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村人、笑われる

 五人組にもう一度掛け勝負を挑まれたガロンは、冒険者ギルドのエントランスから奥にある闘技場に移動していた。




 ‘ザワザワザワザワザワザワザワザワ!!!!’






 最初に入った時はガロン達以外誰もいなかった闘技場の観客席は現在、ギルドにいた全ての冒険者によって満員となっており騒がしくなっていた。

 

 観客席にいる冒険者の中には


「おい!酒が足りねえぞ!」

「おいおい、お前試合前から飲み過ぎだぞ」

「馬鹿野郎!せっかくの勝負前の雰囲気も楽しまねえとダメだろうが!」


 酒を持ち込みこれからの決闘を純粋に見て楽しもうとするもの、酒の肴にしようとするもの


「あれが噂の新人か」

「意外と若いな、それに細い・・・軽戦士のような戦い方をするのか?」

「いや、意外と魔法使いのような戦い方かもしれんぞ」

「しかし、新人の相手は『強欲の爪』の五人・・ふざけた奴らだが強いぞあいつら」

「あら知らないの?あの五人一回新人くんに負けたそうよ」

「たまたまだろう?油断でもしていたんではないのか?」

「とにかくこの勝負勝敗は終わるまでわからないだろうな」


 最近結構噂となりつつあるガロンの実力を見たいもの


「さあ!!賭けた賭けた!噂の新人冒険者ガロンと、評判最悪だけど実力者パーティー『強欲の爪』五人の試合!賭けの締め切り後五分だよ!」

「俺新人に金貨十五枚!」

「私も!新人くんに金貨二十枚!」

「こっちは金貨五十枚だ!!」

「俺は『強欲の爪』の奴らに金貨三十枚賭けるぞ」

「俺も『強欲の爪に』賭ける!」


 勝敗予想をし賭け事をするものと実に様々であった。





 そしてそんな観客席の向く方向、中央にある闘技場の舞台にガロンは立っていた。


 対面には猿轡を外され解放された五人組が各々、妙に新しくて綺麗な武器と装備を持って立っていた。


「しっかしなんでまた俺と勝負しようとするんですかねー。先輩方」


 ガロンが後ろ頭をかきながら面倒臭そうな声を出しながらそう言う。


 五人組はそんなガロンに憤慨するかと思いきや、思いの外冷静にガロンを方を見て各々武器を構えだし、代表するかのようにオークの冒険者が口を開いた。


「ごちゃごちゃうるせえぞ仮面野郎。おら、さっさとご自慢の武器を構えやがれ」


 妙に自信満々なオークの冒険者にガロンは後ろ髪を引っ張られつつも言われた通りに武器の二丁の鎌を両手に持ち腕をだらんとした状態で構えた。


「ガロンくん!がんばれ!!」


 そんなガロンに前の観客席にいるルールリアから声援がくるとガロンはそちらを向き応えるように軽く片手を上げ軽く振った。


 そしてガロンが再び五人組の方を向くと今回の勝負を見守る審判を何故か(・・・)買って出たギルドマスター、リリスアーナが口を開いた。


「それではこれより、私こと冒険者ギルド辺境都市エルドラ支部ギルドマスター リリスアーナの名において冒険者パーティー『強欲の爪』対冒険者ガロンの立ち合い勝負を始める!ルールは簡単、片方が負けを認めたらもう片方の勝ちとする!!それでは両者構え!!!」


 そう宣誓し、開始前の合図を両者に送るリリスアーナ。


 しかし両者特に構える様子はなく、それを構えと判断したリリスアーナは


「始め!!」


 開始の合図を宣言した。





 まず初めに動いたのは五人組の二人、ゴブリンの双子の冒険者。

 彼らは両手に真っ黒な(・・・・)ナイフを持ってすごい速さで真っ直ぐに駆けてガロンに接近するが


「(前回と同じで単調だな)」


 ガロンは前回同様のなんお面白味のない、ただ速さが上がっただけの攻撃に内心ため息を吐きながら前回同様両方の頭を地面に埋め込もうとするべくタイミング良くゴブリン達の頭を掴むため腕を振り下ろす







・・・・が



 ‘ブワアーー・・・’


 ‘ザシュウーー!!’


「え?がはっ?!!」


 ガロンの腕がゴブリン達の頭を掴んだかと思った瞬間ゴブリン達の体は黒い霧に溶けるように霧散し代わりにガロンの背中に鈍い痛みが走った。


 急いで目だけを動かして後ろを見たガロンが目にしたのは、血の付いたナイフを振り下ろした状態の先ほどまで目の前にいたゴブリンの双子であった。


「くっ!!」


 ガロンは反撃しようと手に持った鎌を外側から刈り込むように振るいゴブリン達を狙うが


 ‘ブワアーー・・・・’


「な?!」


 ゴブリン達の体はガロンの鎌が当たった瞬間、先程と同様黒い霧に溶けるようにして霧散する。

 そしてそれに気を取られたガロンの背中にまたもや衝撃と鈍い痛みが走った


「ぐうっ?!!」


 今度は何かか刺さったような痛みを感じ、すぐさままた後ろを見れば切り裂かれたガロンの背中の傷に寸分違わず刺さっている矢が見えた。

 そして視線を向けるとそこには再度矢をつがえ放ってきている人間の冒険者の姿が見えた。


 ‘ピンっ!!  ヒューー!!’


「くそ!!」


 ガロンはものすごいスピードで飛んでくる矢をなんとか鎌で切り裂き打ち落としていくが、さらに増えた矢に手数が足りなくなり二、三発と矢が掠りながらもどうにか致命傷を避けながらなんとか捌いていった。


 すると、そんな矢の雨をすり抜けるようにガロンに迫る人影があった。その影、槍を持ったコボルトの冒険者はガロンが最後の矢を撃ち落とした瞬間を狙ったかのように飛び上がると


「しっ!!」


 手に持った槍を連続で突き出してきた。


「くそ!!」


 ガロンは連続で突き出してくる槍をある時は体を捻り避け、またある時は弾き返しながらなんとか応戦し、その鋭い突きなんとか凌ぎ


「舐・・・めるな!!」


 歯を食いしばりながら飛んでくる槍を大きくはじき返した。


 槍を大きくはじき返されたコボルトの冒険者は、反動で大きく体を逸らし体勢を崩し、その隙をついてガロンは懐に入ろうと動こうとするが


 ‘ガクン!!’


「?!」


 突如として足に力が入らなくなったかのようにガクン!と体制を崩したガロン。


 一瞬何が起きたのかわからなくなり動きが止まったガロンの目の前でコボルトの冒険者は体制を立て直し後ろに飛ぶと、今度は入れ替わるようにオークの冒険者が手に持った片刃の妙にゴテゴテしい真っ黒い大斧を振り上げながら迫ってきた。


「くたばれや!!」


 オークの冒険者は口汚くそう叫ぶと大斧を躊躇いもなくガロンに向けて振り下ろした。

 ガロンはそんなオークの大斧を、力がうまく入らない体を鞭打って両手に持った鎌を交差させるように受け止めた。


 ‘ガキンッ!! ギャリギャリギャリギャリ!!!’


「ぐっ!!」


 盛大な金属音を立てながら異常なほどの力(・・・・・・・)を発揮し押し切るように力を込めてくるオークの冒険者にガロンは苦悶の声を漏らす。

 そしてなんとか押し返そうとガロンが足になけなしの力を込めたその瞬間


「(・・・ニヤリ)」

「?!」


 オークの冒険者が気味が悪いほどのニヤケ面をしたかと思うと、ガロンはオークの冒険者の持っている大斧の刃がどんどん赤く染まっていることに気づいた。

 そしてこの後何が起こるのかが頭をよぎったガロンは


「しまった!!」


 焦りながらそう言って逃げようとしたその直後


 ‘ドゴオオオオオオンン!!!!!!’


 ありえないくらいの轟音と爆風が闘技場に響いた。


 そして黒煙煙る中から闘技場の壁に向かって何かが出てきたかと思うと、それはそのまますごい速さで壁にぶつかっていき、壁にクレータを描いた。


 ‘ドン!! ズル・・・・ズル・・・・’


 朦々と黒い煙を纏っていたそれは少しづつ煙が晴れていきその姿を表す。そして煙が晴れそこにいたのは


「「ガロンくん?!!」」


 観客席にいたルールリアとリリスティアが同じように身を乗り出し、壁に激突したそれ、ガロンの名を驚愕に染まった声で叫んだ。


 闘技場が徐々に静寂に染まる中


「ぐふ・・・ぐふふふふふ」

「「けけけけけけ・・・」」

「くくくくくくく・・・・」

「ひひひひひひ・・・・」


 押し殺したような笑い声が響いたかと思うと、そこにいた全員がその方向に視線を向けた。そこには『強欲の爪』の五人が各々武器を担ぎながら下を向き肩を震わせていたかと思うと。


「「「「「ぎゃはははははははははは!!!!!!!!」」」」」 


 耐えきれなくなったのか、最早その口を塞ごうとする素振りもなく下品な大声を上げて笑いだした。


 そしてそのまま壁際で力無く座り込むガロンをオークの冒険者は指差しながら


「分かったかこのバカが!!身の程を弁えろってのはお前のことなんだよ!!」


 そう言ってバカにしたような声を出して再度笑い続けるのであった。



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