罪 (エミリー嬢の場合)
エミリーは、父であるクーパー伯爵から「書斎に来るように」と呼び出しを受け、急いで父のもとへ向かった。
あの日、フレデリック王子に言われたとおり急いで家に帰り、父の帰宅を待って全てを話した。
伯爵はエミリーの話を最後まで聞くと、確認のためにいくつか質問した。そして、最後に「しばらく自室で謹慎していなさい」とだけ告げると、どこかへ出かけた。
あれから1ヶ月ほど経った。
何か事態が進展したのかもしれない。
書斎には伯爵が1人、机に座り、紙の束を読んでいた。
エミリーが部屋に入り机の前に立つと、伯爵はやっと顔を上げた。眉間には深い皺が刻まれ、エミリーを見る目は険しい。睨みつけるようだ。
伯爵は、普段はエミリーを溺愛していると言えるほど娘に甘い。エミリーは、これ程きつい視線を父から受けるのは初めてだった。
伯爵は、大きなため息を1つつくと、話し始めた。
「アスター侯爵令嬢の件について、陛下が裁定なされた。我が家は領地を王家へ返却し、男爵位になる。それ、、、」
「まさか!領地を返すのですか!?先祖代々の土地ですよ!?」
父が話している途中に、エミリーはつい口をはさんでしまった。
「貴族位でいられるだけ、有難いと思いなさい。お前たちは、それだけのことをしたのだ。」
父の視線も口調も厳しい。
「でも、キャサリン様は怪我1つしていません!」
「何をしたかではない。『誰が』『どこで』が問題なのだ。」
伯爵は、また大きなため息をつく。
「確かに侯爵令嬢に行った行為そのものは、それほど大きな罪ではない。だが、王家に忠誠を誓っている近衛騎士が、王城で王家の意に反する行いを、自らの意思でする、それが罪なのだよ。」
「では、お兄さまはどうなるのですか?」
「あいつは、北の国境警備隊に送られることになった。」
「北の国境警備隊!? 下位貴族か平民が所属する部隊ではないですか!」
エミリーはあまりの事態に、顔が青くなる。
自分が兄に手伝って欲しいとお願いしたばかりに、兄の貴族としての将来は閉ざされてしまった。なんとお詫びしても足りない。
伯爵は、またため息をつく。
「そして、お前は、私の従兄弟のところに行く事になった。そこで生活して、鍛えてもらいなさい。私はお前を甘やかしすぎてしまった。」
「以上で話しは終わりだ。部屋へ戻りなさい。」
伯爵は、何度目かわからないため息を、またついた。




