村人、決着がつく
前話にて土曜日に更新すると書いていましたが諸事情により今日投稿させてもらいます。
申し訳ありせん
先程まで騒がしかった闘技場内が静まり返る中、闘技場の観客席にいる冒険者の視線のほとんどはある二点点に向けられていた。
一点は今も巨大な刀を笑いながら振り回し、大斧を振るうオークのトンダと槍を絶え間なく突き続けるコボルトのダッケンを相手に互角以上に戦り合う、巨大な体躯を持つ『獣鬼』、クシュラに。
そしてもう一点は先程ゴブリンの双子、ゴーブとリンゲの片腕を斬り落としもう片方を蹴り砕き、それを助けるため矢を放ったゴークズを謎の無色魔法の鎖で地面に落としたガロンに向けられていた。
しかしクシュラとガロンに向けられるほとんどの視線は意外なことに『恐怖』ではなく『驚愕』や『好奇心』、『羨望』、そして『憧れ』であった。
クシュラは単純にその身体の大きさと風貌に初見は恐怖されていたが、その戦い方は冒険者、特に前衛戦闘職の者達は唸らし、それと同時に嫉妬させるものであった。
何故か?
それはクシュラのその戦い方が二刀流によるまるで舞のような華麗な回避と魂の震えるような怒涛の練撃の繰り返しあったためであった。
何故そんなことで?と思われるかもしれない。
しかしこれは口で言うのは簡単だが実際にやってみるとでは話が違う。
まずは舞のような回避は相手が一人であればそれなりの実力者であればできるであろうが、二人となればそれはごく一部となっていき数が増えれば更に減っていく。しかもそれを相手が自分一人だけに意識を向けるように動きかつ、味方の邪魔をしないように動けるものは果たしてどれだけいるのであろうか。
更にそれに加え、合間合間に見極めたがごとくの怒涛の練撃を繰り出した後、引き際を見誤らない者達はこの世界に数人くらいしかいないであろう。そう言われるほど高度のものであった。
クシュラの戦い方を重点的に見ている冒険者達の中には純粋にクシュラの戦い方に尊敬の目を向けるものの他に、まるで勉強のようにクシュラの一挙投足を観察しその技を自分のものにしようと集中する冒険者達が数多く居た。
そしてもう一方のガロンに向けられている視線のほとんどは何故か魔法使いであり、魔法使い達は静かにガロンの試合を見るのではなく、何やら話し合いながら真剣な表情をしていた。
しかしそれもそうであろう。
何せガロンが見せた魔法は歴戦の魔法使い達でも見たことがない技であったのだから。
魔法使い達は口々にガロンが戦闘中に言った魔法名、その前に付け足されていた言葉。
‘無色魔法『影』系統’
‘無色魔法『鎖』系統’
‘無色魔法『魂』系統’
系統と呼ばれる『影』、『鎖』、『魂』について自身の仮説を立て他の魔法使いに同意を求めたり魔法使い同士で再現できないのか話し合ったり、挙げ句の果てには今すぐガロンに迫り聞き出したいと闘技場に入ろうとして周りの人たちに羽交い締めにされたりするものもいた。
しかしそんな観客席に対してガロンはと言うと
「さてと、向こうはどうかな?」
特に周りを気にした様子はなく、足元に転がる三人を無視し、覗き込むような手をしてクシュラの方に視線を向けた。
その視線の先では現在クシュラがトンダとダッケンの持つ大斧と槍を片方それぞれに持った刀で受けとめ、先程のガロンのように大斧の爆発に巻き込まれる前に盛大に吹き飛ばしていた。
『くかかかかかかか!!! どうしたどうした?!!お前達の実力はその程度か!!』
楽しそうな声を出しながらトンダとダッケンを刀の腹や峰で叩き飛ばすクシュラ。
そんな確実に殺さないように手加減をし、楽しんでいるクシュラにガロンは呆れたような声を出した。
「おーいクシュラ。いつまで戦っているんだ?こっちは終わったぞ」
『なっ?!マジか?!!』
ガロンの声に気づいたがクシュラは驚いた顔をして武器を振るい果敢に攻撃を仕掛けてきたトンダとダッケンの攻撃を飛んで回避をしてそのままガロンの後ろに着地した。
“スッ・・・・・・”
先程の踏み込みと違う静かな足音を立てながら半ば浮くように背後に立ったクシュラにガロンは呆れたような視線を送ると
「久々に出てきたからって遊び過ぎだろうクシュラよ」
更に呆れた口調で背後にいるクシュラを頭だけ振り返りながら見上げるようにしてそう言うガロン。
そんなガロンにクシュラは手に持った刀を‘ガツン!!’と地面に突き刺すと
『いや、遊んでいたわけではない。終わらなかったのはあいつらが何故だか異常なほど頑丈だったからなんだが』
「頑丈?・・・・・・・・なるほどそう言うことか・・・」
クシュラの言葉にガロンは不思議そうな顔をした後、視線をトンダとダッケンに向ける。するとガロンのその目がうっすらと蒼く光ったかと思うとガロンは何か納得したかのようにそう呟くと。
「あの二人、薬と魔道具で自分たちの身体能力と自然治癒力を高めているみたいだな。だからお前の今までの攻撃を受けても平気のようだぞ。・・・というか一応手加減してたんだなお前」
あっさりとその秘密を看破し、なんとでもないと言わんばかりにそう言ったのと同時に、クシュラが本気でやっていないのを知り驚いた表情をした。
『手加減しろって言ったのはお前だろう・・・・しかしこれ以上俺は本気を出せないんだが・・・どうする?』
クシュラは「心外だ!」と言わんばかりの表情をした後、ガロンに向けて何か含みのある声音でそう言うと、ガロンはそんなクシュラに仮面越しに小さな笑みを浮かべた後すぐに顔を引き締めたかと思うとその場で腕を天に突き上げ叫ぶ
「どうするって?分かっているだろう・・・出し惜しみもなくこうするんだよ!! 無色魔法『魂』系統‘我が魂は鎧となる’!!」
『はっはあああ!!!! よっしゃ!!やるか!!』
叫ぶガロンとそれに応えるように咆えるクシュラ。
それと同時にガロン達から周りからわかるほどの強大な魔力が吹き荒れそのままガロン達を包み込み始め、ガロン達の体は魔力の風の殻に覆われた。
「く、くそ!! なんなんだよお前!!!」
魔力の暴風に吹き飛ばされそうになりながらもなんとか飛ばされないように踏ん張るトンダが怒りのこもった声でそう叫ぶ。
そしてしばらくして
“パリン!!”
何かが割れるような音と共に魔力の風が霧散し
“ザシュウ!!”
「「え?」」
『強欲の爪』残りの二人の腕と鮮血が舞った




