村人、ギルドマスターに呼ばれる
「あら?」
不思議そうな声を出し目の前にいるガロンを見つめるギルドマスター。
ガロンが、周りにいる冒険者達のように自分に向かって好意のようなものを感じてないことに表情を崩さないが、内面困惑していると
「?どうしました?」
不思議に思ったのか、ガロンは小首を傾げながらギルドマスターにそう声をかける。
するとギルドマスターは一瞬妖艶な微笑みを崩すと、今度は楽しそうなものを見つけたような顔になり
「いえ、なんでもないわ。それよりも新人くん、確かガロンくんだったっけ?後、そこのルールリアちゃん?二人とも私の執務室までついて来て頂戴」
そう言って踵を返してまた階段を登っていくギルドマスター。
そして階段の一番上まで上がるとガロン達を見下ろし一言
「どうしたの?早くついてきてらっしゃい」
そう言って二階の奥へと消えていった。
ギルドマスターが見えなくなったところでガロンは、後ろにいたルールリアに背中をバシバシ叩かれると
「ガロンくん何しているの?!あのギルドマスターが読んでいるんだから早く行かないと!!」
そう言ってルールリアはすぐに階段を登っていった。
階段の途中でまだ動き出していないガロンに振り向き
「何しているの?!早く!早く!」
そう言って催促するように声を掛けるルールリアにガロンは不思議がりながらも歩き出し階段を登っていく。
登り終えるとガロンを待っていたルールリアに手を掴まれ
「いくよガロンくん!」
「ちょ?!ルーさん!」
半ば引っ張られながらガロンは二階の奥へと消えていった。
そしてガロンとルールリアが二階へと消えていった後、一階のフロアでは
「やべー・・・俺生ギルドマスターはじめてみた!」
「ああー、俺も初めてだが噂に違えない美貌だったな!!」
「「「「うんうん!!」」」」
「女の私でも見惚れちゃったよ!!」
「どんな傾国の美女も、たじろぐ美しさって噂じゃなかったんだ!!」
「やべー、劣情なんかよりも崇拝したくなるって言ってた奴の気持ちが良くわかる!!」
「だな!まさしく女神だな!!」
「それに実力もすげーんだろギルドマスター!!」
「美しくて強いって神か!」
「「「いや、女神だろう!」」」
「あれが伝説の『七罪の戦乙女』の一人なのね!!」
「それよりもギルドマスターに呼ばれたあの二人って確か」
「女の方は前からここにいるDランクのソロルールリアで、男の方は今日登録したばかりのガロンていうFランクらしいぞ」
「ルールリアはわかるけどなんでFランクが?!」
「そういえばガロンって、確か昨日『強欲の爪』を裸にひん剥いて脅していた奴じゃねえ」
「何それどうゆうこと?!!!」
「確かルールリアが借金していて、それを依頼失敗で払えなくて『強欲の爪』の奴らが立て替えてやる代わりにルールリアに払ってもらおうとしたらしいぜ」
「何それ?!『強欲の爪』の奴ら最低じゃん!!」
「まあ待て話の続きがあるから、そしたらその時ルールリアが樹海から連れてきたガロンって奴がお礼とか言って査定額金貨五十枚のフォレストベアーの素材を売ってルールリアに渡してルールリアの借金ゼロにしたんだと」
「何それ?!そのガロンて奴何者なの?!!」
「分からん。その後はもうお分かりのとおり『強欲の爪』の奴らが喧嘩を吹っかけたんだけど、逆にボコボコにされてから金目のものを全部奪われて、危うく骨も残さず売られそうになったとか」
「「「「「何それ怖!!!」」」」」
ざわざわとギルドマスターの登場による波紋が広がり、次にギルドマスターに呼ばれた二人に対してギルドのホール全体がざわついていった。
そんな冒険者を横目で見つつケイティーはカウンターを離れガロン達が置いていった素材を一つでも多く査定するために作業に入っていった。
「先輩先輩!ケイティー先輩!!」
「ん?何?」
ケイティーが解体された『ワイルドボア』の牙を査定していると横から声をかけられた。
ケイティーはがそちらの方に顔を向けると、そこには木のボードを抱えた査定の記録係の受付嬢がおり、ケイティーは彼女右手に巻かれた新人につけられる緑と黄色の腕章を見てまだ日が浅い受付嬢と確認する。
するとその新人はケイティに対して疑問に満ちた顔をしながら
「先輩!ギルドマスターって、一体何者なんですか?!」
そう質問する。
するとケイティーはそんな受付嬢に査定作業しながら口を開き答えた。
「ギルドマスターはギルドマスターよ。名前はリリスアーナ、この世界に十人もいない元SSSランクの冒険者。しかも伝説のパーティー『七罪の戦乙女』の一人っていう、まあ生きた伝説ね。あ、これ査定終わったからそこおいといて」
「はい!・・って『七罪の戦乙女』ってあの『七罪の戦乙女』ですか?!!」
「そうよ、さすがに知っているみたいね。」
そう言うと新人の受付嬢は驚愕の表情から、拳を力強く握り、今度は真剣な表情で『七罪の戦乙女』について力説し、始めた。
「はい!知ってますよ!!誰だって彼女達の英雄譚は一度は聞いたことがあるはずですもの!!
女性七人組のパーティーで、彼女達の残したその功績と歴史はこの先何百年経っても塗り替えられることはないだろうと言われている伝説中の伝説!!
伝説の大蛇『ヨルムンガルド』を討伐する強さ!!
大陸全土を暴れ回る神狼『フェンリル』を戦わずに鎮めた慈愛!!
大火災を起こす不死の鳥『フェニックス』を狩り、そして焼き尽くされた大地に緑を再生させ、世界に希望を見せ!
世界制覇を目論み、死の王と契約した戦争狂いの悪政王『リオデ・エイグス王』を粉砕したその勇ましさは人々に勇気を与えた!!
彼女達のその歴史は誰だって一度は憧れる本物の英雄達の姿そのもの!!かくゆう私もファンでして!!」
「ああ、そうゆうのいいから。
そうゆう子はこのギルドにたくさんいるわ。まあ、そんな伝説の人が今はここと他数十か所のギルドのギルドマスターを兼任しているんだから、いつ会うかもしれないし今のうちに慣れときなさい。」
「他のギルドも兼任しているんですか?!!さすが伝説の戦乙女!!」
そう言ってうっとりと二階の方へ視線を向ける新人に、ケイティーは「ボーッとしてないで仕事しなさい」っと声をかけ査定作業をし続けていた。
「しっかしあのギルドマスターが出てくるなんて・・・何したんだろうあの子達?」
ケイティーはそうボソリと独り言を呟くと一旦手を止め二階に消えていった二人のことを思ったが。
「まっ、いっか。多分大丈夫でしょう。」
そう言ってすぐに査定作業の続きに取り掛かっていった。




