怒り
「エミリー様はフレデリック殿下の婚約者になりたいのですか?」
キャサリンが冷静に聞く。
エミリーはキャサリンの質問には答えず、キャサリンを睨みつけている。
「フレデリック殿下に特別な想いを寄せていらっしゃるのですか? 以前はそんなご様子ではなかったのに、今年になって急にですよね?」
キャサリンの問いに、エミリーは、何を当然なことを聞くの?という訝しげな表情を見せる。
「事情が変わったからに決まっているじゃない。ギルバート殿下が王族を離れて、代わりにフレデリック殿下は王族に残ることになったもの。」
「『王弟殿下の妃』の座は、そんなにも魅力的なのでしょうか?」
キャサリンは小首を傾げて言う。その仕草が、エミリーを苛立たせる。
「何を言っているの!? 魅力があるに決まっているじゃない! 王弟妃として王族に加わることができれば、実家に利益をもたらすことが出来るのよ! 私が選ばれる可能性があるなら、行動に移して何が悪いのよ!」
「はぁ、、、別に悪くありませんが、、、」
キャサリンの気の抜けた言葉に、エミリーのイライラは増すばかりだ。
「こんな鈍そうな子が将来の王弟妃なんて、納得がいくわけないでしょ!? それなのに、お父さまは協力できないって言うし、頼りはお兄さまだけだし。もう!なんなのよ!」
エミリーは一息ついた。少し冷静さを取り戻したのか、声のトーンを落とす。
「貴族の婚姻は、恋愛感情ではなく政治的な結びつきが優先されることぐらい、あなただって知っているでしょう? それに」そこで皮肉めいた笑みを浮かべる。
「フレデリック殿下だって、ステファニー嬢のお転婆が王弟妃に相応しくないと判断したから、手っ取り早く、簡単な方法として、婚約解消をしたのでしょう?」
エミリーが言い終わると、キャサリンの顔は、目つきが険しくなり、頬はみるみる赤くなる。手は拳を作り、怒りでわなわなと震え始める。
「手っ取り早く、簡単、ですって?」
キャサリンは低い声で、普段よりもさらにゆっくりと言った。
エミリーは、今まで冷静に淡々と話していたキャサリンの突然の変わりように、驚きを通り越して恐怖を感じた。
「殿下がどんなお気持ちだったか、勝手に判断しないでください!!」
明日(8日)の投稿は、遅れるか、お休みするかもしれません。
ごめんなさい。




