村人、取り敢えず宿を決める
時刻は夕方人々が家にかるか帰らないかの時間帯
辺境都市『エルドラ』 その中心部にある冒険者ギルドでは騒ぎが起きていた。
エルドラの住民達は、また冒険者達が酔って暴れているのかと思い通り過ぎようとするが、よく聞けば騒ぐと言うよりもどこか慈悲を乞うような声がするので一部の住民達は怖いもの見たさに冒険者ギルドの窓やドアの隙間から中を様子見するため集まっていた。
そこには
「金貨五十枚払ったんだ!もういいだろう?!!」
「そうだそうだ!もう俺たちに売れるもんはねえぞ!」
そう抗議の声を上げるパンツ一丁の五人の男達がいた。
その目の前では仮面をつけた男、ガロンが男達から剥ぎ取った装備の山の上に座りながらそんな男達を見下ろし
「何言ってんだ?金貨五十枚は一人分だ。お前達は五人だから二百五十枚。あと二百枚足らねえぞ」
「そ、そんな金あるわけないだろう?!!」
そう言ったガロンにパン一の一人が反論するがガロンは鼻で笑った
「ないならつくれ。冒険者だろう? それとも・・・」
そう言ってじわじわと五人組を追い詰めるガロン。その姿は変わらないが、背後には鬼神が見える気がしてもはや借金取りを超える怖さが出ていた。
そんな借金取りガロンとパン一の五人組というおかしな状況の中。ガロンの後ろにいたルールリアがガロンに声をかけた。
「ガロンくん、そろそろやめてあげたら?流石にかわいそうだし・・・」
そう言ってガロンにこれ以上はやめさせるようにお願いするがガロンはそんなルールリアに視線を移し
「ダメですよルーさん。この人たちは人が手に入れたお金を横から掻っ攫おうとしたどころか大変なルーさんの弱みに漬け込んで酷いことをしようとしたんですよ?ならその分のツケはこれだけ払ってもまだ全然足りませんよ」
そう言ってルールリアを見る。そんなガロンにルールリアはちょっと嬉しくなったのか耳と尻尾をパタパタとさせ心配してくれた事への嬉しさを隠しきれないように顔がにやけるが、カウンター越しにジト目をしてくるケイティーに気づきハッとなり頭を左右に振ると
「わ、私は全然気にしてないから!だからもうやめよう?ね?」
そう言ってガロンに同意を求めるように言うルールリア。そんなルールリアにガロンは少し考えたあと小さく「分かった」と呟くと、また五人組の前に立った。
そして怯える五人組の前で
「良かったですねあなた達。あなた達のことをここにいるルールリアさんは許してくれるそうですよ。ですので一人金貨五十枚の話は無しにしましょう」
その言葉で五人組は安堵の顔を浮かべるが、ガロンが「ただし・・・」と言葉を続けると
「俺達に報復とか復讐とか考えて襲ってきたら、その時は・・・・言わないでもわかるよね?」
そう言って五人組に釘を刺すと、五人組は顔を真っ青にさせ鼻水を流し目に涙を溜め怯えながら勢い良く首を振った。
そんな五人組に反抗の意思がないことを確認したガロンは五人組に「行け」と、合図すると五人組は装備の山から素早く自分の装備を見つけて抱え、一目散に冒険者ギルドから外に出て何処かへ行ってしまった。
「ここまでやったら、流石にもう絡まれませんよね」
「いや、やりすぎじゃないガロン君?」
五人組が去ってからガロンが呆気らんかにそう言うとルールリアがそう言ってガロンを嗜める。
しかし当のガロンはというと
「え?これでも十分手加減したんですけど。」
「・・・え?いやでも、流石に金貨二百五十枚はあのあの人達じゃ払えないって見てわかったでしょう?」
「はい、でも我が家の母曰く『借りてもないのに金を要求する輩なら、いくら搾り取っても問題無い!後悔するまでやれ!』って言われているので」
「(そのお母さん何者・・・)」
「それに俺自身人の弱みにつけ込む輩は一番嫌いなので・・・ちょっと大人気なかったかな?」
そう言って後ろ頭を誤魔化すように掻くガロン。そんなガロンの言葉にルールリアは心なしか顔を赤くして口を開こうとするが
「そこの二人、当ギルドでイチャイチャしないでください」
「?」
「い、イチャイチャなんてしていないよケイティー!!」
カウンターで頬杖をつきながらジト目でこちらを見るケイティーがそう言うと、ガロンは「なんのことだ?」と言わん表情をし、ルールリアは完全に顔から煙が出そうなほど真っ赤にしながら慌てて否定する。
そんな二人にケイティーは「はー・・」とため息を吐き
「ルールリアには後でじっくりと喋ってもらうことにして」
「な、何を?!!」
「ガロンくん。君、宿はもう決めているの?」
「ねえケイティー無視しないで!ケイティー!」
そう叫ぶルールリアを無視してケイティーがガロンにそう聞く。ガロンは未だ騒ぐルールリアをチラッと見た後『放っておいていいのか?』と言わんばかりの視線を送るがケイティーはそれを未だ騒ぐルールリアの口を塞ぎ静かにさせる
「むが?!むがーー?!」
「はいはいおとなしくしてねー、で?どうなの?」
そう言って再度聞きにくるケイティーにガロンは取り敢えず答える。
「え、えーっと。まだ着いたばかりで決めていません。」
そう言って答えるとケイティーは‘あちゃー・・’と言った表情になり
「もしかしたらもう宿取れないかもよ」
「え?」
そう宣言するケイティーにガロンはキョトンとした表情をする。そしてケイティーがその訳を話し始めた。
「今この国では例の悪竜討伐の報道とドルト王国のギルド汚職事件せいか一発逆転やギルドマスターの後釜を狙って冒険者になる人たちが多くてね。このエルドラも例に漏れず連日冒険者志願の子がたくさんきたわけ。さっき君に絡んでお金巻き上げられたあの五人組も一週間前に冒険者になった新人でね、元傭兵だからそれなりに実力があるんだけど・・・おっと、話が逸れたね。取り敢えずギルド直営の宿も民営の宿もどこも一杯で撮れる場所がないんだよねー」
「マジか!!」
そこまで聞くとガロンは急いで宿を取るためにダッシュで冒険者ギルドを後にした。
「だから・・・・あれ?」
そこまで言って目の前からガロンが消えたことに気づいたケイティー。その隙にルールリアがケイティーの拘束からにげ「ゲホゲホ」と一度咳き込みしゃべる
「ガロンくんならさっき急いで出たけど「本当に?!」うわ!」
「ああ〜くそ!気が早いのねあの子!せっかくルールリアのいる場所に泊めてもらえればいいって言おうと思ったのに!」
「ちょ?!何言ってるのケイティー?!そんなこ」
「だまらっしゃい!!あんなわかりやすい表情しているルールリア見たら、ちょっとやってみたくなるでしょうが!そのまま一緒に寝起きしていつのまにかくっついて結婚しやがれ!そして爆発しろ!!」
「な、ななななななな何を言ってるのケイティー!!!それにまだけお互いのことまだ何も知らないし・・・・」
「はーー?!!あなたコボルトでしょう?!!だったら奥底に眠る獣起こしてやってしまえ!!バーカ!バーカ!」
「ちょ?!ケイティー?!何言ってるの?!ここギルドだよそんな大声出したら・・」
その後奥の部屋から出てきた大柄な受付長に殴られたケイティーは奥の方へと連れて行かれ、事情を聞かれるためルールリアも一緒に連いてくるように言われルールリアは大人しくギルドの奥に消えて行った。そして解放された時にはルールリアとケイティーはげっそりとしており、外は真っ暗だったそうだ。
一方ギルドを出たガロンはと言うと
「はあー〜どこも一杯で見つからねーー・・・」
宿を探すもどこも一杯で流れに流れて街の奥へとどんどん進み煌びやかな場所からちょっと入った暗い路地の中にいた。
当然そう言う場所は治安が悪いのだが
「おい金をだゲボ?!!」
‘ゴソゴソ! チャリンチャリン! ’
「金は増えるが宿見つからねー・・はーー・・」
ガロンは出てくる強盗を尽く気絶させ身ぐるみをはいでいった。
後日、気絶させられた強盗達は衛兵達に見つかりそのまま捕まえられ、エルドラの犯罪発生率がグンっ!と減ったのだがガロンは来たばかりだったので知ることはなかった。
そうこうしているうちにガロンは裏通に出ると一軒の宿を見つけた。
そこは看板が異様にデカイくらいで特に変わった感じはしない普通の宿屋に見えるがガロンは断られないことを祈り店の扉を開く。宿の中から最初見えたのは壁、そしてその向こうにはちょっと大きめの廊下と階段が置いてあるだけで殺風景な宿であった。
「いらっしゃいませ〜〜」
間延びしたような声が聞こえそこに目を向けるとそこにはタバコをくわえ眼鏡をかけたぱっと見派手な女性がカウンターに肘を突きながら座っていた。
「あの、泊まりたいんですが・・部屋空いてます?」
そう言って恐る恐る聞いてくるガロンに女性は目線を上げニヤッとすると
「空いてるよ。一泊銅貨十枚」
「安!!!!」
そう言って空き室があるのと値段を聞いてガロンは驚きの表情をする。
「相部屋になるからね。安いのは当然さ」
そう言って手を出す女性にガロンは慌てて懐から銅貨十枚を出し乗せると、女性はカウンターの下から一枚の板を出すと壁に貼っているボードに貼り
「はいそれじゃあお客様の部屋は201号室ね。相部屋の子がいるから注意してね。」
そう言って二階に続く階段を指差した。それにつられガロンは階段を上り廊下を進み、言われた201号室の扉をゆっくりと開け中にに入る
「あ、もういるんだ」
小声でそう言うガロンの視線先には相対する壁際と壁際にベットが置かれており、その片方が盛り上がり静かに上下していた。
ガロンは同部屋の相手を起こさないように静かに部屋に入ると、ベットに腰掛け装備を外し、仕舞ってラフな格好になってからベットの上に寝転がった。
そして今日起こったことを思い出しながらふと口に出す
「明日から俺も冒険者だ!」
そう小さく決意したような声をあげガロンはゆっくりと目を瞑り、明日に備えて眠りについた。




