村人、思い出す
遅くなり申し訳ありません。
『強欲の爪』の五人達が自分達の勝利を確信し笑い続けている中。
壁に激突した後動かなくなったガロンは
「(いって〜・・・体が動かねえ、周りが見えねえ。今どうなってるんだ?)」
声も出ない、意識も飛びそうな中、、まだ動く頭をなんとか使い自身とその周りのことを知ろうと体を動かそうとするが。
「(ダメだ動かねえ・・というか頭がボーっとするし目が霞む。それに・・・なんだか眠たい)」
ボロボロになった体はうまく動かずそれよりもどんどんと霞む目と眠気でガロンの頭はうまく働かなくなっていった。
「ーーーーー!!ーーーー!!」
「(なんだ?何言ってんだこの人?)」
目の前でこちらを指差し何かを言っている人物がいるのだが、霞む目と正常さが欠けている今のガロンの頭では何を言っているのか分からないのであった。
「ーーーー!!ーーーーーーーーーー!!」
「(ほんと何言ってんだこの人?!)」
『あの五人組が賭けの報酬を要求してるんだよ』
「(?!誰だ?!)」
突如としてガロンの頭の中に響くような声が聞こえた。
その声は朦朧とするガロンの意識の中でハッキリと聞こえ、ガロンは動かぬ体に力を込め警戒するが、その声の主は『おいおい』と何か呆れたような声を出したかと思うと
『しばらく寝ていたから忘れたのかおい、俺だよお・れ。』
「(?・・・・あっ・・あーーーー?!!)」
『思い出したかバカが。完全に忘れてやがって・・ふざけてんのか?』
「(ふざけるかボケ!!お前が話さなくなってまる二年だぞ!!普通忘れるだろう!!)」
ガロンはそう言って頭の中で響く声の主に怒るようにそう声なき声で叫ぶ。
すると声の主は何か驚いたような声を出した。
『ああ?もうそんな時間が経ったのか?寝ていると時が流れるのは早いな・・・』
「(寝てたのかよ?!・・それよりも起きたんなら早く俺の体を治してくれねえか?もうほぼほぼ意識が飛びそうなんだが・・)」
『ちっ・・仕方ねえな・・』
「(おい、今舌打ちしただろう)」
『ああ?そんくらい大目に見ろ、直してやるんだから』
声の主がそう言った瞬間、ガロンの体の奥から何かが溢れ出るように奇妙な流れができたかと思うと、次の瞬間ガロンの体に変化が訪れた。
ボロボロになって指一つ動かせなかった体に生気が満ち、徐々に傷が癒たかと思うと今度は霞んでいた目や頭がまるで氷水を思いっきり被ったかのようにすっきりと晴れ渡り始めた。
「う・・ん・・・よっと!!」
そして体が動くようになったガロンは一、二回両手をグーパーして体が動くことを確認すると今度は体全体に力を入れて飛び上がるように立ち上がり、今度は肩を回し始めた。
「うん、普通に動くな」
『あたりめえだ、それと言っておくが、お前の体かなりえげつねえ毒が入ってたぞ。』
「・・・マジで?」
『ああ、危うく俺が後少し“解毒毒”を使わなかったお陀仏だったぞ、感謝しろ』
「うん、サンキュー」
『軽いな!!』
そんな傍目から見れば独り言を言っているようにしか見えないのだが、それよりも先に声を上げるものがいた。
「な?!なんで動けるんだよてめえ?!!」
「『あ?』」
声のした方向に目を向ければ、そこにはこちらを「ありえない!!」と言わんばかりの顔をしながら指を指すオークの冒険者と、同じような顔をする『強欲の爪』がいた。
「ありえねえ!ありえねえだろ!!『ブラックキングコブラ』と『エンショントスコーピオン』、それに『鬼カブト』の合成毒だぞ!!どんな怪物でも絶対殺す毒を受けてなんで生きてんだよお前!!」
オークの冒険者が混乱してかそう口走ると、観客席の方が騒めき始めた。観客席の騒めきに気づきオークの冒険者は慌てて口を閉じるがもう後の祭りであった。
「さっきの言葉・・・どういうことかしら?」
「あ、ああああ・・・」
「『ブラックキングコブラ』、『エンシェントスコーピオン』、『鬼カブト』・・・・どれも国が一個人で取り扱うことを禁止している劇毒ばかり・・・どういうことか説明してもらいましょうか?」
審判であるリリスアーナがいつもの笑顔を消して審判ではなくギルドマスターとして『強欲の爪』の五人に詰め寄ろうとするが、そこに待ったかける声が響いた。
「ギルドマスター、尋問は後でお願いしてもいいですか?」
「?ガロンくん?」
ガロンがそういうとリリスアーナは不思議そうな顔をしながらガロンの方を向く。
ガロンはそんなリリスアーナに向かい口を開いた
「取り敢えずまだ、勝負は終わってないので。終わってから拷問なり尋問なりしてください」
「いや、もう勝負とか言ってる場合じゃ・・」
「はは・・・ははは・・・だって・・・殺そうとして・・・俺から逃げれるようなことをさせるわけないじゃないですか」
「?!」
底冷えするような声音がガロンの口から漏れる。そしてその声音にリリスアーナは久々に背中に嫌な汗をかいたのと同時に何か懐かしい感覚がこみ上げてきた。
リリスアーナがその感覚に不思議そうな表情で首を捻るなか、ガロンが口を開いた。
「なので取り敢えず、決着つけるまで手出し無用でお願いできませんか?」
手を合わせながらそういうガロン。
そんなガロンにリリスアーナは一つため息を吐くと。
「いいわ、そのお願い聞いてあげる。ただし!そこの五人には色々聞きたいことがあるから、殺さないように!分かった?!」
「オッケー。殺さないようにしますね」
そう言うとリリスアーナは後ろに下がり元の位置に戻り、ガロンも壁際から闘技場の中央へと歩きながら戻っていく。
ガロンが歩きながら中央へと向かってくるわずかな間、『強欲の爪』の面々は額に汗をかきながら自分たちが持つ武器をこれほどかと言わんばかりに握りしめながら歯を食いしばっていた。
彼らの胸中にあるのはギルドマスターに自分達がガロンを殺すために使った違法な劇毒のことがバレたことによる焦りと、目の前でその毒の影響をまるで受けていないような平気な顔をしているガロンへの怒りだけであった。
それもそのはず、そもそも彼らの目的は自分たちをコケにした(と思っている)ガロンを苦しめ、全てを奪いそして殺すことで、いわゆる復讐をするためであった。
そのため彼らはどこからか嗅ぎつけたのか、ガロンが『アルモニア樹海』に現れた子連れの『ケルベロス』の調査を受けることを知り、そこからいわゆる裏の界隈で『ケルベロス』の幼体を欲しがっている貴族と秘密裏に連絡を取り、その貴族から半ば騙すようにして自分たちが現在持っている『毒』や『爆発』といった特殊な効果を発揮する武器や防具そして違法な『劇毒』を買わせた後。
わざと捕まり決闘まで持ち込み、多勢の目の前で圧倒的な力でガロンをねじ伏せることを計画したのだった。
確かに計画は途中まで順調に進んだ。しかし気づけば現在彼らにはもう後がなかった。
このままいけば彼らは全てを洗いざらい吐き出されたのち鉱山奴隷などに落とされ、最早日の目は見れないだろうと確信していた。
だが、そうなる前に彼らは何としても憎いガロンを殺そうと思い
「殺せ!!」
そう叫ぶと同時に全員が各々の技を放つためにガロンに向かって走り出した。
“ダダダダダダダダダ!!!!!! バッ!!”
「「死ねえ!!」」
常時‘ブースト’がかかっているのか、ありえないスピードでガロンに最初に肉薄するのは先ほど最初にガロンに傷を負わせた双子のゴブリン。
彼らは先ほどと同じようにガロンの正面から来るような動きをとるが、これもさっきと同じ偽物である。『黒』の魔法である‘幻覚’を付与した指輪で正面からくる自分たちを見せた状態、でマントに付与されたこれまた『黒』の‘隠蔽’を使い先程見たようにガロンに不意打ちを喰らわせたのであった。
そして双子は今度は確実の殺そうとガロンの首めがけて刃を振るうのだが。
「それはさっき見た・・・・無色魔法 影系統‘影武器庫の扉’」
“ギチ・・・・ジャキン!!! ドシュウ!!!”
「「ゴフ!! えあ?・・あ、ああああああああーーーー!!!」」
その刃は今度はガロンには届かなかった。
ガロンがボソリとそう呟くとガロンの体、正確には着ているマントから這い出るように突き出てきた数多の刃に、ゴブリン達はうまく急所を外されているが腕や足に突き刺さりゴブリン達は血を吐いた後続く痛みに絶叫する。
「ゴ、ゴーブ?!リンゲ?!」
「バカ!ゴークズ足を止めるな!!」
仲間の悲鳴に焦った人間の冒険者、ゴークズが足をとめるとコボルトの冒険者がそっちを振り返りそう叫んだ途端。
「無色魔法 鎖系統‘生成される鎖’・・・しっ!!」
‘ビュン!! ザシュウ!!’
「え?あ・・あああああ・・・ぎゃああああああああ?!!」
コボルトの冒険者の顔のすぐそばを何かが物凄い回転をしながらゴークズとへと向かって行き、ゴークズが反射的に腕でガードした途端それはゴークズの易々と貫通させ止まった。
そして一白遅れるように響く絶叫。
ゴークズの腕にはガロンの鎌がまるで釣り針のように刺さっており貫通された刃の先からは血が滴っていた。
そしてその鎌は先ほどまでついていないものがついていた、それは
“ジャラララ・・・”
「く、鎖?!」
柄の尻部分から伸びるように繋がったその鎖はガロンの掌へと繋がっており、ガロンはその鎖を今度は思いっきり引っ張った。
すると引っ張られた鎖はまるで一本釣りのようにゴークズの体を宙に浮かせると今度はそのまま叩きつけるかのようにじめんに振り落とされた。
“ズドン!!”
「グギャ?!!」
潰れたカエルのような悲鳴を上げて手足があらぬ方向に曲がりながら地面にめり込むゴークズ。
そんなゴークズをガロンは一瞥すると手に持った鎖を操りゴークズの腕に刺さった鎌を抜き、まるで巻き取るかのような鎖を引き戻しその手に鎌を握る。
コボルトの冒険者はゴークズがやられたことに少しの間放心していると近くまで来ていたオークの冒険者、トンダが声をかけてきた。
「おいダッケン、こうなったら同時に思いっきりあの野郎に最大火力を喰らわせるぞ!!」
「なっ?!・・・分かった兄貴」
短くそれだけ言うと二人は同時に駆け出しガロンに向かってトンダは大斧を振りかぶり、ダッケンは槍を深く引き絞り
「「死ねやああ!!!!」」
気合の入った声を上げながら思いっきりガロンに向けて振り下ろし突き刺した
・・・・・が
「無色魔法 魂系統‘顕身する我が半身’!! おい、出番ださっさと出てきな
『クシュラ』!!」
ガロンが何かの名前を叫んだその時と、二人の渾身の一撃がガロンに当たるのはほぼ同時だっただろう。・・・だが
“ガキンッ!!!!”
「「な、何だこれは?!!」」
二人の渾身の一撃は突如としてガロンの目の前に突き立てるようにして現れた巨大な刀に阻まれ甲高い音を鳴り響かせながら防がれたのであった。そして次の瞬間闘技場に響くような声が聞こえ始めた。
『ああーー、ようやく出番かガロン』
「そうだ、久々だがあまり羽目を外すなよクシュラ」
『くくくく・・・・善処はするぜ、だが二年ぶりの外だ、あまり期待はするなよ。』
「はははは・・・・それじゃあ、殺さない程度に・・・・暴れろ!!」
ガロンと会話するように聞こえるその声と、時を同じくしてガロンから膨大な魔力の塊の渦が発生し始めた。
その魔力の塊はガロンの背後にまるで形成されるかのように徐々に形をなしていく。
そして
『久々の現界だ。さあ・・・闘いを始めるか』
完全に形をなしたそいつは突き立てられた刀を抜き、その肩に乗せて楽しそうな声を出しながらそう言った。
たびたび申し訳ありません。
明日の更新は延期とさせてもらいます。
次回の更新は火曜日、とさせてもらいます。




