村人、秘密を聞く
ガロンがリリスアーナの言いたいことを理解した。
まあ、要約すると『自身の妹であるリリスティアを『C』ランクにランクアップさせたいので‘チャーム’の影響を何故か受けないガロンとパーティーを組んで欲しい』という、はっきり言って私情に富んだ一種のお願いなのだということだ。
そんなことをガロンが考えているとガロンの後ろでルールリアが抗議の声をあげた。
「ギルドマスター!私は反対です!確かにガロンくんはリリスティアさんの‘チャーム’は効かないかもしれませんが、それを差し引いても『ダークサキュバス』は淫乱な一族!知らないうちに・・その・・・体で落とされったて言う話も聞きますし・・・」
段々と声を萎ませて顔を俯かせながら言っていて恥ずかしくなっていったのか、顔を赤くするルールリアにリリスアーナは微笑みながら「大丈夫」と言い
「リリスティアに関しては大丈夫よ。あの子には私の魔法で性行できないようにしているから」
衝撃的なことを口にした。
リリスアーナの発言に一番最初に食いついたのは他でもないリリスティアだった。彼女はなんとか歩けるまで回復した体を動かしリリスアーナの前まで来ると「初めて聞いた」と言った表情でリリスアーナに詰め寄った。
「ちょっ!お姉ちゃん?!私それ初耳なんだけど?!」
慌てたようにそう言うリリスティアにリリスアーナは特に動揺することもなくいつのまにかいなくなっていたティロスが持ってきた紅茶を受け取りながら一口飲むと口を開いた。
「だって言ってないもの。それに、あなたの性の知識って、ほとんど私が教えたものでしょう?大変だったのよ、なるべく外れないようにかつ健全的な知識をあなたに教え込ませるの。それに、あなたにかけた魔法も別にそこまで害のない魔法なのよ?」
「でも、どうして・・」
「『あいつ』からあなたを守るためよ」
リリスティアの反論にリリスアーナは笑みから一転憎しみや怒りといった負の感情を漏れ出させる無表情となり、そう言った。そして続けてその表情のまま理由を話し出した
「『七罪の戦女神』がどうして解散したか知ってる?」
「え?・・・確かメンバーの三人が引退したからって聞きましたけど・・」
脈絡のないリリスアーナの言葉にルールリアが代表するかのようにそう答えると、リリスアーナは椅子に座りルールリアに「表向きわはね」と言い話し始めた
「実際は、主力メンバーだった『憤怒』『強欲』『暴食』の三名がある一人の男、名前も言いたくない『あいつ』の子を妊娠し冒険者を辞めたって言うのが真相ね。しかも『あいつ』姉様達を「遊び」と堂々と言ったあげくほかの女とトンズラこいたくせによくもまあノコノコと私達の前に現れやがって・・」
憎しみのこもった声と怒りのオーラのせいなのか、執務室中からミシミシと部屋が軋む音がし始め、リリスアーナの近くに置いてあったあった紅茶の入った容器に関してはヒビが入ったかと思うと次の瞬間には粉微塵に粉砕されてしまった。
そんなリリスアーナはひとしきりオーラを発散させた後一つ息を吐いて自身を落ち着かせると
「ごめんなさい。『あいつ』の話をすると私達、ちょっと感情がセーブできなくって」
「いや、俺は大丈夫なんですが・・・あとの二人が」
「あらら・・」
そう言ってガロンは、両腕の中でガタガタと震えている二人を見ながらそう言った。
リリスアーナのオーラに当てられて気絶しそうになった二人をなんとか倒れる寸前にキャッチしたのだが、二人とも未だ怖くて足に力が入らないのか、ガロンの服をギュッと掴んだまま離さないままでいた。
そんな二人をリリスアーナはキラキラとした目をしたかと思うと、一つ咳払いをしいつもどおりの笑みを浮かべて話を続けた。
「まあ、そんなわけで私達は『あいつ』の毒牙が身内や親しい人達に向かないように『傲慢』と『嫉妬』が常に『あいつ』を監視し、『色欲』の私と『怠惰』が魔法とか様々な方法で守っているの。分かった?」
そう言って今度は深く座るように椅子に身を任せるリリスアーナ。そんなリリスアーナに未だガロンの腕の中から出てきていないリリスティアは一つ質問した。
「わ、分かったけどお姉ちゃん。私にかけた魔法って、い、いったいなんなの?」
そう言って怯えたようにそう言うリリスティアにリリスアーナは「やりすぎたかな」っと呟いたあと、頬に手を当てながら答えた。
「簡単な『黒』の魔法よ。『リリスティアが、本気で愛した人にだけその本能と心を解放させる』ていう暗示に近い魔法、害はないわ。
まあ、あなたの場合『ダークサキュバス』の根本的な本能、『異性の生命力を求める』は『一時の夢』で‘ドレインタッチ’や、‘ドレインキッス’で補給していたみたいだけれど。」
そう言ってもう一度(ティロスがいつの間にか交換して挿れてくれた)紅茶に口をつけながらそう言うリリスアーナ。
そして現在に戻る
あの後ギルドから出たガロン達はとりあえずギルドマスターであるリリスアーナからの依頼である『ケルベロス』達の監視の為、樹海の奥の昨日と同じ場所に向かうことにした。
途中ガロンやルールリアほど体力のなく、へばってしまったリリスティアをガロンが背負い、昨日と同じ木の上までくることにした。
その際ルールリアが羨ましそうにリリスティアを見ていたような気がしたがガロンは気のせいだと思いそのまましばらくルールリアに合わせるように進んで行ったが、遅くなると感じたガロンは今度はルールリアも抱っこすると、背中にリリスティアを前にルールリアを抱えた状態で昨日と同じように足に‘ブースト’をかけて身体強化し樹海の中を突っ切っていった。
その途中ガロンは前と後ろから感じる柔らかい感触といい匂いにとにかく無心を貫き全速力で樹海の中をかけて行った。
そして昨日と同じ場所に着くとガロンは二人をすぐに下ろし溢れ出る感情を発散させる為木の上に物見台がわりのツリーデッキを作り始めものの数分で竣工させたため、そのせいで疲れふし座卓の上で突っ伏していたのだった。
“グ〜〜〜・・・・”
ガロンの腹からそんな空腹の合図が聞こえると、先程まで双眼鏡を見ていた二人が双眼鏡から目を離しガロンの方を見る。
ガロンは恥ずかしさ故なのかすぐに
「ちょっと食いもん取ってくる」
と言いながら樹海の木々の上を飛び移りながらどこかえと消えていった。
そして今現在、このツリーデッキの上にいるのはルールリアとリリスティアの女子二人だけ、しばらく沈黙の静寂が流れるが、先に口を開いたのはリリスティアだった
「ルールリアさん、あなたガロンくんのことをどう思ってるの?」
真面目な表情をしながらそう言うリリスティアに、ルールリアは無意識に体に力が入り始めた。




