準備室
12月の半ばに王城で舞踏会が開かれる。この舞踏会は、成人を迎えたすべての貴族が参加する、とても規模の大きなものだ。
この舞踏会の後に、領地持ちの貴族は自分の領地に帰り、年末年始を領民と過ごす。一方、王都は静かな時期を迎える。
高等学校に通う生徒は、まだ成人を迎えていないので王城舞踏会には参加出来ない。だから全く無関係かというとそうではなく、両親と一緒に領地に戻る生徒も多いので、舞踏会後は一気に学校から人が減る。
舞踏会を今週末に控えた今日、生徒たちは休みをどう過ごすかに心を躍らせ、足取りも軽い。
学校全体が浮き足だった空気に包まれている中、ジェシカは1人、混乱の渦の中にいた。
ジェシカは今日の出来事を思い返していた。
午後の授業が始まってすぐ、父が面会に来ていると言われ、正門へ行った。
父が「誰にも聞かれたくない話がある」と言ったので、図書館の地下にある資料準備室へ行った。図書館の地下は亡霊が住むといわくつきなので、人はめったに近づかない。
そこで父から、王城舞踏会で国王の暗殺計画があること、阻止するためギルバート王子の協力が必要なこと、他の人に気づかれずに王子をこっそり連れてくる方法を説明された。
ジェシカは父の指示どおりに行動し、父が待っているはずの資料準備室にギルバート王子を連れてくることに成功した。
しかし、そこに父は居なかった。さらにドアが開かなくなってしまった。ギルバート王子がなんとかドアを開けようとしたが、全くの無駄だった。ジェシカは混乱した頭で必死に考え、暗殺計画を知った父が拐われたと結論づけた。そして、ひたすら父の無事を祈った。
父が、男爵家に有利な取引ができるようにギルバート王子とジェシカの醜聞を作り出そうとしているなんて、ジェシカは夢にも思っていなかった。
ちょうど同じ頃、ギルバートの友だち数人が、ギルバートを探し回っていた。すぐに戻るはずの王子がなかなか戻らず、ジェシカの言った図書館の資料室に様子を見に行ったのだが、誰の姿もなかった。実際は王子たちは地下の資料準備室に居たのだが、彼らは別の階段から下りる出ると有名な修繕準備室を探したのだった。
生徒たちがバタバタしていることに気がついた司書の先生によって、修繕準備室とは別の、もう一つの準備室=資料準備室のドアが開けられたのは、ギルバート王子とジェシカが閉じ込められて2時間近くが経った時だった。
男女が密室に2人きりでいたという事実と、今まで広まったギルバート王子とジェシカの噂とが合わさり、ついに2人が一線を越えたというスキャンダルが、一気に学内を駆け回った。




