特技2(後)
フレデリック王子が窓から外を覗くと、こちらに向かって走って来るキャサリンの姿を見つけた。
勢いよく窓を開け「キャサリン、こっちだ!」と大きな声で呼ぶ。
キャサリンはフレデリック王子の声に気がついて、窓のそばへやって来た。
キャサリンは窓まで来ると、窓枠に手をついて、えいっと体を持ち上げた。
フレデリック王子はキャサリンが窓から入る気満々なことに驚き、急いでキャサリンの体を支える。そして、そのままキャサリンを中へと引き入れた。
「殿下、お手をお貸しくださり、ありがとうございます。」
キャサリンが優雅にお礼を言う。フレデリック王子は驚きのあまり、手をキャサリンの身体に回したままだ。周りにいる王族の面々も、キャサリンの全く淑女とは言えない行動に、みんな目を丸くしている。
「お姉さん、速いね。」
素直な子供の声に、大人たちが我に帰る。フレデリック王子は、ニッコリと微笑んで「ありがとう」とお礼を言っているキャサリンの身体から手を離し、キャサリンを問い詰めた。
「一体、何があったんだ?」
「控え室で殿下をお待ちしていたのですが、どなたからも連絡がないし、急いでこちらへと来ました。」
キャサリンの口調は、のんびりとしていて、何事でもないような感じだ。
「なんで外を走っていた?」
一方、フレデリック王子の口調は詰問しているように、鋭い。
「扉が閉まっていまして、回り道をしたら間に合わないと思いましたから。このドレスは動きやすく軽かったので、思い切り走れました。あと、全体的にスラリとしているので、窓も簡単に通れて良かったです。」
フレデリック王子はキャサリンの言葉を聞いて、以前ステファニーに「ドレスで全力疾走する人はいない」というような事を言ったのを思い出した。まさかその場面に遭遇するとは、あの時は思いもしなかった。
「その走りもステファニーに教わったのか?」
フレデリック王子の口調が詰問から呆れへと変わった。
「そうですよ。服を汚すとブランドン伯爵夫人にお叱りを受けるので、服を汚さない走り方を練習しました。」
一見大人しそうなキャサリンだけど、相当なじゃじゃ馬かもしれない。キャサリンの言葉を聞いた皆は、そう思った。




