伝えたい想い(前)
この話は、時期が少し遡り、本編の途中に起こっています。
キャサリンが図書館で閉じ込められた直後ごろです。
昼食後、ダイアナは1人、自室で本を読んでいた。
トン、トン。ノックの音がする。
ダイアナが本から顔を上げたタイミングで、ドアの向こうから声が聞こえてきた。
「ダイアナお嬢様、お寛ぎのところ、申し訳ありません。ブランドン伯爵家のエドワード様が、キャサリン様に贈り物をお持ちくださったのですが、、、」
ダイアナがドアを開けると、執事が立っていた。
「キャシーに? ええっと、、、あっ、キャシーは出かけたのね?」
エドワードが来る時はたいていキャシーを訪ねてきていたため、今、執事が自分を呼びに来た事をダイアナは不思議に思った。そして、今日はキャシーはフレデリック殿下に呼ばれて出かけたことを思い出した。
「はい。ご主人様と奥様も今日は朝からご不在でして、エドワード様のお相手を、お嬢様にお願いできますか?」
ダイアナは了承の意を伝えると、応接室に向かった。
応接室に入ると、ダイアナはエドワードの向かいに座った。
「エドワード様、せっかくお越しくださったのに、今日は両親も妹も不在でして、申し訳ありません。」
エドワードはダイアナの謝罪を、優しい笑みで受ける。
「いいえ、謝るのは僕の方です。実は、キャシーから、今日はダイアナ嬢だけがご在宅だと聞きました。キャシーへのプレゼントというのは表向きで、本当の目的は、貴女にお会いしたかったのです。」
エドワード様が? 私に? 会いたい?
ダイアナはエドワードの考えが全くわからず、何も言えないでいた。
しかし、エドワードはダイアナを真っ直ぐに見つめたまま、話を続けた。
「貴女に婚約を申し込みたいのです。」
エドワードの言葉を聞いて、なんだ、そんなことか、とダイアナは安心した。
今までは、キャシーが婿をとって家を継ぐ事になっていた。そのキャシーの婚約者候補として、エドワード様がいた。2人はまだ正式に婚約していなかったが、エドワードは父の仕事の手伝いをしたこともあって、次のアスター侯爵はエドワード様だろうと、なんとなく思っていた。
たが、キャシーがフレデリック殿下から婚約を申し込まれて、状況が変わった。
キャシーが王族に嫁ぐ事になれば、侯爵家は継げない。自分が婿をとる事になる。
ダイアナは、今、初めて、自分が家を継ぐ事に思いが至った。




