分は、ギルバート殿下とあんな風に楽しそうに踊ったことがあっただろうか?殿下とのダンスは、学園でのファーストダンスだったり、王城でのパーティーで王家の方々と一緒に踊ったりと、緊張するダンスばかりだ。間違えないように、殿下の足を引っ張らないように、そんなことばかりを考えて踊っている気がする。
「あらっ? 今、殿下と踊っている方はどなたかしら?」
ブリジットの声に、ダイアナは現実に引き戻された。
ダイアナには、ギルバート王子と一緒に踊っている女子生徒に覚えがなかった。ハニーブロンドの金色が眩しい。がっしりとした体のギルバートとは対照的に、随分と小柄の少女のようだ。
ダイアナもブリジットも見たことがないのなら、1年生だろうか。
照れているのか薄紅色に染まる頬と、夢でも見ているようにギルバートを見つめる瞳が、ダイアナの心に残った。