代理
キャサリンは、フレデリック王子の言葉を頭の中で繰り返す。
殿下のおっしゃる通り、ステフの代わりとして、私は確かにぴったりかもしれないわ。急遽、パートナーを見つける必要が出て、友達のパートナーを借りる。まあ、一応、理屈は通るけど。。。
でも、3年生には殿下のはとこのマーガレット様もいらっしゃるわ。マーガレット様は隣国の侯爵家に嫁がれることがお決まりのはず。周囲に騒がれたくない、かつ、今回限りのパートナーという理由なら、彼女をパートナーにした方が良いわよね。。。
「殿下のファーストダンスのお相手になれ、ということでしょうか? 今回限り、で。」
キャサリンはフレデリック王子をしっかりと見つめて言った。
「ああ、君は聡いな。もちろん、それだけじゃない。」
フレデリック王子はニヤリとした笑みをやめ、真面目な顔になった。そして、秘密裏に処理したノエア草のこと、ステファニーとは夏休み中に婚約解消する予定のことを、キャサリンに説明した。最後に、
「そんなわけで、キャサリン嬢、私の婚約者になってもらえないか?」
キャサリンの心には、フレデリック王子の提案に驚く自分と、どこかそれを予想していた自分とがいた。
「殿下のお話しは理解いたしました。私を婚約者に選んでくださった事は、ありがたい事だと思います。ただ、突然のことで、なんとお返事したらいいのか、、、混乱しております。」
キャサリンの口調はいつにも増してゆっくりだ。しかし、口から出てくる言葉は、はっきりと力強い。
「婚約についての返事は、今すぐでなくて構わない。簡単に決められることではないからな。学園パーティーについては今日聞きたいのだが、そっちはどうだい?」
フレデリック王子はいつのまにか頬杖をついていた。そのまま右眉を持ち上げ、キャサリンの返事を促す。
「パートナーについては、お引き受けいたします。よろしくお願いいたします。」
キャサリンは即答した。
「そう言ってくれて良かった。説得する手間が省けたよ。」
フレデリック王子はキャサリンに言うと、エドワードに顔を向け、頷いた。
エドワードが隣室へと繋がるドアを開くと、数人の侍女が入ってきた。ドレスを持っている人もいる。
「キャサリン、来週はこのドレスを着て欲しい。ステファニー用に仕立てたもので悪いが、私のパートナーを引き受けてくれた礼として受け取って欲しい。2人は背格好が似ているから着られるだろう。手直しは彼女たちがやってくれるから、今日は試着してから帰ってくれ。じゃあ、君たち、あとはよろしく頼む。」
最後の一言を侍女に向けて言うと、フレデリック王子はエドワードと一緒に隣室へと行ってしまった。
同じ代理とはいえ、単なるパートナーと、王子からドレスを贈られてのパートナーとでは重さが違うと抗議したくなったキャサリンだったが、フレデリック王子は一言も話す隙を与えなかった。




