村人、旅立つ
ガロンがマイルに『挑戦』と言うなの試練を出された日からちょうど一週間後。
この日、ガロンは冒険者となるべく、冒険者ギルドのある辺境都市『エルドラ』へと朝イチで出発しようとしていた。見送りにはガロン一家と領主のリオネスエミル夫妻、後は長年仲の良い村の人たちが・・・というか村のほとんどの人が集まっていた。
「しっかし辺境都市とは・・また遠くの冒険者ギルドを選んだんだなガロン。」
ハロンが腰に手を当てながらガロンにそう言うと。今度はその隣にいたベルスタがハロンの言葉に続けるように言った。
「そうね。確か『エルドラ』からこの村までは馬車を使っても大体一月くらいかかるんだっけ?気軽に帰れない距離だけれど、なんでわざわざそんな遠くの冒険者ギルドにしたの?」
そう言ってベルスタはガロンにそう疑問をぶつける。
その疑問にガロンはというと。
「確かにこの村の近くの街にも冒険者ギルドがあるけれど。どうせなら辺境都市まで行って何もかも一からスタートしてみようかと思ってね。それにマイル母さんから出された『挑戦』も効率よくできそうだからね。」
ガロンはそう言って手に持った手紙をヒラヒラさせた。
「ガー君分かっていると思うけど、その手紙はガー君が一年以内に『A』ランクになったらギルドの人に渡すのよ?」
マイルはそう言って手紙を未だヒラヒラさせているガロンに念には念を入れてそう言いつける。そんなマイルに両隣にいたハロンとベルスタは
「マイル姉、そんな念を押さなくてもガロンは分かってるって。こいつは約束だけは絶対に守るできた息子なんだぞ?素直に信じてガロンを見送ろうじゃねえか」
「ハロンの言う通りよ姉さん。あんまり心配しすぎてしつこすぎるとガロンに嫌われるわよ?それでいいの?」
「よくない!よくない! ガロン!母さんを嫌わないよね!?
「嫌わない嫌わない。だから落ち着いてマイル母さん」
ハロンが未だ心配するマイルに「信じろと」力強くそう言い、その発言に対してベルスタが同意する。ついでにベルスタは最悪な予想を呟くとそれを聞いたマイルが涙目にながら否定し、更に確認するようにガロンに聞く。ガロンはそんな母に苦笑しながら落ち着くように促していた。
そんな中取り乱した姉を実にドSな顔で見ていたベルスタはふとあることに疑問を持った。
「・・・・・ところで、なんで『A』ランクになったら渡してなの?ギルドならどんなランクでも手紙は渡してもらえるはずなんだけど?」
ベルスタはそう言って未だ目に涙を溜め続けているマイルにそう聞く。
マイルはマイルで涙声になりながらも答えた。
「グスっ だってその手紙、ランク『A』以上じゃないと届かないんだもの」
「ランク『A』以上じゃないと届かないって・・・・あー、なるほど」
ベルスタはただそれだけの情報でこの手紙がどこに届けられるものなのかが瞬時にわかり、納得したような声を上げた。
そうこうしているうちにガロンが出発する時間になった。
「んじゃ、そろそろ行くとするか。」
そう言ってガロンは長旅用の黒いマントを羽織り笠を被り出発の準備をした。
「ガー君体に気をつけてね?いってらっしゃい!」
「ガロン、飯はしっかりと食えよ。帰ってきたとき痩せてたらぶっとばすからな」
「これから自分でお金を稼ぐことになるけれど散財はダメよ?少しでもいいから貯金しなさい?いざと言うときに使えるから」
「分かったよマイル母さんハロン母さんベルスタ母さん。」
上からマイル、ハロン、ベルスタの順にガロンに声をかける。マイルは純粋に体を心配して。ハロンはガロンの食生活を念押ししベルスタは貯蓄することを勧めていた。
「兄さん、お気をつけて。たまには手紙を出してくださいね・・・・生存報告でもいいので」
「いや、ちゃんと手紙にするよキュウ。」
三人の母の次はキュウがそう言いながらガロンにたまに手紙を書くように呼びかける。サラッと最後の付け加えられた言葉にガロンは少し苦笑していた。
「・・・・装備」
「ああ、バレル実にいいぞこれ。動きやすいし俺にぴったりだ。」
「・・・・よかった」
バレルがボソリとガロンが現在着ている装備について触れた。ガロンが現在着ている装備は手先が器用なバレルが作った装備であり、バレルが東の国の裁着袴を参考に籠手と具足、胸当てと何故か真っ黒なマフラーがセットでついており、ガロンの動きをあまり制限しないような調整された装備に仕立てられていた。
「にいちゃんカッケー!なあなあバレルにいちゃん俺にもガロンにいちゃんが着ているみたいなの欲しい!」
「リットル、ガロン兄は『冒険者』になるからバレル兄に作ってもらったんだよ?それにリットルにも私にもまだあれは早いよ。」
「ええーー・・」
「ハハハハ、二人とももうちょっと大きくなって『冒険者』になるようならバレルに作ってもらいな。」
リットルがガロンのきている装備に目を輝かせてバレルに同じようなのが欲しいと強請るがそれをミリーが嗜めリットルは口を尖らせて不服そうな顔をしていた。そんなリットルとミリーにガロンは
笑いながら二人の頭を撫でる。
「それじゃあガロンさんくれぐれも怪我がないように。後ギルドマスターの件も」
「分かってるってリオネス君。リオネス君も仕事のしすぎで過労死なんてやめてよ?あとあまり根を詰めると将来ハゲるよ」
「ハゲませんし死にません!孫の顔を見るまで生き抜きますよ!」
「その前に子供の顔だろ」
「「「「「「「「「「確かに。ははははは!!!」」」」」」」」」」
((かーーーっ!!))
ガロンの茶化しにリオネスがサラッと墓穴を掘ってエミルと仲良く顔を真っ赤にしているのを見て、周りにいた村人達は揃って笑い声をあげた。
そうこうしているうちにその時は来た
「それじゃあ行ってきます!!」
そう言ってガロンは手を振りながら辺境都市に向けて歩き始めた
その後ろではガロン一家と村人達が手を振りながら
「行ってらっしゃい!!」
「気をつけていきなよ!!」
「体壊すなよ!!」
「食いもんに気を付けろよ!!」
「嫁さん見つけて帰ってこい!!」
「ついでに孫も作ってこい!!」
「「何言ってんのこのバカ亭主共!!」」
「「「「「ガロン君!!今のは忘れて良いからね!!」」」」」
後ろで口々に見送りの言葉をかける村の人たち。途中おかしな見送りの言葉がかけられその後何か硬いもので人を殴ったような音が聞こえたがガロンは振り向かずに歩いていく。
目指すは行く先は辺境都市『エルドラ』へとガロンの旅は始まった。




