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村人、本音と願望を聞いてしまう

 ガロンのことをどう思っているのか。


 それはルールリアとて、よく分かっていない。


 だが、確実に言えるのならば彼女にとってガロンは不思議な人物だと言うことであった。


 初めて会った時はガロンのことを仮面を被ったおかしな人物だと思っていた。


 重症であったルールリアの傷の手当てをし、そのまま作った鍋まで馳走する変人。

 最初は鍋に何か入っているのかと思い躊躇ったがその美味しい匂いに負け、一口食べれば毒も何も入っていないただの美味しい鍋であった。


 冒険者は弱肉強食の世界、ほとんどの冒険者は見ず知らずの人間を助けるほど心に余裕はない。なのに彼、ガロンはルールリアを助けた。

 しかも見返りはルールリア自身ではなくルールリアの所属する冒険者ギルドへの案内だけ、それに冒険者ギルドでもガロンは不思議なことをした。


 ルールリアがある理由から借りてしまった借金。


 それを返済するため受けたフォレストグリズリー討伐の依頼の失敗により、ルールリアの身は危うくその場にいた近頃悪い噂しか聞かない冒険者パーティーに売らなければならないと覚悟を決めかねていたその矢先、またしてもガロンはわざわざ彼自身が解体し持ち込んだフォレストグリズリーの素材をルールリアに渡してきたのであった。


 しかもその素材は幼馴染みの受付嬢ケイティー曰く最上級の状態の素材。フォレストグリズリーの素材ではあり得ないほどの高額で買い取ってもらえ借金もなくなったのだが。


 しかしそれを快く思わない奴らもいる。

 件の冒険者パーティーはあろうことかガロンにイチャモンをつけ始め、最終的にはガロンの全てを奪うような 提案をしてきた。

 普通なら受けない、なぜならギルドに報告すれば簡単に済む話なのだから。


 だがそんな冒険者パーティーの提案にガロンは承諾をした。ルールリアはその時、一瞬悪い考えが頭をよぎり絶望した。


 ガロンは新人、しかも相手は最悪なパーティーとはいえ彼らの実力は本物。

 なすすべなくガロンは敗れ最悪殺され全てを奪われ、ルールリアはおもちゃにされるそんな最悪の未来を想像してしまった。









 だが現実は違った。


 結果はガロンの圧勝。だがそれだけではない。ガロンはわざと勝った時の要求を言わずにいて、勝った後に請求したのであった。


 その内容は彼らのすべて以上を奪う凶悪なものであった。「払えない」など言わせない、その身にある血の一滴までをも搾り取ろうとするガロンの気迫に誰もが関わりたくないと思ったが。


 しかしその理由を聞けばその考えも変わっていった。


 彼はただ単に怒っていたのだった。彼らの、ルールリアをただのものとしか考えていない思考に、そして彼ら自身が言った言葉の重大さを簡単に思っている軽さに。


 その時、初めてルールリアの胸の奥に何か温かいものが広がったような気がした。


 それは最初、ただの気のせいだと思っていたがルールリアはその翌日、自分を口説くある冒険者の話よりもギルドに現れたガロンを見て今までにない嬉しいと言う感情が溢れてくるのを感じた。そして彼がその冒険者を追っ払った時、気づき確信した。




 「ああ、私はこの人が好きなんだな」っと





 

  






 ルールリアはそんな今までを思い返しながら目の前のリリスティアの目を見る。


 ルールリアがギルドマスターの部屋で彼女をパーティーに入れるのを躊躇ったのは、彼女にガロンを奪られるかもしれないという恐怖心からであった。


 『ダークサキュバス』に男を奪られたという話は、ギルドにいる知り合いの女冒険者の人たちから散々聞かされたためルールリアは彼女をパーティーに入れるのを躊躇った。

 しかし彼女のパーティー加入は、そのガロン当人の宴会での不始末による物だと聞き、ギルドマスターからの罰を受けない代わりの交換条件として出されたためルールリアは表情に出さなかったが渋々ながら了承したのだが。

 ガロンがいなくなった途端、リリスティアはルールリアにガロンについてどう思っているのかと聞いてきた。


 ルールリアは不意な質問に一瞬言葉失うがすぐに顔を引き締め


「好きだよ。」


 淀むこともなく自然にまっすぐにその言葉が出た。言ったルールリア自身も一瞬びっくりするほど素直な言葉だが、ルールリアは続けて口を開く


「まだ出会って三日ぐらいだけど、私のこの気持ちは紛れもない真実だと思う。」


 まっすぐ、純粋なほどまっすぐな視線を向けるルールリア。

 それに対してリリスティアは目を閉じ、しばらくして笑うように口の端を上げると


「そう、素直の話してくれてありがとう。でもね私も負けないよ」


 そう言って閉じた目を開きルールリアをまっすぐ射抜くリリスティアに、ルールリアは一瞬警戒するがリリスティアの次の言葉にその警戒が別のものに変わった。


「負けないよ、ルールリアちゃんとガロンくんが恋人になる前に!ガロンくんに私のご主人様(・・・・)になってもらうんだから!」


 力強くそう言いながら首に首輪を巻くリリスティアにルールリアは目を丸くし茫然と呆けた。

 そんなルールリアを無視しリリスティアは熱く語り始めた。


「正妻はルールリアちゃんに譲ってあげる。だけどガロンくんの後妻兼ペット枠は私がもらうから一緒に頑張ろうよ、ね?」


 そう言って同意を求めてきたリリスティアにルールリアは「いやいやいや」と言いながら目頭を押さえ天を仰ぐと。


「なんで・・ペット枠?」


 苦い笑みを浮かべながらリリスティアにそう聞いた。

 リリスティアは首に巻いた無骨な首輪を撫でながらうっとりとした表情で話し始めた


「え?だって、そっちの方が容赦無く私を虐めてくれそうだし。だからと言って流石に正妻は今の私じゃ荷が重いからそっちは譲るね、というかなって?お願い。」


 恍惚な笑みを浮かべながら自らの体を抱くように体を震わせるリリスティアに、ルールリアは引く気持ちがどこかあるものの、正妻に興味がないリリスティアを見て自然と口角が上がり笑い始めた。


「ふ・ふふふ・・ははははは!!いいよ、私一人だけじゃないっていうのはちょっと嫌だけど、正妻と手伝ってくれるなら私も断る理由がないですので、これからよろしくお願いします」


 そう言って手を出し、握手を求めるルールリアにリリスティアは「こちらこそよろしく」と言いながら手を差し出し、お互い力強く握手するのであった。

















 そして一方ガロンはというと


「ぐおおおおおおお!!」


 離れたところで‘千里眼’で覗いていたルールリアとリリスティアの告白に、仮面の下の顔を真っ赤にしながらその場に蹲り悶えていたのであった。

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