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村人、晩飯を狩る

 本日の晩飯を探しながら入り組んだ樹木の間を駆け抜けるガロン。しばらくすると目指す先から大きな咆哮が聞こえ同時に何かが倒れるような音がした。


「? 何かと闘っているのか?」


 争うような音は聞こえないのでその考えは頭から振り、払いガロンは更にスピードを上げ音がした目的地へと駆けて行く。



 それもこれも本日の晩飯のために。



 しばらくするとガロンは不自然に倒れている樹木を発見し、その先にいる巨大な『何か』に目をつけた。


「gurururururururururu・・・・」


 静かにこちらを向いて唸る巨大な『何か』にガロンは何かを確信する。

 するとそんなガロンの足元。いや、近くで不自然に倒れている樹木の切株部分から声が聞こえた


「逃・・・げ・・・て・・」


 小さくか細く、しかしどこか必死さを匂わせるその声の主は、今にも死にそうになって切株にもたれかかっているコボルトの女性のものであろう。しかしガロンはそんなコボルトの言葉よりもまず目の前にそびえ立っている巨大な何かに向けてただ一言呟いた


「晩飯見っけ」


 そう言ったガロンの目は誰がどう見ても捕食者の目であり、その覇気は微塵の敗北も考えずただ目の前の巨大な何かを捕食する捕食者の覇気があった

 そんなガロンの雰囲気と目が気に障ったのか目の前の巨大な『何か』はイラついたかのように息を吸い込むと。


「gaaaーーーーーーーーーーー!!!!」


 その巨大な顎門から咆哮ではなく濁ったような白い光線を吐き出した。

 その光線は真直ぐにガロンに向かって突き進みガロンが立っていた周辺を吹き飛ばすが


「おるあ!!」

「gaaa?!!」


 いつのまにかガロンは近くにいたコボルトの女性をお姫様抱っこして、そのままその巨大な『何か』の懐に潜り込み未だ光線吐いている顎門を下から思いっきり蹴り上げた。

 蹴り上げられた『何か』の顎門は強制的に閉じられ逃げ場を失った光線の威力は『何か』の口の中を蹂躙し爆発する。『何か』の顔が煙に覆われたその瞬間にガロンはそこから気配を消して移動した。


 爆発の煙が晴れるとそこには無傷な姿の『何か』が目を真っ赤にさせ怒り狂ったように吼えながら周りにある全てを破壊し自身をコケにしたガロンを探していた。



 一方そのガロンはと言うと。


「これでよし!っと」


 暴れている『何か』からかなり離れた場所で先程まで抱えていたコボルトの女性に応急処置をしていた。本格的な処置は今の状態では難しいのでガロンは気を失っている女性には悪いがの命に関わるような傷のみをガロンの判断で厳選し処置をしていた。無論その傷の中に胸回りも入っているのだがガロンはなんとか鋼の精神で無心で処置をして事なきを得た。ガロンもまだ若い、それなりに女性には興味があるのであった。


 それはともかく、ガロンは処置が終わるとゆっくりと未だ気絶しているその女性をその場で寝かせると懐から一つの仮面を取り出し被った。それはガロンのルーティンみたいなものでこの仮面をつけると落ち着いて動けるため狩りの際にはいつも被っているものである。そんな仮面を被るとガロンはすぐに移動する。向かうは未だ破壊音がする『何か』が暴れている場所へ。







 ガロンがそこに着くと景色が一変していた。

 樹木によって鬱蒼としていた樹海がその部分だけまるで刈り取られたかのようにきれいになくなっており所々焦げついたような跡やクレーターがチラチラ見えていた。そんな開けた場所の真ん中に目を真っ赤にした『何か』がこちらを睨みつけるように立っていた。


 樹木がなくなったことにより、今まで所々見切れていた『何か』の全体が全て見えるようになっていた。その姿はなんと言ったらいいのか二足歩行をしたトカゲが巨大な顎と背中に水晶のようなキラキラと光る鉱物のような背ビレを持ったような姿をしていた。

 そんな『何か』の姿にガロンはどこか見た覚えがあるような気がして少し考えるが、『何か』は無視していきなりノータイムで光線を放ってきた。


「GURUAAーーーーーー!!!!!!」


 先程よりも太く眩くなっている光線をガロンは難なく避けながら思い出した。


「思い出した!こいつ『レーザーサウロス』だ!」


 『何か』、いや『レーザサウロス』は何事もなく避けまくるガロンに苛ついたのか光線を吐く口をそのまま動かしガロンを追うように追尾する。

 しかしガロンもそんな光線を振り切りレーザーサウロスを半回転させた後一気に間合いを詰めて先程と同じように顎をかち上げようと飛び上がる。

 しかしレーザーサウロスも学んだのかそんなガロンの攻撃を回転で避け返すように尻尾で打ち払おうと回転の速度を上げた。近く尻尾にガロンはタイミング良くしっぽを手で叩きレーザーサウロスの頭上を飛び越えるように動くとそのまま勢いをつけてレーザーサウロスの脳天にその拳骨を叩きつけた。


「くらえ!!」


 ‘ゴンっ!!!!!!’


 どう考えても生物が生物を殴った音じゃない音をさせながらレーザーサウロスの頭が少し沈み、ガロンの拳が離れた瞬間弾かれたかのようにレーザーサウロスが『gurua?!』と短い悲鳴を上げながら頭がのけ反り一歩二歩と後ろに向かって後退する。

 その後レーザーサウロウスは頭を左右に振り怒り狂った目でガロンに視線を向ける。自身に一度ならず二度も拳骨を喰らわせたガロンを喰い殺さんと助走をつけガロンに迫るレーザーサウロス。目と鼻の距離となったガロンを見て表情のない顔でありながらも笑ったかのように見えたレーザーサウロスは次の瞬間空を向いていた。


「ga?!」


 そして遅れてやってくる下顎の痛みにレーザーサウロスはまた蹴られたのだと理解したが、次の瞬間には全身に違和感が広がりはじめた。


「guruaaaa?!!」


 痛みではない、訳も分からないような感覚が全身を這うように来る状態にレーザーサウロスは不快な気持ちとなり困惑の声を上げた。

 その原因はガロンである。ガロンはレーザーサウロスの下顎を蹴り上げた後レーザーサウロスの全身を殴っては移動し殴っては移動しどう見ても致命傷にはなっていない攻撃を繰り返していた。

 そんな致命傷にならない攻撃にレーザーサウロスは段々と苛立ってきたのか今度はその体を無茶苦茶に暴れさせ自身の周りをうろちょろと動き回るガロンを潰そうとした。


「goaaaaaaaaaa!!!!!!!!」



 レーザーサウロスはその巨大な足で踏みつけ、重い尻尾を振りまわし払い除け、強靭な顎を持って噛み砕き、強固な体で押しつぶそうと暴れまくる。


 しかしガロンはそんなレーザーサウロスの攻撃を、時には避け、時には打ち払い、時には受け流し、時には打ち落とし全て迎撃する。その間もその拳でレーザーサウロスの体を殴り続けていた。









 そしてその瞬間は唐突に来た



 ‘ガクンッ!’


「gua?!」


 突如レーザーサウロスの強靭な二本の脚から力が抜けた。いやギリギリで踏ん張りなんとか立っているレーザーサウロスだがもはや先程のような動きができないようになっていた。 

 

「ようやく効いたか」


 そう言ってガロンは動きが悪くなったレーザーサウロスに向かって肉薄する。


 何故レーザーサウロスの足から力が抜けたのか。その答えはガロンがやっていた攻撃にあった。ガロンのやっていたレーザーサウロスの全身を殴る作業は所謂肉を叩いて柔らかくする調理の作業と一緒であり、全身を均一で叩くことにより神経を麻痺させかつ自立するための筋肉を柔らかくさせ硬い敵を切りやすくす、かつ一時的に動きを止める、拘束調理術である。

 ちなみにこれはガロンが幼き頃ハロンに教えてもらった技の一つでもあった。


 そんなとんでも技を全身に受け力が入りづらいレーザーサウロスに向かいガロンはその拳をレーザーサウロスの目と目の間、所謂急所に突き入れた。


 ‘ゴオン!!’


「っつ・・てええーー?!!」


 しかしガロンの拳はまるで鉄を殴ったような音をさせた後その拳から薄らと血が流れ出す。逆にレーザーサウロスの体には傷一つどころか全身を鉱物みたいな背ビレのような甲殻で覆っていた。


「いってー・・まだそんな奥の手隠してたのかよ。しかもあれ“ブースト”か?」


 見ると甲殻に覆われたレーザーサウロスの全身が薄らと光っており、先程まで立っているのがやっとといった感じの脚はしっかりと地面を踏んで立っていた。


「gururururu!!」


 「してやったり!」と言わんばかりに喉を鳴らすレーザーサウロスは奥の手であるその硬くなり強化された体をゆっくりと沈め突進の姿勢をとった。

 そんなレーザーサウロスにガロンは


「だったらこっちもやるか」


 そう言ってガロンは血を流してない方の手を背中にまわし何かを掴む。その瞬間レーザーサウロスの引き絞られた全身のバネが一気に解放され物凄いスピードとなってガロンへと突っ込む。

 ガロンはそんなレーザーサウロスの前から片手を背中に回し、腰を落とした状態で一歩も動かずにいた。

 そしてレーザーサウロスの顎がガロンへと襲い掛かろうとしたその瞬間


「ーーー“斬・残葬”!!」


 ガロンが本来の自身の武器を振るう。交差するかの如く振り抜かれたそれはレーザーサウロスの(・・・・・・・・・)首を切り裂き紅い鮮血がまるで花吹雪のように宙を待った。



 ‘ぐらっ・・・’


 ‘ズドオオオオオン’



 そしてワンテンポ遅れてレーザーサウロスの体が音を立てて地に沈んだ。

 

 

 一向に立つ気配のないレーザーサウロスにガロンは自身の本来の武器、『鎌』を肩に乗せて言い放つ。


「今日の晩飯ゲット!」


 誰もいない中ガロンのその言葉は暗くなりつつある空に静かに消えていった

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