村人、相談を受ける
ガロンの実家『火龍の逆鱗亭』閉店後、突然やってきたリオネスとエミル。
とりあえず店主であるマイルは急な来訪であるはずなのに穏やかに店のバーカウンターの前まで案内して座るように促す。
リオネスとエミルもマイルの案内に沿ってバーカウンターに座る。すると今度はいつのまにかカウンターの中に入ったベルスタが
「なににしますか?」
しれっと注文を取ってきた。
「いやすぐに済むんで注文は」
「なににしますか?」
「だから注文は」
「なににしますか?」
「いやだから・・」
「なににしますか?」
「・・・・」
「な に に し ま す か ?」
有無を言わさず注文を取ろうとするベルスタの気迫にリオネスは気圧されるが、それでも尚ベルスタは笑顔のまま注文を聞いてくる。なのでとりあえずエミルが
「ベルスタさんとりあえずカルア二つお願い」
慣れたようにこの店でちょっと高い部類に入るお酒を自分の分とリオナスの分、二つ頼んだ。
「エミル!」
高めのお酒を注文したエミルを嗜めようと小声でエミルの名を呼ぶリオネス。しかし当のエミルはと言うと
「リオネス、私たちは閉店後、予約もせずに、いきなり、ここに来たんだよ。とりあえずここはなるべく高いものを頼まないとそこにいるベルスタさんにボコボコにさせられるよ。」
そう言ってエミルチラッとカウンター越しにお酒を用意しているベルスタに視線を向ける。
「ふふ〜ん♪ フ〜フ〜ン♪」
鼻歌を歌いながら高そうなお酒をガラスのコップに移すベルスタにリオネスは疑いの眼差しを向ける。そんなリオネスにエミルは
「言っとくけどリオネス。この酒場にいる女性三人とも元冒険者だからね。しかも今は引退しているらしいけど引退前はこことは別の国で結構有名だったみたい。『引退してここに移ってきた』ってきいたんだけど私もよくは知らないんだ。」
「なんだそれは?」
エミルの説明に怪しいものを見るような目でベルスタを見るリオネス。
そんなリオネスの前にいつの間にかコップが置かれていた。
「!?」
「カルア二つ、お待ちどうさま。」
そう言ってベルスタは先程まで持っていた酒瓶の蓋を閉めていた。リオネスはベルスタが、いつコップを置いたのかも気づかなかったため一瞬驚いたがそこは『元勇者』の意地でなるべく顔に出さず
「い、いただきます。」
ゆっくりと出された酒をのみはじめた。その隣ではエミルも同じように、しかしこちらは特に驚いたような表情はなくこれが普段と言わんばかりにゴクゴクと飲んでいた。
「ふーー、美味しいな。」
そしてリオネスが一息ついたあと、まずリオネスは。
「まずは、こんな時間に訪問してしまい申し訳ない。」
まず初めに謝罪をした。
「本来ならこのような非常識な時間に来る予定ではなかったのだが」
「全く本当だな」
「そうね」
「非常識」
「ダメな領主だ!」
「時間を考えて欲しい」
「普通・・なら・・一報・・入れる」
「あらあらダメな子なのかしら」
「母さん言い過ぎ」
「グハッ!!」
「リ、リオネース!?」
言い訳する前にガロン一家の何気ない罵倒がリオネスの心に刺さった。
隣で胸を抑えるリオネスにエミルが心配する様にリオネスの名を叫ぶ。
「んで、ダメ領主様よ、一体何の用なんだ?くだらねえことだったらすぐに追い出すぞ。」
「グホッ!?」
「ハロン母さん一応リオネス君ここの領主だからね?不敬罪になるよ。」
「は!そうなったら暴れて逃げてやらあ、いてえ!」
「あなた一応居候なんだから私の前で馬鹿な真似しないのよ?分かった?」
「ううー〜〜・・いてえ・・分かったよマイル姉。」
「それよりもリオネス君大丈夫かい?ごめんよ、ハロン母さんは嘘がつけない性格なんだ。」
「ゲハッ!! そ、それはそれで酷いですね。」
またもや何気ない罵倒とガロンのフォローになっていないセリフに今度は吐血するようなポーズを取るリオネス。そしてその隣ではエミルが今度は背中をさすりながら心配する。
そして数分後
「ゴホン! それでは本題に入ります」
ひと段落したリオネスが落ち着いたあと、切り替えるように一つ咳払いをし、話を再開し始めた。
「今日来たのは他でもなくガロンさんに相談、というかお願いにきました」
「俺に?」
自分の名を呼ばれガロンは己を指差しそう聞く。リオネスはそんなガロンに一つ頷くと
「ガロンさんあなた・・・」
そう言ったあとリオネスは一拍おき
「冒険者になりませんか?」
ガロンにそう提案してきた。




