村人、提案する
「失礼しました」
そう言って、執務室の扉を開き外に出ていくガロンとルールリア。そんな二人の後ろ姿をギルドマスターであるリリスアーナは手を振って見送っていた。
‘バタン!’
小さく執務室の扉がしまり音が鳴るとリリスアーナは「ふーっ・・・」っと息を吐きながら座っている椅子から立ち上がりゆっくりと近くの大窓へと近づいては、そこから街の景色を眺め始めた。
窓から見える景色はギルドのすぐ側にあるエルドラの『卸売街』
そこはギルドで売られた素材を競売する市場や、ギルド直営の素材屋といった店が軒を連ねる場所であり同時に辺境都市であるエルドラの街にとって非常に大きな収入源でもある。そこでは毎日のように素材の競りや客引きの声によって賑わっていた。
訪れるもの達の中には、個人で扱うための素材を己の目で見つけ出し買っていく職人やお忍びで訪れ、自身のステータスを上げるためなのか、レアな素材を金目に糸をつけずかき集め買う道楽貴族がいたり、比較的ここでは安く手に入る素材を買い他国で売り捌く行商人がいたりもする。
そんな卸売街は日の沈みかけな夕方の今となってもその賑わいは沈まず、今度は『飲食街』と別のものに変わりつつ賑わい続けていた。
そんな『卸売街』を見下ろしているリリスアーナの隣、彼女の秘書であり同時にこのギルドの副ギルドマスターを兼任しているティロスは、執務室の机に置いてあるギルドマスターの仕事であった書類整理のうち、整理の終わった書類を集めながら先ほどリリスアーナがガロン達に依頼した依頼書を見てため息を吐き悪態をついた。
「はー〜・・・全く、依頼を受けたあの子達もそうですが、普通この依頼をたった大金貨十枚で発注するなんて何を考えているんですかギルドマスター」
そう言って一か所に集めた書類を机の隅のほうにおき、ティロスは先ほどの依頼書を持ち上げヒラヒラさせる。
リリスアーナはそんなティロスに向き直り、その口角を上げると大窓にもたれかかりながら口を開いた。
「決まっているでしょう。節約よ」
胸を張ってそう言うリリスアーナ。そんなリリスアーナにティロスは片手で頭を押さえ、頭が痛いと言わんばかりの素振りをするがリリスアーナはそんなティロスに構わず口を開く。
「実力は有るけど依頼の相場が分からない子達ならぱっと見、危険じゃなさそうな依頼を見せて大金貨十枚と言えばほとんどの子は受けるわ。そうしたらギルドとしては厄介な依頼にただでさえ少ない上位冒険者を割く必要はないし、依頼を受けた子達は、依頼の内容によっては飛躍的な成長にもなるしまさに一石二鳥でしょう?」
そう言って悪びれなく言うリリスアーナにティロスは頭を抱えると
「効率的ですけど、人理的にはちょっと・・・いや、だいぶアウトな気がするのですが」
ティロスがそう言うと、リリスアーナは急に笑い出し
「何を言うのかと思ったら人理的って・・・いい、ティロス。『適材適所、使えるものは何でも使え』、私は『強欲』の姉様にそう教えられたわ。だから私は、人々の安寧のためならたとえどんなものでも、どんな奴でも使おうと決めているの。それがたとえ人理に反したとしてもね。」
そしてしばらくに沈黙の後、リリスアーナはティロスに対して「少し一人にして」と言い放ち、執務室の隣。ギルドマスターの私室となっている部屋へと消えていった。
そんなリリスアーナにティロスは「はー・・・」と、ため息を吐くと再び机に纏めていた書類を抱えるとそのまま執務室を後にする。その際執務室を出たティロスはボソリと
「全く。『色欲』の戦乙女は面倒くさいわね」
そう言いながらも、どこか暖かい目をしながらティロスは書類を持ってその場を後にしたのだった。
場所は移り、ギルドマスターの執務室から出ててきたガロンは、素材の査定が気になり、素材を山のように置いていったギルドのホールへと向かっていた。
ガロン達がギルドのホールに着くと山のように積まれてあった素材は半分ほど減っており、今も受付の人たちによってカウンターの奥へと少しづ少しづつ持っていっていかれていた。
「ああ!ようやく戻ってきた!!」
そんな大声が聞こえそちらを振り向くと、何かを査定していたケイティーが手に持った素材を近くにいた受付嬢に渡すと全速力で走ってきた。
「はあ、はあ、ふーー・・よし、大丈夫!」
十分短い距離ながらも息を切らすくらい全速力で走り、ケイティーはガロン達の前に立つと手招きをしながらカウンターの方へと誘導する。
ガロン達は不思議な顔をしながらケイティーが手招きするカウンターに向かうと、ケイティーはカウンターの奥へと消え、しばらくすると何十何百枚の金貨が積まれた代車を押しながらケイティーが現れた。
「それじゃあまだ査定は途中なんですけれども、まだしばらく時間がかかるので現在の文の査定結果額をお渡しします。素材の品名はたくさんありすぎるので省きますが諸々合わせて大金貨五十枚と金貨三百二十枚となります。どうぞお受けとりください」
そう言って台車に積まれた眩い金貨、大金貨を手で示すケイティー。
周りの冒険者達もその金額と量に嫉妬にも似た感情を匂わせながらガロン達を見るが、当のガロン達はその金貨大、金貨見つめるだけで動こうとしなかった。
一瞬あまりの額にガロン達は頭が真っ白になるが、隣にいたルールリアのアイコンタクでとりあえず震える手でその金貨の山を魔法袋に入れる。
するとガロンとルールリアは腰が抜けたのかガロンは一瞬膝をつきそうになりルールリアはその場でへたり込んでしまった。
そんな二人にケイティーは呆れた表情になると
「あなた達、この程度でびびってもらっちゃあいけないよ。まだ残っている分もあるんだから。しかももしかしたらさっきの倍か三倍の額が出るかもしれないんだから。」
「「倍か三倍?!!!」」
ケイティーの言葉に一気にギルドの中が騒がしくなるが、それよりも当の本人達は頭の中が、いえないがかなりパニックになっていた。
「倍か・・三倍・・・逆に怖い!!」
ルールリアがそう言いながらまた無意識にガロンのマントを掴んでいた。
一方ガロンは、今度は真面目な顔をして何かを考え込んでいたかと思うと何かを決意したのか無言で軽く会釈するとくっついているルールリアの耳に何か囁く。
ガロンの言葉を聞いたルールリは迷うように一瞬考えると今度はガロンに向かってサムズアップする。
それを見たガロンは一つ頷くとケイティーに向かってある提案を持ちかけた。




