噂の当事者
ギルバート王子は放課後によく訓練場へ行く。騎士を目指す生徒たちが行う自主訓練にまじり、一緒に体を動かす。
ある日、訓練が終わって寮へ向かう道を歩きながら、仲のいい男子生徒たちと話をしていた。
「殿下、温室でキスしたって本当ですか?」ギルバート王子の後ろから2年生の男子生徒が聞いた。
「髪の毛にしていたってヤツとは別のか? 彼女の髪を一房掬って口づけたってヤツ。」ギルバート王子が答える前に、ギルバートの隣を歩いていた3年生の生徒がニヤニヤしながら言う。
「あれ? 僕は、彼女の首筋にキスしたって聞きましたけど?」ギルバート王子の斜め後ろからも声がする。
「勘弁して欲しい。話がどんどん大きくなってないか。。。?」ギルバート王子が呆れた声を出した。
ここにいる生徒たちは、噂が事実でないと知った上で、ギルバート王子をからかっているのだ。
「髪を掬うってヤツは、ジェシカ嬢の髪が枝に引っかかったのを解いたのが、元ネタでしょうね。」2年生男子が言った。声に笑いが含まれている気がする。
「お前も一緒に解いただろ? なんで口づけに変わるんだ。。。」張りのない声でギルバート王子が言う。
「角度によっては、首筋にキスしているように見えるんですかねえ?」
「イヤ、どう見えたかじゃなくて、どうだったら面白いかじゃないか?」
「噂なんて、面白ければ勝ちのところがありますからねえ。」
周りでみんなが好き勝手に言うのを聞きながら、ギルバートは深いため息をついた。
ジェシカを嬢を初めて見たとき、確かに、ギルバートの目は、彼女の髪に釘付けになった。
太陽の光の金色、王家の旗に描かれた金獅子の輝き、尊敬する父と敬愛する兄と同じ金の髪。
その後も彼女を見かけるたびに、ついつい目がいってしまう。
しかし、それも一瞬だけだ。髪色が気になるだけ。ただ、それだけ。
自分にはダイアナという婚約者がいる。婚約者以外の女性に特別な態度を取るなんて王族としてありえない。
昨日、廊下でジェシカ嬢を見かけた時に体が固まりかけたのだって、新たな噂の種にならないように警戒しただけ。
そう、きっとそれだけのはずだ。




