打ち合わせ
日曜の午後、アスター侯爵家二女のキャサリンは、王城へと向かう馬車に揺られていた。
一昨日、ブランドン伯爵家三男のエドワードから手紙を受け取った。手紙には「学園パーティーでのエスコートについて相談したい、時間が取れないから王城まで来て欲しい」という内容が書かれていた。
週の初めに、エドワードの妹のステファニーが木から落ちて、領地に静養に行くことになった。そのためか、エドワードも、ステファニーの婚約者のフレデリック王子も、学校でずっと忙しそうにしている。
王城に来て欲しいなんて、エディ様は、この週末にフレデリック殿下のお手伝いでもしているのかしら? お二人とも大変ね。
それにしても王城に呼ばれるなんて緊張するわ。お姉さまやステフの付き添いで来ることはあったけど、私ひとりは初めて。本当に広いわ。
ステファニーが王城の中門に着くと、騎士に案内すると言われた。騎士の後をついて、キャサリンは奥へと歩いた。
そして、ある扉をノックすると、中から声がした。
今の声って、エディ様じゃないわね。フレデリック殿下かしら。
キャサリンが不思議に思いながら、部屋の中に入ると、案の定、フレデリック王子とエドワードがいた。
部屋の右半分にテーブルとソファの応接セットが置かれ、左半分には何も置かれていなかった。
キャサリンは、フレデリック王子の向かいに座るように言われた。エドワードはフレデリックの後ろに立つようだ。
キャサリンが腰をかけると、ふいにフレデリック王子が話しかける。
「キャサロン嬢、あなたにお願いがあります。今度のパーティーで、あなたのエスコートをさせていただけますか?」
フレデリック王子が優しい微笑みを浮かべた。
キャサリンは、じっとフレデリック王子を見ている。何も言わないので、フレデリック王子がもう一度話そうかと思った時、やっとキャサリンは口を開いた。
「殿下、私にはそのようなお顔は要りません。普段通りなさってください。」
フレデリック王子は眉を上げ、少し驚いた顔をした。
「そのような顔とは、どういう意味ですか?」
「ステフといる時のような顔で構いません。殿下には、優しい微笑みは似合いませんよ。それで、なぜ私なのでしょうか?」」
フレデリックは優しい笑みを引っ込めると、苦笑いに変えた。
「優しい笑みが似合わないなんて、ひどい言われようだな。まっ、実際にその通りだが。」
「君をパートナーに選んだのには、ステファニーの代理として申し分ないからだ。下手な令嬢を選んでしまうと、次の婚約者かと周囲が煩わしい。でも君なら、その心配はほとんど要らない。まず、ステファニーの親友である。そして婚約者がいない。さらに、普段の君のパートナーは、私の友であるエドワードだ。今回限りのパートナーとして、条件は十分だろう?」




