パーティーの始まり
ホール中央で踊っていた1ペアのダンスが終わると、会場のあちこちから感嘆のため息がもれた。
ファーストダンスを終えたギルバート王子とダイアナは、会場の端へと移動した。
次の曲が始まり、3年生を中心とした生徒たちが踊り始める。
ダイアナは、壁際で小さく手を振っているキャサリンを見つけると、微笑んで手を振り返した。そんな姉妹のやりとりに気がついたギルバート王子が、ダイアナを連れてキャサリンへ近づき、声をかけた。
「今晩は、キャサリン。2ヶ月ぶりくらいかな。正装は初めて見たけど、とても綺麗だね。」
「ご無沙汰しております、殿下。褒めていただいて、ありがとうございます。」キャサリンが礼をして答える。
ギルバート王子はキャサリンの隣にいるエドワードを向くと、からかうような口調で言った。
「今晩は、エドワード。昨日ぶりかな?」
「今朝ぶりですよ、殿下。朝食の席でお会いいたしましたよ。」エドワードはクスクス笑いながら答えた。
ギルバート王子とエドワードは1学年違いだが、エドワードはフレデリック王子の友達と言えるほど仲がいいため、ギルバート王子とも気安い言葉で話す間柄だ。
「殿下とお姉様のダンス、とても素敵だったわ。」
キャサリンがダイアナを見ながら言った。
「ありがとう。ファーストダンスは今年で3回目だけど、毎年とても緊張するわ。殿下のリードのおかげで転ばずにすんでいるのよ。」
4人で談笑していると、2曲目が終わった。次からは、1、2年生ダンスに加わり始める。
「君たちは踊らないのか?」ギルバート王子がキャサリンたちに聞いた。
「もう少ししてからにします。はじめの頃は3年生や踊りの上手な人が多いですから。殿下達とは逆の意味で目立ってしまいますよ。」
エドワードはそう言うと、ギルバート王子の後ろを見て、話を続けた。
「殿下は、しばらくダンスが続きそうですね。ご令嬢方が列を成して待っているようですよ。」
数名の女子生徒が、ギルバート王子の背後の少し離れたところから、こちらの様子をうかがっている。
生徒達はまだ社交界にデビューしていないので、王族と踊る機会はほとんどない。しかもギルバート王子は今年で卒業するので、特に下級生は、このパーティーを逃すと数年後になってしまう。
ギルバート王子は眉をしかめた。
「仕方がない、上級生の義務を果たすか。。。ダイアナ、申し訳ないけど、またね。」
ギルバート王子はパートナーであるダイアナに断りを言うと、令嬢たちの方へ歩き出した。
ギルバートが少し離れたタイミングで、ダイアナに声がかけられた。
「失礼します。ダイアナ嬢、ダンスを踊っていただけますか?」
ダイアナと同じクラスの男子生徒だ。
「お誘いありがとうございます。もちろん喜んで。」男子生徒の手を右手で取ると、2人はフロア中央へと歩き出した。キャサリンとすれ違うときに、左手で「じゃあね」と小さく手を振った。