学校生活の始まり
ダイアナの学校生活が始まって、2ヶ月が過ぎた。
日曜日のお昼前、キャサリンがダイアナの着替える様子を凝視している。口がへの字に結ばれているようだ。
「そんなに怒らないでちょうだい。」ダイアナは苦笑しながら行った。
「今日は一緒にケーキを焼くはずだったのに、私を置いて出かけるなんて、ひどいわ。」キャサリンが拗ねた口調で返す。
今日は、ダイアナが同級生に初めてお茶に誘われたのだ。
もともとは、ギルバート王子と久しぶりに王城でお茶会の予定だったのだが、ギルバートの公務が滞っているために取り止めになった。初めて王城を離れての寮生活に、ギルバートはまだ慣れないようだ。
そして、それを知った級友がダイアナを女子会に誘ってくれたのだ。
入学した当初の同級生たちは、ダイアナがギルバート王子の婚約者であることから、遠巻きに見ている者や媚を売るように近づく者など様々な様子を見せていた。しかし、ダイアナが偉ぶる様子を見せないことから、今ではダイアナに対して普通に接する者がほとんどだ。そんな中、ダイアナにも友達と呼べる者もできた。
初めて参加する女子会に、ダイアナ心は朝から弾んでいた。
ウッドウィル伯爵家のブリジット嬢が主催で、ハミルトン伯爵家のベアトリス嬢とカートレット子爵家のジョセフィン嬢も集まる。この3人は、先月に女子会を一度行ったそうだ。
典型的な女子会は、1時ごろに始まり、最初はランチを兼ねたサンドイッチ、次に焼き菓子、最後に果物やケーキが出されて、夕方にお開きの流れである。今回も、ブリジットに1時に来て欲しいと言われた。
「学校が始まってから、私は置いてけぼりばかり。寂しいわ。」
キャサリンの口調は、まだ拗ねたままだ。
「私がいなくても、ステファニーがいるじゃないの。一昨日も一緒に遊んだのでしょう?」
キャサリンはステファニーと大親友と呼べるほど仲がいい。ステファニーのお転婆は相変わらずのようで、この間も服を泥で汚したと怒られていたはずだ。
「来週は、絶対にお菓子作りよ。」いつものおっとりした口調に戻ったキャサリンに見送られ、ダイアナは馬車に乗り込んだ。友だちとの距離がますます近づきそうな楽しい予感に心がウキウキしてきた。と同時に、ギルバートとの距離が一向に変わらないことに、心の引っ掛かりを覚えた。