突然の嵐
この学校の昼休みの時間は、昼食をとる時間も含まれているため長い。今はまだ午後の授業まで時間があるので、教室には10数人の生徒しかいなかった。
ジェシカは自分の教室を飛び出すと、隣のキャサリンの教室に飛び込んだ。
先ほどのお昼を食べている時に、ジェシカは友達から自分とギルバート王子との噂を聞いた。全くの事実無根の内容に、ジェシカは混乱した。混乱した頭で、なんとか解決策を考えた。
とりあえずダイアナに謝らなくちゃいけない!でも、親しくない上級生を突然訪ねるのはマナー違反よね。そうだ、ダイアナ様の妹のキャサリン様に仲介を頼もう!
ジェシカは教室にズカズカ入ると、一目散にキャサリンの目の前に歩いてきた。
そして、教室中に響き渡る声で言った。
「キャサリン様!ダイアナ様に伝えていただきたい事があるんです! ギルバート殿下とのことなんですけど、私、殿下とデートなんてしたことありません!一緒に薬草園に行ったり温室で作業したりはありますけど、デートじゃないんです! それに、ギルバート殿下と恋仲でもないんです!確かに、殿下のお顔は綺麗だしお体も大きくて格好いいなあって思いますけど! ダイアナ様がいるのに恋人になんかなれません!私が1人で素敵だなと思っているだけなんです!本当にそれだけなんです! 私のことなど気にせず、ダイアナ様はギルバート殿下とお幸せになってください!」
ジェシカはここまで一気に言うと、「では、よろしくお願いします!」と言って、来た時同様に脇目も振らず、教室から出て行った。
キャサリンは何が起こったか、理解できなかった。突然に竜巻が現れて、自分の家を直撃し、あっという間に過ぎ去ったようだった。
「キャシー、今のって、隣のクラスのジェシカさんよね?」キャサリンの隣に座っていたステファニーが、ジェシカが出て行ったドアを見ながら呟くように聞いた。ステファニーとキャサリンは同じクラスである。
「そのはずよ。名乗らなかったけど、合同授業で何度か見たことがあるし。」キャサリンも、ドアを見ながら、やはり呟くように答える。
突然の嵐に2人とも理解が追いつかず、ポカンとしたままドアを見続ける。
2人だけでなく、教室にいる全員が、一言も話をせずにドアを見ている。
教室内は不思議な静寂に包まれている。
しばらくして、やっとキャサリンが口を開いた。
「どうしましょう。お姉様へ伝えて欲しいと言われたけど、彼女の言ったこと、一つも覚えられなかったわ。」




