高等部へ入学
ギルバート王子と婚約した次の年、ダイアナは15歳になった。
週に2回のお妃教育とギルバート王子との木曜のお茶は、まだ続いている。しかし次の春からは、毎週のお茶会はなくなるだろう。
なぜなら、ダイアナは4月から学校へ通い始めるからだ。
リエヴォード王国では、6歳から6年間の初等教育、その後に3年間の中等教育、さらに3年間の高等教育が行われている。
初等教育は義務教育であり、庶民の子のほとんどは初等学校へ通う。しかし貴族の子は大抵の場合、家で家庭教師を雇って教わる。
中等教育は義務教育ではないので、受けられる子供は少ない。男爵などの下位貴族の子、爵位を継げずに騎士を目指す子爵家の次男三男、裕福な庶民の家の子などが、中等学校へ通う。高位貴族は、引き続き家庭教師から学ぶことが多い。
そして高等学校では、貴族社会にデビューするために必要なことを学ぶ。交友を広めたり、自国のみならず他国の言葉やマナーを習ったり、国の中心となれる人材の育成を目的に、様々なことを行う。
高等学校は王都にしかないため、学校には寮も併設されており、家から通う者より入寮する者のほうが多い。
アスター侯爵家は王都の中心部に邸を持っているため、ダイアナは家から通うことにした。同学年であるギルバート王子も高等学校へ入学する。彼は、王族の慣例通り入寮することになっている。
入学を半月後控え、ダイアナは母と一緒に学校の準備物を確認していた。
「ディー、制服の大きさはちょうどいいみたいね」
母である侯爵夫人が、制服を着たダイアナを見てにっこり微笑んだ。
高等学校の制服はシンプルな紺のワンピース。夏服は涼しげな水色で爽やかな印象だ。
首元結ぶリボンは何色でもよく、令嬢がささやかに個性を主張するポイントになっている。
ダイアナ首に結ばれた臙脂色リボンを見て、公爵夫人は困ったような表情を浮かべた。
「もう少し明るい色にしたら? 朱色なんかはどう?」
母の提案に、ダイアナは静かに首を横に振った。
そんな2人のやりとりを見ていた妹のキャサリンが口を開いた。
「お母様の頃は、どんな服でした?」
「制服は今昔も同じ、紺のワンピースだったわ。私の頃は夏も紺だったけど。」侯爵夫人は、2人の娘を交互に見ながら話し始めた。
「リボンは季節に合わせて替えたわね。4月の桜色から始まって、躑躅色の赤紫色。夏の始めになると青紫の桔梗色で、それから空色や露草色にして、、、。」
そこで一息つくと、ダイアナを見て微笑んだ。「ディーが入学だなんて、月日が経つのは本当に早いわ。」
「学校での3年は、とても貴重な時間よ。あなたは、卒業するとすぐにギルバート殿下と結婚することになるでしょうから、この3年は、いろいろな方と交流を深めて最後の自由な時間を楽しんでね。たまには羽目を外して、私を怒らせてちょうだい。」
侯爵夫人は、いたずらっ子のような笑みを浮かべて、最後の一文を言った。
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