特技2(前)
キャサリンが腰の高さの窓枠に手を突き、えいっと体を持ち上げる。次に体を反転させ、窓枠に腰をかける。そして、右脚、左脚の順に脚を外に出す。最後にポンっと中庭に飛び降りた。
侍女のメアリは、キャサリンの一連の動きをハラハラした気持ちで見ていた。キャサリンは口調がゆっくりなため、周囲からは「のんびり」と思われている。その「のんびり屋」が窓を乗り越えられるなんて、メアリは思いもしなかった。
キャサリンは足踏みをして、中庭のぬかるみ具合を確かめる。
う〜ん、思ったよりも水捌けがいいみたいね。これくらい硬ければ、思いっきり走っても滑らないわね、きっと。
「じゃあ、行くわ。」キャサリンはそれだけ言うと、走り始めた。
「マーガレット嬢、来てくれて、ありがとう。」
フレデリック王子が、はとこのマーガレットに礼を述べる。
ここは、王族たちがホールに出入りする扉の前だ。国王夫妻、第一王子夫妻と子供たち、王弟家族も揃っている。フレデリックの状況は、全員が把握している。
「フレデリックの婚約者争いがあちこちで起こっているとは聞いているが、まさかここで起こすとは怖いもの知らずだな。」
アレクサンダー第一王子が、なにやら楽しそうな口調で言う。
「兄上、面白がらないでください。」フレデリック王子の言葉は冷たい。
「城で罠を仕掛けるなんて、大胆だよなあ。お咎めを受けないと思っている楽天家か、自分だとバレないと思っている自信家か、、、どっちだろう?」
まだどこか楽しげな様子の第一王子を、王妃がたしなめる。
「アレックス、キャサリン嬢の気持ちも考えなさい。心細くなっているわよ、きっと。」
「案内した近衛騎士っていうのが、気になりますね。本物の近衛騎士なのか、騙った何者かなのか、、、」
「いずれにしろ、城で事を起こすなんて言語道断だ。私を甘く見るなよ。」
王弟も国王も話に加わる。
その時、第一王子の子供たちが何かを見つけた。2人は、大人たちから少し離れて、窓の近くで遊んでいたところだった。
「ねえ、こっちに近づいてくる人がいるよ。」
「本当だ。ドレスで走る人を初めて見た!」
もちろん、それは、中庭を走ってくるキャサリンだった。




