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村人、ツッコマれる

 早朝、冒険者ギルド


 ‘ざわ ざわ ざわ ざわ ざわ’


 冒険者ギルドの朝はとても騒がしい。


 その理由は新たな依頼書が冒険者ギルドのクエストボードに貼られるのは大抵早朝であるため、多くの冒険者達が割りの良い依頼を受けるために早朝に集まるのである。

 




 そんな中


「うーん・・・割りのいいのはもうないか・・・・」


 数枚の依頼書が貼られているだけとなったクエストボードを見上げながらそう呟くルールリア。

 彼女はパーティーを組まないソロの冒険者のため、あまり割りのいい依頼書に執着はしないが、それでも日々の生活のためになるべくいい依頼は受けたいというのは当然のことである。


「まあ、無くてもしばらくは困らないほど・・・いや!だめだだめだ!あのお金はいざという時にとっておかないと!」


 小さくそう呟いながらルールリアは昨日ガロンから半ば無理やり渡された金貨の残り二十枚を浮かべるがすぐに首を振ってその考えを否定する。

 ちなみに金貨一枚あれば五人家族の農民が一ヶ月余裕で暮らせるほどの金額であるが、ルールリアは孤児院出身で、血がつながらないがまだ小さい弟妹達の世話をするための金が必要で冒険者になったため知らず知らずのうちにハイリターンな依頼ばかりをこなしては孤児院に全額入れていたため貧乏性が身についているのであった。ちなみにこの前の借金もその関連である。


 そんなルールリアの後ろから彼女に声がかけられた。


「やあ、ルールリアこんな時間に珍しいね!」


 そう言って声をかけてきたのは、金髪高身長で、兜はつけてないがそのかわり王冠のような額当てをつけているフルプレートの騎士のような出立のイケメンである。

 そんな彼の後ろには複数の様々な種族の女性が控えておりその全員が顔がいい、いわゆるハーレムパーティーというやつである。


 そんなハーレムパーティーの主人である金髪イケメンに声をかけられたルールリアはというと


「げ!!」


 心底嫌そうな、それこそ踏み潰されてぐちゃぐちゃになった虫を見るかのような目付きと顔で距離をとる。

 しかしそんなルールリアにお構いなしと言わんばかりに金髪イケメンはズカズカと近づき、ルールリアの手を取り


「もしや依頼をお探しかな?だったら僕のパーティーに入って一緒に火竜を狩りに行かないかい?」


 そう誰もが認めるイケメンスマイルを浮かべながらルールリアにそう提案するが、ルールリアは彼の手を振り払い


「いえ、お構いなく。ちょうど私はこの依頼を受けるので」


 そう言ってクエストボードから一枚の紙を剥がし金髪イケメンの前に突き出し見せるが


「照れなくてもいいよそれにルールリア、君には血の繋がらない弟妹達を養うためにお金がたくさん必要なんだろう?僕のパーティーに入ればそんな問題すぐに解決できるよ。だからほら・・・」


 金髪イケメンは依頼書を突き出すルールリアの手を掴みゆっくりと顔を近づけるが



 ‘ザワ! ザワ! ザワ! ザワ!’


 にわかに冒険者ギルドの入り口部分が騒がしくなった。金髪イケメンがそちらの方に気づき顔を向けた隙にルールリアは未だに掴んでいる彼の手を無理やり解き逃げようと動くが


「あれ?ルーさん?」


 昨日つけられ、未だ頭から離れない自身のあだ名とそのあだ名をつけた彼の声にルールリアは逃げる足を方向転換させ入り口に向かって動くと、そこには


「おはようございますルーさん。」


 そう言ってルールリアに挨拶をする人物は。

 まだ一日半しか見ていないが、ルールリア頭に残って離れない見覚えのある仮面を被った男、ガロンがいることに気づきルールリアは


「おはよう、ガロンくん!」


 まるで太陽のような明るい笑顔をしたしながらガロンに返すように挨拶をする。


 すると


「「「「「「グハッ!!」」」」」」


 周りで様子を見守っていた冒険者達が比較的年齢の高いものを筆頭に胸を押さえ膝をつく


「え? ええ?!!なんで?!!」


 周りの冒険者の様子にルールリアは頭にハテナを浮かべ狼狽えるが、ガロンは手を仮面の目の部分に当てギルドの天井を仰ぎ見ると


「ルーさん、それは不意打ちすぎる」


 そう静かに呟き、そんなガロンの呟きにルールリアは更に困惑する。

 

 しばらくしてなんとか復活できたガロンは、未だ胸を抑えている冒険者達を尻目に、ルールリアに話しかける。


「いやはや冒険者になって一日目に精神攻撃を受けるとは思いませんでしたよ ははははは!」


 そう軽口を叩いて笑うガロンにルールリアは耳と尻尾をピン!とたててガロンに慌てて近付き、ガロンの身体を確認しながら


「精神攻撃?!!いつ受けたの?!!大丈夫?!!後遺症とかない?!!」

「いや!大丈夫なんで!!ほんの冗談ですから!!」


  そう言ってガロンの体を隅々まで隅々まで確認していたルールリアはガロンの『冗談』という言葉で途中で我に帰り、すぐさまガロンの体から手を引き離し恥ずかしそうに顔を赤くして耳と尻尾も‘へにゃん’とさせていた。

 そんなルールリアを見ていた周りの冒険者、特に高齢の、といっても三十代四十代それ以上の人たちからニヤニヤした表情とか「ルールリアにも春が・・」という嬉しそうな言葉とか「あの小僧どこのどいつだ?!」という怒ったような声が聞こえてきた。

 幼いころから冒険者として活動してきたルールリアはエルドラの冒険者達の中では娘や妹のような存在であった。

 そんな娘があんな太陽のような笑顔を見せる相手に三者三様の思いを抱きなが見ているとクエストボードの方からズカズカと足音を鳴らしなが来る存在にその場にいた全員が気付いた。

 それは先程ルールリアをパーティーに誘っていた金髪イケメンで、その表情は誰が見てもわかるようにムスッとしていた。


 その金髪イケメンはガロンの前に立つと


「貴様!俺のルールリアから離れろ!」

「・・はい?」


 そう言ってガロンに指をさすが、ガロンは間抜けな返事をしていつの間にか背中に隠れるように移動していたルールリアに『そうなのか?』と確かめるような目線を送る。

 そんなガロンの目線に気づいたルールリアは思いっきり頭を左右に振って否定をする。


「違うってルーさん言ってますけど・・・あなた一体誰ですか?」

「何?!・・・なるほど僕を知らないか・・なら教えてや」

「あ、別にいいです興味ないんで。それよりも通行の邪魔なのでさっさと移動しませんか?」

「おい!言わせろ!俺はAランク冒険者『千隊』のパンブール・カンブルーだ!!」

「え?『変態』のパンツー・カブルー?すごい名前ですね」

「「「「「「ぶふ?!!!!」」」」」」


 カンブールと名乗った金髪イケメンだったが、ガロンの聞き間違えにより不名誉な二つなと名前が出てきてそれに耐えきれず数名の冒険者が吹き出し受付嬢も数名が顔を伏せてプルプルしている。


「パンツー・カブールじゃない!パンブール・カンブルーだ!」

「バンブー・カンガルー?」

「違う!パンブール・カンブルー!」

「パンパース・ダンベルー?」

「だから!パンブール・カンブルー!」

「それよりもなんで頭に金属のパンツかぶってるんですか?」

「「「「「「ぐふうう?!!!!・・・・ぷっははははははは!!!!」」」」」」


 何回か間違えるたびに周りでは小さな笑い声が起きていたが、最後にガロンが言ったその言葉でなんとか笑うのを堪えていた冒険者達は我慢しきれず笑い出した。

 ちなみにガロンだけは分からず頭にハテナを浮かべているが後ろに隠れていたルールリアはガロンのマントに顔を埋めながらプルプルと笑っていた。


 しかし当の笑われている本人は顔を真っ赤にして憤怒の形相をしながら自身の腰に下げている剣に手を掛けようとするが。


「・・・・おい」

「?!!」


 ガロンの底冷えするような声に目に見えないプレッシャーと緊張感によりその場が一瞬で静かになる。特にガロンの目の前にいるカンブルーは自然と体が震えてはいるがAランク故なのか未だ剣に手を添え今度は警戒している。そんなカンブルーをガロンは仮面越しでは分からないがじっと見続け静かに声を出す


「その剣・・抜くのか? 抜くならーーー」

「!!」


 ガロンの最後の言葉は聞こえなかったがカンブルーの『魂』は聞こえていた。曰く『殺すぞ?』っと。耳には聞こえないが人間最大の本能と奥底にある『魂』が告げる警告が何よりも現実を帯びカンブルーは静かにその剣から手を離せば先程まで重苦しく広がっていたプレッシャーが霧散した。

 プレッシャーが霧散したことによりカンブルーは詰まる息を吐き出し浅い呼吸を繰り返して自身を落ち着ける。しかしカンブルーの取り巻きの女達は腰が抜けたものまでおりその場でへたり込むものもいた。


 カンブルーがチラリと後ろを振り向き女性の様子を確認しもう一度正面を向くとそこにいつのまにかガロンが立っておりカンブルーは驚き逃げようと体重を後ろに下げるがその前にガロンがカンブルーの両肩を掴み。


「調子に乗んな・・・」


 ただその一言、その一言でカンブルーの中の何かが音を立てて壊れた。

そしてガロンの手が離れた瞬間全力で逃げようとするが


「待て!!」

「?!!」

「あいつら置いていくのか?大事な仲間だろうが?」


 そう言ってガロンは未だへたり込む取り巻きの女達を指差し


「大事な女置いていくようじゃ、冒険者どころか男としても終わるぞ?いいのか?」


 そう言うとカンブルーはハッとなりおずおずとガロンの目の前を通るとすぐさま女性達の前に座り込み何か話はじめたかと思うとそのまま女性達を連れて顔だけこちらを向けて軽く会釈しギルドを出て行った。


 静かになったギルドの中、ガロンはゆっくりと歩くと


「初心者用の依頼ってどれだ?」


 クエストボードの前で何もなかったかのように依頼を探し始めた。


「「「「「「「「「「「いや!お前初心者だったのかよ!!」」」」」」」」」」


 その時ギルドの中にいた冒険者のツッコミは、みごとにハモっていたのだった。


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