父の思い
11月になると、秋が深まり冬の気配が感じられるようになる。
このところ高等学校を駆け回っている噂は、ジェシカがダイアナに宣戦布告をしたというものだった。
自分とギルバートは、薬草園や温室で逢瀬を重ねている。
邪魔なダイアナがいるから、自分はギルバートと恋人になれない。
自分は陰からひっそりとギルバートを想っているだけだ。
ダイアナはギルバートの幸せを考えて、身を引け。
こんな事を、ジェシカがキャサリンを通じてダイアナに伝えた、そんな噂だった。
そして、これらの噂は生徒の親にも広がり始めた。
この日、アスター侯爵は、娘のダイアナを執務室に呼び出した。
「お前やギルバート殿下に関する噂については、私も聞いているよ。殿下は品行方正なお方だから、婚約者がいながら別の女性と親密になるようなことはない、と断言できるだろう。それは、お前もわかっているね?」侯爵はいつになく真剣な表情だ。
「はい。殿下とジェシカさんの話は、事実でないとわかっております。」ダイアナはきっぱりと答えた。
侯爵はダイアナの答えに頷くと、ダイアナに質問をした。「私はバーグマン男爵令嬢を知らないが、ディーから見て、彼女はどんな子なんだい?」
「そうですね。。。喜怒哀楽を割とはっきりと表します。そして、すぐに行動に移すように思います。自分の考えに正直に動かれる方だと思います。」ダイアナは、学校で見るジェシカの様子を思い出し、考え考え、答えた。
「なかなか真っ直ぐなお嬢さんのようだね。そこは安心できそうだ。」侯爵は今日初めて微笑んだ後、再び顔を引き締めて、話を続けた。
「ただ、そういう真っ直ぐな気性の人は、他人の隠された悪意に気がつかない。バーグマン男爵は野心の強い人だと聞く。娘を使って何かしてくることも有り得る。」
普段は見ない父の真剣な顔に、ダイアナの顔も心も引き締まる。
「いいかい、何か困ったことがあったら、すぐに言いなさい。ディーが望めば、いつだって婚約解消したらいいのさ。私は、娘を王子の妃にしたいなんて、全く思っていないからね。」
バーグマン男爵の耳にも、学校で広まっている噂が届いた。
火のないところに煙は立たないという。娘とギルバート殿下とが恋仲でなくても、全く顔を知らないわけではないだろう。友達といったところか。
バーグマン家はもともとは商人だった。曽祖父の代に、とても希少価値のあるピンクダイヤモンドを献上したところ、当時の王妃がいたく気に入り、男爵位を授かった。商売の規模が大きかったこともあり、男爵位は祖父へ引き継がれた。
男爵としては裕福だが、上位貴族との繋がりがあまりない。公爵家や王族と取引をするためには、せめて子爵位は欲しい。できれば伯爵位が。
ギルバート王子が卒業するまでの数ヶ月、この間になにか手を打たなくては。ここが頭の使い所だ。何か策を練らなければ。。。




