プレゼントの理由
アスター侯爵がどう対応したのか、バーグマン男爵やジェシカはどうなるのか、ダイアナには全くわからないまま、王城舞踏会は無事に終わり、学校は年末年始休暇になった。
ダイアナは、両親と妹の4人でアスター侯爵領へ帰った。
ダイアナが生まれた頃、アスター侯爵領都と王都の間に汽車が通った。馬車で数日かかった移動が、たった半日で済む。「馬車で移動していたら、年末年始のお休みなんて移動だけで終わっちゃうわ。」というキャサリンのセリフに、ダイアナは心から頷いた。
隣国と王都を結ぶ街道が領都を通っているため、アスター侯爵領には珍しい物もよく入ってくる。そのため、市場もかなりの賑わいを見せる。
ダイアナはキャサリンと一緒に、市場に買い物に行った。活気あふれる街の様子は、2人ともお気に入りだ。
最初のアクセサリー店で母へのペンダントを買い、次の雑貨店で父へのハンカチを買った。隣のカフェで休憩し、ダイアナは果物のタルトを、キャサリンはパンケーキを食べた。
少し道を歩いた先にある手芸店で、隣国で流行りだというリボンや端切れ布、刺繍糸を買った。
そして、最後に文具店へやってきた。
店に入ると、店主がキャサリンに声をかけてきた。
「お嬢さま、れいのインク、ちょうど昨日入荷しましたよ!」
「ほんとう? 見せてちょうだい。」キャサリンは驚きと嬉しさの混ざった声で答えた。
店主がカウンターに並べたインク瓶を、キャサリンはいろいろ試し書きをしている。キャサリンの左側からその様子を覗きながら、ダイアナが店主に聞いた。
「れいのインクって? 特別な物なのかしら?」
「特別っていえば、特別です。ある行商人からしか入手できないんですよ。しかも、そいつ、月に2回来るときもあれば、半年もこないときもあって。。。」店主がしかめ面しながら説明を続ける。
「伸びも乾きもいいインクなんですが、取り扱いが難しいんですよ。頻繁に混ぜないとダマができてしまうし、瓶によって微妙に書き心地も違うし。いろんな意味で特別ですね。」
「これと、これにするわ。」キャサリンは店主に代金を払うと、店主はインク瓶2つを別々に包み、キャサリンに渡した。
「そのインク、あなたが使うの?」帰り道でダイアナがキャサリンに聞いた。
「違うわ、私じゃないわ。1つはお父様で、もう1つはエディ様よ。」キャサリンは包みを指差しながら答えた。
「お父様はわかるけど、エディ様にも?お誕生日じゃないわよね?」
「そんな特別な物じゃないわよ。」キャサリンは軽く笑った。「この前の夏にエディ様が来たでしょ? その時にお父様の手伝いをして、そのインクが気に入ったらしいの。でもあの時は買えなくてね。今日は売っていたから、、、ついでよ。つ、い、で。」
ダイアナがまだ納得していない顔をしているので、キャサリンはさらに続けた。
「お姉様だって、前に買い物に行った時にバタークッキーを買ってきてくれたでしょ? 普段はすぐに売り切れるのに、お店の前を通ったらまだ売っていたからって。あれと一緒よ。特別な意味なんてないわよ。」




