貴族令嬢
「では、これで授業は終わります。プリントがまだの人は、週末までに提出するように。」薬草学の先生がこう告げると、学生たちはパラパラと教室を出て行った。
「そこの2人! 悪いけど、この図鑑と標本を図書館に戻しておいて。」と頼まれた。キャサリンの隣にいたスーザンが「しまった。。。」と呟くのが聞こえる。
キャサリンは図鑑を、スーザンは標本を持つと、図書館へ向かって歩き出した。
「今日は早くに帰りたかったのになあ。」スーザンが愚痴をこぼす。
「何か予定があったの?」
「妹の誕生日プレゼントを買いに行きたかったのよ。」スーザンは不満げに口をとがらせる。
「キャサリン様!」突然、後ろから呼び止められた。
キャサリンとスーザンの2人が振り向くと、クーパー伯爵家のエミリーがいた。
「少しよろしいかしら? あなたがフレデリック殿下と婚約された、という噂をお聞きしたのですが本当ですの?」エミリーが詰問してくる。
「私とフレデリック殿下ですか? 殿下はステフとの婚約を解消して、まだ3ヶ月しか経っていません。まだ次の婚約を結ぶ時期ではないと思いますけど。」
キャサリンがいつも通りにゆっくりと話すことに、エミリーはイライラさせられたようだ。口調がキツくなる。
「しらを切るつもり? 私のお兄さまが、殿下とあなたが王城でお茶を飲んでいるのを見ているのよ!」
「お茶を一緒に飲むことと、婚約することは別ですよ。」
キャサリンは、エミリーの兄に見られていたことに少し驚いたが、中庭から丸見えだったから誰が見ていても不思議ではないわね、と思い直した。
「でも、殿下がドレスを仕立てたって聞いたわ! 婚約者に決まったってことでしょ!」
「私の婚約が決まったとは、父から聞いたことがありません。」
キャサリンは冷静にエミリーに言うと、ニッコリと微笑んだ。
「エミリー様の言われた『少し』にはお付き合いしましたので、失礼しますね。図書館に資料を戻しに行きたいのです。邪魔をしないでいただけると嬉しいですわ。では、ごきげんよう。」
エミリーはまだ何かを言いたそうにしていたが、キャサリンはスーザンを促して、その場を離れた。
「なんだか、すごかったわね。」スーザンが気の抜けたような声を出した。
「エミリー様のこと? ステフにも話しかけていたし、耐性ができていたから。」
キャサリンが、何でもないわ、と笑う。
「キャサリンは普段はおっとりしているけど、さっきのやりとりを見たら、貴族令嬢なんだなあって再認識したわ。」
「私だって、アスター侯爵家の者として教育を受けているのよ。やろうと思えば、貴族らしく出来るんだから。」
キャサリンはそう言うと、『妖艶な笑み』を浮かべた。




