サロンでの相談
ダイアナは、深いため息をついた。人目のつきにくい食堂の隅で昼食を取っていたが、あちらこちらから視線が向けられている。しかしこちらが顔を上げ左右を見ると、みんな一様に顔を背ける。
ジェシカと王子が閉じ込められてから1週間、ダイアナはほとほと疲れていた。
いつもなら友達のブリジットが、盾のように周囲の不躾な目を遮ってくれるのだが、今日は体調が悪いと休んでいる。自分も休めば良かったと思いながら昼食を取り終わると、ダイアナはさっさと食堂を後にした。
自分の教室の前の廊下に誰かが立っている。ジェシカだ。1年生の教室は下の階なので、わざわざ会いにきたのかもしれない。
ダイアナが近づくと、ジェシカが話しかけてきた。
「ダイアナ様。話を聞いていただけますか? 私、どうしたらいいかわからないんです。。。」
ジェシカはかなり思い詰めた様子だった。
周りの人に聞かれたくない話に違いない。午後の授業をサボってサロンに行けば、誰もいないだろう。ジェシカのこの深刻な様子では授業を聞いても耳に入らないだろうし、自分だって教室を離れる理由が欲しい。
サロンに着くと、ジェシカはダイアナの目を見つめ、さっそく話し始めた。
「ご迷惑をおかけして、本当にごめんなさい。ダイアナ様も耳にされた、準備室での噂、デタラメなんです。」
「謝らなくて大丈夫よ。ギルバート殿下からも説明されたから、知っているわ。荷物を取りに戻ったら、閉じ込められてしまったのでしょう?」
ダイアナはジェシカに同情の目を向けた。自分よりも、殿下を寝取ったと噂されているジェシカの方が、周囲の風当たりが強いに違いない。
「・・・荷物を取りに戻ったというのは、本当は違うんです。」ジェシカは1つ大きな息を吐くと、口端をギュッと噛みしめた。そして少しの間、自分の握った手を見つめた後、意を決したように話し始めた。
「父の計画でした。」
ジェシカは、あの日の出来事を全てダイアナに伝えた。
「帰宅して父は『この醜聞でジェシカはまともな結婚ができなくなるが、ギルバート殿下は我が家に引け目を感じるに違いない。そうなれば、いろいろな手段が取れるようになる』と言いました。私は殿下を騙すようなこと、絶対にしたくないんです!」最後のセリフを強い口調でハッキリと言った。
そして断言した後、ジェシカは顔を下に向け、俯きながら続けた。
「でも、もしこの事を正直に話して、父が処罰される事になったら、バーグマン家はどうなるのでしょう? 私は父の計画の相棒を担いでしまったから、どうなってもいい。修道院で生涯を過ごす覚悟もあります。でも弟や妹はどうなります? 私が何も言わなければ、2人とも平和に過ごせるかもしれないのに。」
「ダイアナ様、私、どうするのが正解か、わからないんです。誰に相談したらいいのかも、わからない。。。おねがい、、だれか、、おしえてください。。。」
ジェシカの大きな瞳から、涙が溢れた。




