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村人、とその半身

 形をなしたそいつ(・・・)・・


 それは一言で言えば『怪物』、いや『獣鬼』と言えばいいだろうか。


 『クシュラ』と呼ばれたその『獣鬼』は、体長三メートル近い体躯に、ガロンの着ているものと同じ裁着袴に二の腕部分で破かれたような形の小袖、両手足首にはまるで枷のように見える鎖がジャラジャラと音を立てる分厚い腕輪をつけ、そして袖なしの羽織を羽織ったような姿をしていた。


 そしてその服装から微かにのぞくしなやかかつ強靭な筋肉は人というよりはまるで獣のように無駄がないように見える。


 次に目につくのはその頭、その頭はまさしく獣と鬼の頭蓋骨を足して合わせて白く染めたような顔と爛々と輝く赤い瞳、そして背中まで届く長い白髪を揺らしながら、その額部分からは天をつくようにそびえ立つ二本の角が縦に並んで生えていた。


 そしてその『獣鬼』が持つ巨大な刀は刀というよりはまるで巨大な獣を解体する大包丁のような形をしており、よくよく見れば肩に担いでいるのとは別にもう一本腰に同じような刀が差してあった。




『さてと・・・準備はできてるか?』


 クシュラが目の前の、大斧と槍を持ち茫然とした表情をしながらクシュラを見上げるトンダとダッケンにそう聞くように声をかけるが。


「「・・・・・・・」」


 トンダとダッケンは目の前のクシュラに圧倒されたのかただ茫然として沈黙で答えた。


『くくくくくく・・・・・・沈黙は肯定と受け取るぞ。それじじゃあ始めようか、楽しい楽しい闘い(殺し合い)を始めようか!! ハッはははははは!!』


 二人の沈黙を肯定と受け取ったクシュラは肩に担いだ刀を振り下ろすと、腰にさしていたもう一つの刀を抜き去り二人に向かって一歩踏み込むと。



 “ドスン!  バッ!!!!!”



 まるで地響きのような腹に響く足音を置き去りにし、一瞬でトンダとダッケンの目の前まで移動した。


『おら、避けろ』

「なっ?!」

「ちっ!!」


 手に持った片方の刀を振り上げながら、今から刀を振り下ろすと言わんばかりの言葉をかけるクシュラにダッケンは驚いたような声を上げ、トンダはイラついたように舌打ちをしながらそれぞれ左右に分かれるように避けると


 “ヒュオッ!!   ドゴオオオオオン!!!!!”


 先程まで二人がいたところにクシュラの刀が振り下ろされ、どでかい爆風の如き地響きと砂煙が巻き起こった。


「うあああああ?!!」

「うぐおおおおお?!!」


 クシュラの攻撃を避けた先で爆風を受けたトンダとダッケンの二人は地面を転がりながらもなんとか体制を立て直し、刀を振り下ろした状態のクシュラに向かって雄叫びをあげながら武器を振り上げた。


「死に晒せーーー!!!」

「くたばれやあああ!!!」


 全力疾走からの跳躍、そして急所を狙うように頭を目掛けて武器を振るう二人。





 後ほんの数秒でクシュラの頭蓋に到達されると思われたその攻撃は


『(ニヤリ!)』




“ガキイイン!!  ギャリギャリギャリギャリギャリ!!!”


“キイーーーーーン・・・・ギギギギギギ!!!”




「「なあ?!!」」


 不適に笑うクシュラによってトンダの斧はもう片方の刀に阻まれ、いわゆる鍔競り状態になりながら武器同士の摩擦による火花が散っていた。



 逆にダッケンの槍は振り下ろした刀から手を離したガロンの手によって人差し指と親指でその槍の先端を掴まれ宙吊り状態になっていた。



『軽いな・・・フン!!』




 “グオン!!  ガッ!!!    メキキキ・・・”





「「グヘホ?!!!」」


 両者の武器を受け止めながら、クシュラの予想よりも威力がなかった二人の一撃にどこかガッカリしたような声を出したかと思うとそのまま今度は下半身を捻り遠心力も加えた強力な回し蹴りを二人に放った。



 “ヒュ・・・・  ドゴン!!!”


 回し蹴りを決めた瞬間二人の体から何かが軋むかのような音が聞こえたかと思うと、二人はそのまままるでボールのように飛んでいき、先程のガロンと同様、いやそれよりも上の衝撃音を立てながら闘技場の壁にぶつかった。


 二人は、本来なら指一つ動かせないほどの大怪我を負っているはずなのだが


「くっ、くそ!この・・・・化物・・・が!!」

『ん?・・・驚いたな』


 ヨロヨロとしながらもしっかりとその二本の足で立ち上がった。

 これに関してはクシュラも想定外だったのか、武器を離した手を顎に当てながら驚いたような声出した。









 



 クシュラがトンダ&ダッケンに対して、その圧倒的な力を見せつけているのに対して本来の試合相手であるガロンはというと


「羽目を外して暴れてんなクシュラの奴。」


 そう言いながら闘技場の壁にもたれ掛かり腕を組んでクシュラの暴れっぷりを観戦していた。


 ガロンの声に反応しガロンを見た観客席にいた冒険者達は目を丸くして驚いた顔をするものもいたが、目の前で派手に暴れているクシュラに視線を送ると何かを察したように頷き、直ぐにクシュラの暴れっぷりに歓声を送っていた。


 そんな観客達にガロンは気まずそうに頭を掻くと、何故か急に「よいしょっ」と言いながら壁から離れ中央に向かって歩いていき、クシュラ達のいるところから少し離れた場所で止まったかと思うと


「さて、背中は空いたぞ。どうする?」


 誰に言っているのか、ガロンがそう言うと、


「・・・・・そこか!!‘影武器庫の扉(シャドウゲート)’!!」


 急にそう言って、先ほど見せた這い出る刃。今回は槍のような柄の長い武器をガロンの斜め後ろ二方向の空間に向かって突き出した。


 “びゅん!!   ズドッ!!”


「「ぐあああ?!!」」


 すると刃が空中で何かに刺さった音がしたかと思うと今度は悲鳴が聞こえた。


 そしてしばらくして突き出された二つの刃の先から赤い血が滴り落ちたかと思うと、先程まで何もなかったはずの空間からまるで浮かび上がるように何かが徐々に輪郭を表していった。


 そして全てが浮かび上がり出てきたのはあのゴブリンの双子、ゴーブとリンゲ。

 二人はガロンがマントから突き出している槍に空中で脇腹を刺され、口から一筋の血の線を垂らし痛みによる苦悶の表情を浮かべながら必死に槍を掴み、脇腹から引き抜こうともがいていた。


 そんな双子をガロンは首を回し目だけを後ろに向けると、そのままおもむろに双子を貫いている槍を手に取りマントから引き抜くと


「な、何をするつもり」

「ふん!」

「なっ!「ぎいいいいい?!!!」」



 そのまま天に向かって小枝を降るように槍を軽々と振りその遠心力で双子を槍から引き抜く。

 双子はいきなり思いっきり刃を引き抜かれたことにより、痛みによる悲鳴を上げながら空中に飛んでいった。


 そしてガロンはそんな双子を見上げると次の瞬間足を曲げて力を込め


 “ダン!!”


 物凄いジャンプをし、すぐさま双子の横まで飛んでくるとおもむろにまだ空中で姿勢を取れていない双子の足をそれぞれ持った。


「てめえ!何してる?!!」

「は、離せ!この野郎!!」


 双子はガロンに足を掴まれたことに気づくとそう言いながら残った足でガロンを足蹴にしようとするがその前にガロンが事を起こした。


「落ちろ」


 ただ一言、それだけ言うとガロンは双子の足が届く前に双子を物凄い力で地面に向かって振り投げる。

 双子は悲鳴を上げる間もなく空中から一瞬で地面に向かって落ちていった。


 “ドオーーーーン!!!・・・・・パラ パラ パラ パラ・・・ ”


 砂埃が舞いまった小石が地面に落ちる音を聞きながらガロンは砂煙の向こう側、薄らと見える双子に向かって宙を蹴って加速し落ちていくと


「せい!!」



 “グシャ!ドオーーーン!!!!!!”

 


 ガロンの掛け声とともに何かが潰れる音が一瞬聞こえるが直ぐに地面が震える音によって掻き消されるが、次の瞬間


「「う、ぎゃああああああああああ?!!!!!!」」


 ゴブリンの双子のこれまでに聞いたことのない悲鳴に近い叫び声が闘技場に響き渡った。


 そしてそれと同時に徐々に晴れていった砂煙の向こう側では


「腕が!!・・俺の腕が!!」

「ちくしょう!!痛え!!痛えよ!!!」


 地面に蹲る双子とそれを見下ろすガロンがいた。




 そして観客は地面に蹲る双子をよく見て息を飲んだ。


 地面に蹲る双子の片腕はそれぞれ左右一つずつ二の腕の先から無くなっており、腕のあった場所からは夥しい程の血が流れていた。

 そしてその近くにはまるで殴りちぎったかのような断面をした腕が左右それぞれガロンの足元近くに転がっていた。

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