守りたいもの(後)
「キャシーが婚約だなんて、ほんとうに驚きだわ!」
ステファニーは読んでいた手紙から顔を上げると、興奮した面持ちで言った。そして、目の前に控えている従僕のティムに話しかけた。
「ティムもそう思うでしょ?」
「私には、それほど驚きではありませんが。。。」
ティムには、ステファニーの興奮がわからない。キャサリンも今年で17歳。来月からは学校の最終学年になる。学校を卒業すれば大人と同等に扱われる貴族にとって、この時期での婚約は妥当だろう。
「え〜、ティムは冷めているのね〜。」
ステファニーは不満の声を出してティムを睨んだ。が、すぐに納得したのか、目線を手紙に戻して、独り言のように呟いた。
「まっ、でも今月で卒業だし、そんなものかしら? 婚約解消から半年経つし。」
ティムは、主からの鋭い視線もにこやかな笑みで受け止め、視線が外れた後も、主人の言葉に耳を傾ける。
卒業とはエドワード様のことだろう。キャサリン様とエドワード様は、長い間、お互いに婚約者のように過ごしていらっしゃった。だからこそ、エドワード様がご卒業される前に婚約を結ぶ。全くもって妥当だ。
しかし、婚約解消から半年とは? ステファニー様のことだろうけど、当事者ではないお二人にはあまり意味がなさそうだが?
次のステファニーの言葉で、ティムはまさに驚いた。
「お兄さまは、お相手探しに大変でしょうね。うちと政略的に繋がるメリットなんて無さそうだし、三男のお兄さまは自分自身で勝負しないとね。」
「おまちください! キャサリン様のお相手は、エドワード様ではないのですか?」
珍しく大きな声を出したティムを、ステファニーは呆れ顔で見る。
「キャシーの相手がお兄さまなら、婚約したって驚かないわよ。二人はまだ婚約してなかったのかって感じだったもの。」
「で、では、、、」
「フレデリック殿下よ。って、私、言ったよね?」
うろたえるティムに向かって、ステファニーは威張ったように答えた後、自信がなくなったようで小首を傾げて聞く。
返事をしないティムの様子から、ステファニーは自分が肝心なことを伝えなかったことを知った。
「あら、ごめんね。」
「いえいえ、確認をしなかった私がいけないのです。」
ティムは、ステファニーの謝罪を優しい笑顔で受け止めた。
ステファニーはティムをじっと見ている。
ティムが、どうしたのか?と口を開こうとした時、ステファニーが話し始めた。
「私、ティムがいて良かったわ。いつでも私の後ろで、不足がないか見てくれているでしょ? あなたがいなかったら、私、こんなにも楽しく生きられなかったと思う。これからも、よろしくね。」
「・・・これからも、ですか?」
突然のステファニーの告白に、ティムは驚愕のあまり何と答えていいか、わからなかった。やっと言えたことは、ステファニーのセリフのおうむ返しだ。
「そうよ、こ、れ、か、ら、よ。一生、お願いね。」
ステファニーの笑顔に、ティムも体全体から喜びをあふれさせる。
「はい、こちらこそ、よろしくお願いします。」




