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村人、同室の人を知る

 ガロンは、急に今まで会ったことのない、しかも見覚えのないその女性にまるで親しい知り合いに会ったかのように声をかけられ、少し警戒をする。

 本来なら今すぐに立ち上がり、いつでも逃げられるように構えるのだが


 ‘チラッ’

「すーー、ひゅーー・・んん・・」


 隣で無防備に寝息を立てるルールリアを見て。ガロンは立ち上がるのをやめ、その場で座った状態で目の前の女性を見上げる。


 ガロンを見下げるように腰を曲げ両腕を後ろに回しながら佇むその女性は、十人聞けばそのほとんどが「美人」と評するほど容姿が整っており、その雰囲気は『活発というよりは元気な少女』という印象が強く残っている。

 そんな彼女の頭には特長的な羊の角が生え腰の部分からは先っぽがスペード型になった黒い尻尾がゆらゆらと揺れていた。


「誰って・・・ああ、そういえば挨拶してなかったね。わたしはリリスティア。『一時の夢』っていう宿の201号室に泊まっているあなたと同じ冒険者よ。気軽に雌犬って呼んでね!」

「あー、それはご丁寧にどうm・・・え?」


 ガロンはリリスティアと名乗ったこの女性の先ほどの発言に、二重の意味で固まった。


 そんなガロンにリリスティアはにっこりと笑うと


「私が誰だかもうわかったでしょ?同室のガロンくん?」


 そう言いながらガロンの隣。

 ルールリアとは逆の方に座るとガロンの目を見ながらニッコリと笑い掛けながらそういうリリスティア。

 

 ガロンは、リリスティアが隣に座ったところで、ちょうど硬直が緩んだようで、直後に大きな声を上げてしまった。


「同室の人?!!あなたが?!!」


 ガロンの叫びに、周りにいた人の何名かがこちらを見るが、すぐに興味を無くしたのか、またすぐに周りは祭りに戻りさっきと同じように騒ぎ始めた。





 そんな周りの中、ガロンは目の前の女性が、昨日今朝と見ることがなかった同室の人だと分かり、しばらくまた驚きで固まるが、今度はすぐに復活し。


「す、すみません!同室の方と気づかず更に急に大声出してしまって!」


 とりあえず先ほどの失態について頭を下げた。


 そのあとリリスティアはこのことを許しガロンはしばらくリリスティアと談笑していた。

 その間も先ほどリリスティアが言った、もう一つの発言については一切触れずにいると、リリスティアはなにを思ったのか懐から犬の首輪とリードを取り出すと


「はいこれ、ガロンくん持って。」

「ん?って、ちょっと?!リリーさん?!何してるの?!!」


 なんの躊躇いも無しに、自身の首に首輪を巻き、そのリードをガロンに向かって差し出す。

 ガロンはそんなリリスティアに驚き、ツッコミを入れるが、彼女は頭にハテナを浮かべながら小首を傾げ


「何って・・・首輪を首に巻いているだけですが?」


 そう言って、リリスティアは「何かおかしいところがあったのか?」と言わんばかりの口調と顔でガロンを見ていた。




 そんなリリスティアにガロンが少し引いていると、


「ん・・・んん・・・・・・ここ・・どこ?」


 横で寝ていたルールリアが、ガロンの大声のせいなのか寝ぼけた目を擦りながゆっくりと起き上がると


「ん〜、・・・・・眠たい」


 そう言って、今度はガロンの手に抱きつくようぎゅっと抱きしめるとそのまま寝息を立てて二度寝をし始めた。


「ちょっとルーさん?!起きてくださいそして俺の手離してくれませんか!」


 ガロンが慌ててそう言いいながら、自身の片手にくっつくようにして眠るルールリアにそうお願いするが、ルールリアは一向に起きる気配がなく逆に抱きしめる力が強くなった。


「ちょっと?!!ルーさん?!!・・・・・・ってなんでリリーさんもいつのまにかくっついてるんですか?!」


 もう片方の手でルールリアを起こそうとガロンは手を動かそうとした時、違和感がありそちらを向くと笑顔のリリスティアがその圧倒的存在感を見せる胸の間に、ガロンの腕を挟むようにして抱きついていた。

 ガロンはそんなリリスティアの行動に目を白黒させながら慌てるが、当のリリスティアはそんなガロンの反応を面白がってか、更に色っぽい顔をしてガロンの顔を下から覗き込むように近づけながら


「片手が塞がったなら〜もう一方も塞いだら動けなよね〜?」


 面白そう、といった感じでガロンの被っているお面を剥ぎ取り徐々にその顔を、正確に言えば唇を近づけていくリリスティア。

 そしてお互いの唇があと少しで触れそうといったその時


「何をしているのあなた達は」


 突如後ろから聞こえた声に反応し振り替えると、そこには腕を組み足を交差させながら立っているギルドマスター、リリスアーナがいた。


「ギ、ギルドマスター?!」


 突然現れたギルドマスターにガロンは驚きルールリアをくっつけたままのけぞるが、もう片方にいたリリスティアは背後に現れたリリスアーナを見ると頬を膨らませて


「もお!あと少しだったのに、お姉ちゃんタイミングが悪い!!」


 怒ったようにそう言いリリスティアはリリスアーナを睨みつける。


 そんなリスティアにリリスアーナは苦笑しながら膨れっ面をする彼女の頭を優しく撫でると


「はいはい、ごめんなさい。でもねリリスティア、あなた、結界も張らずに堂々と公共の場でキスしようなんていくらお酒の席でもお姉ちゃん流石に見過ごせないなー。」


 そう言って、リリスティアの頭を撫でる手に少し力を込め、笑顔ながらどこか迫力のある顔をさせるリリスアーナだが。

 当のリリスティアはというと、頭に乗せられたその姉の手を優しく払い退けると


「いいじゃない。だってその方が私らしいし。それに、万が一拒否されたりしても・・・・それはそれでとっても興奮するし、まさにいいこと尽くめだし!」


 そう言って叫ぶリリスティア。


 心なしか拒否されることに「興奮する」を強調したように感じるがおそらく気のせいだろう。うん、気のせいだ!たとえそれが顔を赤くして恍惚のオーラを出していたとしても気のせいだ!!



 そう心の中で祈るように考えを決めるガロンを他所に、リリスアーナは言葉の端に含まれた久々に見た妹の変化に思わず驚き無意識にあとさずる。

 そして


「ふー、どうやらあなた『ダークサキュバス』には珍しく新たな扉を開いたようね」


 何か悟った目をして改めてリリスティアを見るリリスアーナ。

 そんなリリスアーナに、リリスティアはほんのり顔を赤くして静かに頷いた。



 


 そんな姉妹のやりとりを近くで見ていたガロンはというと


「なに、この姉妹?・・」

「すうーー・・・・うん・・変人?・・」


 半ば白目を剥きながら誰に質問するわけでもなくそう呟き、その呟きに未だに眠り続けるルールリアが実にいいタイミングで答えのような寝言を言った。

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