村人、過去を語る
「ああ〜・・・こりゃしばらく戻れね〜・・」
ガロンはなんとか悶えから立ち上がり頭に手を当てながらそう言った。
しかし未だ仮面のその下は恥ずかしさなのか嬉しさなのか分からないほど真っ赤に染まっており、今二人に出会ったらガロンは確実にそこらへんの木に頭をぶつける、といった奇行をすると断言するほどに頭の中がチャグチャにこんがらがっているためのであった。
なので
「しばらく・・頭冷やすか・・・」
そう言ってガロンはルールリア達に向けていた‘千里眼’を映像の一部だけ見るように調整し、ガロンはそのまま反対方向に向けて歩いて行った。
走るわけでもましてや木々を飛び移るわけでもなく、ただ地面を歩き続けるガロン。
途中、樹海独特の生態系で実った果実を頬張りながら、悶々と先程覗き見してしまったルールリア達の告白を思い出していた。
そもそもガロンは別にルールリアとリリスティアのことを嫌っているわけではない、なので普通に考えればそのまま了承してもいいのだが、ガロンはそれができないのであった。
なぜか?
その理由はガロンの生い立ちにあった。
ガロンは知っての通り生みの母であるマイルとその妹であり同時にガロンの育ての母でもあるハロンとベルスタそして二人の子供四人、計八人の家族であるが父親はいない。
ガロンは小さな頃は兄弟の世話などで父親のことなど特に気にしなかったが、大きくなるにつれなぜ父親がいないのか疑問に思うようになっていった。
そしてそんな疑問を残し、そのまま歳が十六になったガロンはそれとなく母マイル達に父親のことを聞いてみたのであった。
その時母達から帰ってきた返答にガロンは父親がどういう人物だったのかを知りガロンはその場で愕然とした。
ガロンの父は、母マイルが妊娠した途端に逃げ、しかも浮気までして浮気相手と共に母マイルが稼いだお金を持ち逃げしたという最低のクズであったと。
しかも母ハロンと母ベルスタの父親とも同一人物でこれもまた母マイルと同じように妊娠した途端にトンズラ、つまりガロンの弟妹であるキュウ、バレル、ミリー、リットルは腹違いの兄弟だということを知った。
その話を聞きガロンは最初自身に流れる血を呪い思った。『母達はそんなクズ野郎の血が半分通った自分達を育てるのが苦痛だったのでは?』と。
しかしそれを口に出したらガロンは頬を思いっきり叩かれた・・・しかも三回も。
そして叩かれたことに呆然とする中ガロンは母達に思いっきり怒られた。
今まで大声を上げて怒ったことのない母マイルまでもが目尻に涙を溜めて「そんなことを言わないの!」「あなたは違う!私の大事な息子なんだから!」そう言ってガロンが生まれたことが何よりの幸せなんだと言い、ガロンを抱きしめたのであった。
その日ガロンは泣いた十六歳にもなって母の胸に抱かれながら思いっきり泣いた。
その日からガロンは父親のことを死んだものと思って生きることにした。下の兄弟達が成人するまでガロンは本当のことを話さず、ただ父親のことを聞かれたならば「死んだ」ことにして自然に話を逸らすことに徹底した。
そして現在、ガロンは頭では分かっているとはいえ、自身に流れるそのクズの血に今頭を悩ませるのであった。
ガロンは仮にルールリア達と付き合うことになりそのまま愛する自信はある。
しかし血縁上父と呼ぶしかないそのクズとガロンは違うとはいえ、なんの弾みでそのクズと同じように浮気や知らず知らずのうちにルールリア達を傷つけるようなことをしたら今のガロンならば即自身の首を掻き切りこの世からいなくなり償うだろう。
しかし、もしもクズと同じように逃げてのうのうと暮らすようなことをするならばいっそのこと、今のうちにだれかに殺してほしいと思うことがある。
それぐらいガロンは誰か人を愛し続けることに慎重になり恐怖しているのであった。
そんなことを考えてしばらく森を彷徨うガロンはある音を聞きその場に止まる。
「(なんだ?)」
しばらく耳に集中しあたりの音を拾いそれが人の声だと分かるとガロンは隠れるように身を低くしてそちらに向かい慎重に進んでいく。
しばらくするとガロンが進む先と当たるように人影が見えた。その人影は先々日ギルドでガロンにイチャモンをつけていた五人組の冒険者達であった。
ガロンは五人組に見つからないように林の隙間に隠れ五人組の様子を伺う。
五人組はガロンに気付くことなく話しながらガロンの側を過ぎて行ったが、その道中部分的だが聞こえた会話に、ガロンは見逃すことができずそのまま奇襲の形で五人組を背後から気絶させていくのであった。
五人組の部分的な会話
それは「ケルベロス」「依頼」「拐う」「高額」「貴族」の五つ、そのうち四つのことからこの五人組が『ケルベロス』の幼体を拐おうとしているのが分かったためガロンはすぐさま奇襲し縛り上げたのであった。
「さて、どうしようか?」
ガロンは縛り上げた五人組を見下ろしながらそう呟くのであった。




