村人、宴会で稼ぐ
日が完全に沈み、月が空を照らす深夜。
『卸売街』が『飲食街』・・・いや『飲み屋街』となり、あちこちで酒を飲み、陽気となった人々の笑い声や吟遊詩人達による歌声が響く中、一際賑わう一角があった。
そこは冒険者ギルド近く・・・いや、最早その冒険者ギルドそのものが所属する何百人の冒険者達の陽気な笑い声が響く巨大な酒場と化しており、中は大層賑わっていた。
だがそれはギルドの中だけの話ではない。冒険者数百人ともなるとその全てがギルドの中に入れるわけではない。ギルドの外では、ギルドの中に入り切らなくなった冒険者達がギルド前の大通りや広場やらにどこからか持ってきた椅子や机を並べ、その上に大量の料理を載せた皿を置き、各々片手に酒の入ったジョッキを持って飲み食いをしていた。
そしてんな冒険者達をターゲットにしているのか、ギルド近くの飲食店の料理人達は店先に各々の店の料理を出しており、その料理は冒険者達に次々と買われて行き、店の主人達は嬉しい悲鳴をあげながら料理を作り続けていた。
そんな外の様子に、ある一角に座っていたガロンはふと言葉を漏らした。
「すげえな冒険者・・・あれだけの時間でどんだけ集まるんだよ」
未だ増え続ける冒険者達を尻目にガロンは手に持ったジョッキに入った飲み物をグイッと一気に飲み干しながらこうなった原因を思い出していた。
それは数刻前
ガロンがケイティーにある提案をするため声をかけるところからはじまる。
「ケイティーさん、お願いがあるのですが」
そう言ってガロンはカウンターから離れ、再び素材の査定に入ろうとしたケイティを呼び止めた。
ケイティーは面倒臭そうな表情をし、ガロンの方を向くと少しトゲのある口調で話しかけた。
「なに、くだらないことだったら許さないわよ」
腰に手を当てながらそう言うケイティー。そんなケイティーにガロンはどこ吹く風でうまくスルーすると、ケイティーに向かってある提案を持ちかけた。
その提案とは
「俺の分の、残りの素材のお金はこの場にいる人たちの飲み代に当てることって、できますか?」
ガロンがそう言うとギルドの中が一瞬で静かになった。
仕事が終わり、酒を飲んでいた冒険者の何人かはその口から酒をこぼしながらも、思いっきりこちらを凝視し、一部ではつごうとしていた酒を酒の器から溢れさせながら固まるものや、食べていたものを驚いて喉につまらせ必至に胸を叩くものもいた 。
「えーっと・・・どうしてですか?」
査定をしていた受付嬢も、その手を止め。驚いた表情をしながらガロンを凝視する中ケイティーは驚いた顔をしながらも、そうガロンに聞く。
そして当のガロンはというと
「だって、あまり大金持ってても使う暇がないし、管理は大変だし、怖いしで全然いいことないんで。それだったら、他の人たちに生意気な若造のおごりと思って楽しく消費してもらった方がこっちも楽なので聞いたんですけどダメですか?」
疑問符をつけながらそう言うガロンに、ケイティーは困り顔になりながら目を宙に泳がせると、もう一度ガロンの方を向き
「ほ、本当にいいの?」
恐る恐ると言った表情で確認するようにもう一度聞いた。
するとガロンは全く持って迷いなくそう言った途端
『『『『『『『『『『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!』』』』』』』』』』
ガロンの背後で大音量の歓声がギルドのホールを突き抜け、ギルドを中心に広い範囲を震わせた。
そのあとは後は早かった。
ギルドにいた冒険者のうち何名かは家や宿に帰っている知り合いを呼ぶためにギルドを飛び出し、残った冒険者はどこからともなく出した追加の椅子やテーブルをセッティングしさらに料理をどんどんと追加していった。
騒ぎを聞きつけた他の冒険者達がギルドの外に仮の飲み食い所を作りその騒ぎがどんどんと拡散して行き現在のお祭り状態になったのである。
そんなお祭り状態の中ガロンはと言うと
「兄ちゃん!その焼肉いくらだ?!」
「その焼き野菜いくら?」
「私、その串焼き食べたい!」
「なんだこの茶色い物体は?!なに?!食べ物だと!!」
「あ、これ美味しい!!」
「このタレどこに売ってるの?!え?!自作なの?!お願いちょっとだけ売って!!」
「あっ!!ずるい!!わたしにも!!」
「うめー!!なんだこのタレ?!!」
「うーーーむ・・・一体なにを混ぜて作られてるんだ?是非知りたい・・」
「この味は?!この味を再現できれば俺の料理は更に上のステージに!!!」
「金ならいくらでも払う!!是非このレシピを!!」
「「「「抜け駆けするな!!有罪!!」」」」
「ぎゃあああああああああ!!」
「なんでこうなった?」
目の前で群がる人たちを見ながらそう呟くガロン。
彼の目の前には、巨大な鉄板とこれまた巨大な金網が鎮座し、その上では肉やら野菜やらの焼き料理や串焼きなどが所狭しと並んで焼かれていた。
あたり一面に焦げたタレやソースの美味しそうな匂いが充満し、はっきり言って近づくだけでお腹がなってしまうほど美味しそうであった。
何故こうなったのか。それはガロンの些細な楽しみが起こした事故とも言うべきものであった。
あの後、宴会となった冒険者ギルドで、ガロンはルールリアと山分けした金貨を使い、ギルドで解体された肉を買い取った後外へ出ると。
「よいしょ!」
腰の魔法袋から鉄板と金網を取りだし、焚き火を起こしたあとその上に金網と鉄板を置くと、しばらくして熱くなった鉄板と金網の上に買い取った肉の塊を切って、焼き串に刺して焼き、樹海で見つけたキノコや市場で買った野菜を焼き始めた。
そんな金網の隣ではいつのまにか出していた鍋をガロンは火にかけており、ぐつぐつと何かを炊いていた。
しばらくするとガロンが鍋の蓋を開けると鍋の中には白く輝く『ライス』と呼ばれる穀物がふっくらと炊けて美味しそうな湯気を出していた。
ガロンはそんなライスを碗に盛り付けると焼いていた肉をいつの間にか出したタレに絡めて碗に山のように乗せ後ろで様子を見ていたルールリアに差し出す。ルールリアはガロンから今度は素直に腕を受け取ると匂いを嗅ぐ。すると次の瞬間ルールリアはカッと目を見開きガロンが差し出した箸を掴むとものすごい勢いで描き込んでいき。
「んー〜〜!!美味しいいい!!!!」
幸せそうな笑顔を見せた後すぐさま残りを口の中に掻き込んでいた。
そんなルールリアの反応に周りにいた冒険者達はそれが気になり一人また一人とガロンに頼んで行き、最終的に何故か大繁盛という結果に終わってしまった。
しかしこのままではガロンはご飯を食べれなかったので、ガロンは苦肉の策として近くで比較的暇をしていた料理人達を引っ張ってきては鉄板焼きとあみ焼き、それにライスの炊き方や、家族連れできた冒険者のために子供が嬉しがる『ポテモ』という芋と油を使ったフライを教えてなんとか抜け出しルールリアと並んで同じ焼肉丼を食べていた。
途中ルールリアが間違えてお酒を飲んで色々やらかした後、倒れるように眠ったのだが、彼女の名誉のためにそれは語らないようにしておこう。
眠るルールリアに羽織っていたマントをかけ、その隣で未だ騒ぐ冒険者達をボーッと見つめながらジョッキに入った飲み物を飲むガロン。
そんなガロンに不意に声がかけられた。
「ヤッホー!こんなところでどうしたの?」
声のした方に顔を向ければ、そこには半袖短パンヘソだしローブスタイルの角の生えた褐色肌の女性が笑顔を向けながらガロンい向かって声をかけていた。
そんな彼女に対してガロンは
「誰?」
見覚えがないのでそう答えるしかなかった。
お知らせです。
明日の更新は作者の私情でストックもないため少々難しいので、明後日土曜日に二話投稿というかたちで更新させていただきます。




